結婚詐欺

下東 良雄

第1話 邪悪な微笑み Evil Smile

 狭いワンルームマンションの一室。

 部屋を大きく占拠するベッドには、大きなクマのぬいぐるみが置いてある。

 そんな部屋で、住人と思しき背中まで伸びた長い黒髪の若い女と、スーツ姿で顎髭を残した茶髪短髪の三十代くらいの男が抱き締め合っていた。ふたりとも笑みを浮かべている。


「愛してるよ、美沙稀みさき

あつしさん、私も……」


(まぁ、愛してるのはお前の金だけどな)


 美沙稀を呼吸が止まるほど強く抱き締めながら、敦はほくそ笑んだ。


 敦の持つ欲望という名の胃袋は常に空腹状態。女性を騙すことで、自分の自尊心をも同時に高めていける結婚詐欺という捕食手段は、敦にとって日常であり、当たり前のことになっていた。



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