十 デモンストレーション
グリーゼ歴、二八一五年、十一月十三日。
オリオン渦状腕深淵部、レッズ星系、惑星シンア。
静止軌道上、巨大球体型宇宙船〈オリオン〉。
レッズ星系の惑星シンアと惑星ロッカールは、惑星ナブールのナブール政府を支援している。
今、戦艦〈オリオン〉が、その巨大艦体の下に、〈オリオン〉の十分の一の戦艦〈ホイヘンス〉を吊り下げるように捕捉したまま、レッズ星系の惑星シンアの大気圏に現れた。
〈ホイヘンス〉は、直径四キロメートルの惑星移住計画用の球体型宇宙戦艦だ。
〈オリオン〉は惑星移住計画用の球体型宇宙戦艦、直径四十キロメートル。装備も兵器も〈オリオン〉が遥かに上まわっている。
〈オリオン〉は多重位相反転シールドに包まれている。これに対して〈ホイヘンス〉はシールド発生装置を破壊されて艦体を防御するのは艦体隔壁だけだ。
大気圏に現れた〈オリオン〉は艦体下部に〈ホイヘンス〉を捕捉したまま、惑星シンアの地表へ降下し、海から大陸へ飛行した。
〈オリオン〉の飛行で発生した気流が海水を巻きあげて潮流を発生させ、それらが大陸へ押しよせた。〈オリオン〉の巨大艦体は、艦体下部に捕捉した〈ホイヘンス〉で都市建物をなぎ倒し、潰して破壊し、バウンドする如く空中へあがり、ふたたび降下して地上のあらゆる物をすり潰して飛行した。惑星シンアの地上を舐めつくしても、ロドニュウムの外殻隔壁から構成された〈ホイヘンス〉の艦体は健在だった。
「PD。レッズ星系とベスチ星系に、4D映像を送るよ」
〈オリオン〉のホールで、JはPDに伝えた。
「総統Jですね。準備しましょう」
PDがニヤリと笑った。同時に〈オリオン〉は惑星シンアの静止軌道上へスキップした。
『私は、オリオン共和国の代表、総統Jだ。戦艦〈オリオン〉の提督Jだ。
私はオリオン渦状腕を管理している!』
重武装した巨大な金髪碧眼の厳ついヒューマの女戦士の総統Jの4D映像が、ナブル政府を支援するレッズ星系の惑星シンアと惑星ロッカール、そして、反政府勢力の国民戦線を支援するベスチ星系の惑星コビアンとオセアンと惑星エウロネへ送られている。
『すでに、我々は、将軍ルペソに協力したアッシル星系全惑星を完全に掌握し、石器時代に戻した』
PDが、アッシル星系の惑星ナブール、タクール、サハールの4D映像と、レッズ星系の惑星シンアの4D映像を、レッズ星系とベスチ星系へ送った。
4D映像が厳つい巨大ヒューマ女戦士の総統Jに変った。
『争いをくりかえすお前たちラプトに、テクノロジーは要らない。
アッシル星系、レッズ星系、ベスチ星系から全てのテクノロジー奪い、居住施設だけにする』
と宣言して4D映像が消えた。
映像が消えると同時に、PDは、レッズ星系とベスチ星系の全テクノロジーを破壊消滅するようにプログラムしたヒッグス粒子弾を、レッズ星系とベスチ星系へスキップした。
ヘリオス星系、グリーズ星系、デロス星系、リブライト星系、モンターナ星系、そして、アッシル星系、レッズ星系、ベスチ星系など、オリオン渦状腕深淵部の主な星系から、獣脚類が支配する悪質な政権が消えた。
「〈ホイヘンス〉のスキップドライブとPDドライブは生きてるの?」
JはPDを見た。
「ヒッグス粒子弾で、〈ホイヘンス〉はシールド発生装置と電磁パルス砲を破壊消滅しただけです。
他の兵器は生きてます。〈オリオン〉の多重位相反転シールドを考慮して、〈オリオン〉を攻撃しないだけです」とPD。
「今ここで、〈オリオン〉が牽引ビームを解けば、ホイヘンスはどうすると思う」
「オレなら、オリオン渦状腕の外宇宙へ逃げる。あるいは・・・・」とカムト。
「ほかに方法があるのか」とD。
「あるベさ」とK。
「ホイヘンスが惑星ダイナスから、惑星ナブールに逃れた方法だね」とJ。
「モーザで移動するのか?モーザを惑星間の亜空間スキップしかできないようにしたんだろう?どこへ逃げるんだ?」とD。
「たくさんいるラプトの中だよ」とJ。
「お袋が言ってた。木は森に隠せってね」
そう言ってカムトが考えこんでいる。
PeJがカムトの精神思考を読んで言う。
「カムトは、ホイヘンスがへリオス星系へ逃げると考えてるよ。
ねっ、カムト~!」
〈⊿2〉に搭乗していた時はJに同期していて、あまり個性を発揮しなかったが、今は単独のPeJだ。
カムトが笑顔でPeJに目配せしている。
「そういうことだ。オリオン渦状腕深淵部の星系が〈オリオン〉に制圧された。
オリオン渦状腕ではない他の渦状腕へ逃げるか、ヘリオス星系外のオリオン渦状腕外縁部へ逃げるだろう・・・」
〈ホイヘンス〉やモーザのスキップドライブが有効に機能するのは、惑星間あるいは近接した星系間だけだ。オリオン渦状腕の外宇宙までのスキップは不可能だ。
亜空間スキップして近接星系間を経由してへリオス星系を越え、オリオン渦状腕外遠部へ逃れるしか道はない。
「PDはどう思う」とJ。
「ダークマターから生まれたのですから、ダークマターに戻しましょう。
クラリックの次席アークはアーク・ルキエフ(ホイヘンス)だけではありません。他にも消滅させねばならないアークがいるのですよ」とPD。
「わかった。ホイヘンスをダークマターに戻してね。
ついでに、アーク・ヨヒムたちも、ダークマターに戻してね・・・」
JはPDの記憶から、ニオブとしてのJの両親たちに敵対した勢力の首謀者、ニオブのアーク・ヨヒムを知っている。
アーク・ヨヒムは宇宙艦で亜空間航行態勢に入ると同時に、Jの父母の分身によって、宇宙艦の単一空間を閉鎖されて宇宙艦内を爆破された。宇宙艦の時空間を完全に閉鎖されたまま、今なお、亜空間を漂っている。
「指揮官として正しい決断です。J」
PDは微笑み、そして告げた。
「ヒッグス粒子弾をスキップしました」
5D座標から、〈オリオン〉が捕捉していた〈ホイヘンス〉を示す赤色光彩が消滅した。そして、5D座標と直交している亜空間曲線座標から、アーク・ヨヒムの宇宙艦を示していた一つの黄色輝点が消滅した。
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