第10話現世で放たれる魔王の力

騙されたと勘違いをしたラプロスは、魔王としてのオーラを放ち、

辺りに恐怖を振りまいた。


すると、その場にいた警察官たちの動きは止まり、

言葉を発することもできなくなる。


「う・・・」


「あ・・・が・・・」


必死に声を出そうとする山田の同僚である棚橋だったが

ラプロスが正面に立つと、突然、目の前が暗くなった。


『おい、何が起きたんだ。

 ここはどこだ・・・』


ラプロスの力により、漆黒の闇に放り込まれた棚橋。


現実でも同じように、棚橋の視界は、奪われている。


「何も見えない・・・山田、どこにいるんだ・・・」


手探りで、自身を探す棚橋の姿に驚きながらも、

解放された山田は、ラプロスに問いかける。


「これは、どういうことなんだ?」


「ふんっ、魔王であるわらわを、牢獄に放り込むなどと言うから、罰を与えたまでじゃ」


「罰だと・・・それで、これは治るのか?」


「何を言っておる。


 罰と言うたはずだ。


 こやつは、一生このままじゃ」


その言葉に、愕然とする山田。


目の前の少女が、今の出来事で、普通でないことはわかる。


こんな力を、この世界の人間が、持っているはずはない。


そう考えた山田は、冷静にラプロスに問いかけた。


「ま、魔王・・・様、できればその・・・許してもらえないだろうか?」


「は?」


「あいつが、牢に放り込むと言ったのは、本気ではないんだ。


 言い方は、悪いかもしれんが、

 ここでのルールを教える為に、ちょっと強く言っただけなんだ。


 今後は、きちんと言い聞かせるから、

 今回は、俺に免じて許してくれないだろうか?」


「貴様の顔に免じて・・・だと?」


「ああ、知りたいことは、何でも教える。


 食事にも連れて行こう。


 だから、あいつを許してやって貰えないか?」


悪い取引ではない。


この世界のことを、ラプロスは知らない。


なので、この提案を受けることにした。


「わかった。


 今回だけじゃぞ」


「ああ、感謝する」


ラプロスが、指を鳴らすと棚橋の視界が戻り、山田の顔が見えていることに

声を上げて喜んだ。


「み、見える、見えるぞ」


「そうか、良かったが、少し落ち着くんだ」


大声を上げて喜ぶ棚橋を宥めた後、

山田は、ラプロスへと顔を向ける。


「もうすぐ勤務が終わる。


 それまでここで待っていてもらえるか?」


「おい、約束は、守るんだろうな」


「もちろんだ。


 勤務が終われば、食事にも連れて行くし、聞きたいことも教えよう」


「わかった。


 だが、わらわはのどが渇いておる。


 飲み物を所望するぞ」


「ああ、わかった」


山田は、管内にある自動販売機で、オレンジジュースを購入すると

それを、ラプロスに渡した後、勤務へと戻っていった。


それからしばらくして、制服から私服に着替えた山田が、ラプロスの前に姿を現す。


「待たせたな、じゃあ、行こうか」


山田に連れられ、警察署を出ると、24時間営業のファミレスへと向かった。


ファミレスに到着した山田が、席に着き、ラプロスにメニューを渡す。


「どれでもいいぞ、好きなものを選んでくれ」


そう言われても、この世界の文字は読めない。


「おい、わらわは、この世界の字が読めぬ。


 貴様が、供物を選ぶとよい」


「わかった。


 どんなものが食べたい?」


「肉だな、それとこの世界で旨いと思えるものを選んでくれ」


「わかった。


 文句言うなよ」


「ああ、文句は言わぬ」


言質を取った後、山田は、とあるものを注文した。


しばらくすると、山田の頼んだものが、テーブルに運ばれてきた。


ハンバーグに、エビフライ、角切りにされた小さな牛肉。


1つのプレートの上に、色々なものが乗っている。


「おお、これは良いな、色々なものが食べられそうだ」


満面の笑みをみせるラプロスだが

山田が選んだのは、所謂、『お子様ランチ』。


店員が、お子様ランチと共に置いていったカトラリーの中から

フォークを掴んだ。


「なんとも、面妖なフォークだな」


山田が握っているフォークは、色はピンクで、柄にはウサギ。


そんなフォークで、お子様ランチを食べるラプロスは、

どこから見ても、子供にしか見えない。


深夜のファミレスに、旦那と娘。


傍から見たら、訳あり親子。


店員が、チラチラとこちらを窺っているのがわかる。


だが、ラプロスに、気にする素振りもない。


「なかなかの美味じゃ、おい、これはなんだ?」


ラプロスが、左手に掲げたのは、紙パックに入った乳性飲料。


「これは、飲み物だ」


山田は、ラプロスから受け取ると、パックに張り付いていたストローを剥がし

銀色の部分に突き刺した。


「これは、ストローというものだ。


 ここに口を当てて、吸い込むと中のものが飲めるぞ」


山田の説明に従い、ラプロスが、ストローに口をつけて、息を吸い込む。


「うむ、これもうまい!

 甘くて、何とも言えぬ飲み物だ」


1つ1つの食べ物に、大声をあげて喜ぶラプロスに

周囲からの視線が集まる。


美少女の喜ぶ姿に、好機の視線と共に、携帯を向けてくる者までいた。


その視線に耐えかねた山田が、声をかける。


「お、おい、もう少し静かにしてくれないか?」


「なんじゃ、こ奴らの視線が気になるのか?」


「まぁ・・・すこしな」


「ならば、気にする必要のないように、わらわがしてやろう」


その言葉に、焦る。


「いやいや、何もしなくてもいいから、俺が悪かった。


 何も気にならないから、ゆっくり食べてくれ」


「うむ、貴様が気にならないというなら、そうしよう」


そう告げた後、再び、食事に夢中になるラプロス。


その正面で、山田は、胸を撫でおろしていた。


食事を終え、ファミレスを出たところで、山田が問いかける。


「今日はどこで寝るつもりなんだ?」


その問いに、思い出したように告げる。


「それは、考えていなかったな・・」


「なら、俺の家に来るか?」


その提案に頷き、2人は、山田の住むマンションへと向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る