第9話異世界転移

ラプロスが、降り立った場所には、何やら不思議なものがあった。


鉄でできている様な、異様な物体。


「あれはなんじゃ」


同じ形をしているが、少しずつ、大きさの違う鉄の物体。


鎖と鎖の間に、木の板があり、少しだけ風で揺れている物体。


あと、鉄でできた球体もある。


ここは、何かのトレーニング場所か?


疑問に思いながら1歩踏み出そうとした時、体中に痛みが走る。


「ぐっ・・・」


思わず踏み止【とど】まる。


「そうであった。


 まずは、この傷をどうにかせんとな」


ラプロスが、力を込めると、勇者の力が反応して

大怪我と思われた火傷を、徐々に癒してゆく。


「うむ、流石、勇者の力、いや、勇者、勇気の力じゃな」


癒えた体を確認した後、ゆっくりと歩きだすラプロスだったが

そこに、何者かが光を当てた。


「む、光魔法の使い手か!?」


一気に、警戒するラプロスに、紋章の付いた紺の帽子に、

軍服に似た紺の制服の男が、光の魔法を放ちながら声を掛けてきた。


「ちょっと、話を聞かせてもらってもいいかな?」


──おお、言っていることが理解できるぞ・・・・・

  ならば・・・


「おい、わらわが先じゃ。


 貴殿に問うが、ここは何処だ?」


「何処?

 もしかして、迷子かな?」


「迷子?

 うむ、確かに迷子かも知れぬな」


「そうか。


 お嬢ちゃん、名前は言えるかな?」


「お。お嬢ちゃんだと!!・・・・・まぁよい、答えてやろう。

 わらわの名は、ラプロス・バイオレット・サタン。

 魔王ラプロスとは、わらわのことじゃ!」


「それはなに?

 もしかして、それはテレビか、なにかののヒーローかな?」


1人の警官が、ラプロスに問いかけている間に、後からついてきたもう一人の警官が無線で、何かを話している。


「あーこちら【速水】、南沼公園にて、迷子の少女を保護。

 これより本署に、連行する」



「・・・了解」



速水と名乗った若い警官が、

ラプロスに話しかけていた中年の男【山田】に声を掛ける。


「山田さん、本署の了解も取りましたので、一旦、連行しましょう」


「ん、そうか、わかった」


山田は、本署で保護する為、再び、ラプロスに声を掛けた。


「お嬢ちゃん、ここは危険だから、警察署に行こう」


「ん?

 警察署?」


「ああ、安心できる場所だよ、だから、お巡りさんたちと行こう」


そう言い終えた後、山田が笑顔を見せると、ラプロスは、眉を顰【ひそ】めた。


「安心できる場所だと・・・貴様、

 もしかして、わらわを手籠めにするつもりか!

 先程見せたあの顔も、後のことを妄想し、思わず零れでたものだったのじゃな、

 このロリコンめが!」


「ロ、ロリコン・・・ぷっ!」


思わず吹き出す速水。


一方、山田は、理解が追い付かず、硬直していた。


そんな山田に、ラプロスが追い打ちをかける。


「なんじゃ、図星だったようだな。


 言っておくが、これでもわらわは成人しておるでな。


 残念だったな」


ラプロスが、動きを止めている山田の方を、ポンポンと叩くと

我に返った山田が叫んだ。


「俺は、ロリコンじゃねぇぇぇ!!!」


大声で叫び、我に返った山田は、深呼吸をした後、ラプロスに問いかけた。


「成人なら、身分証を見せてもらえるかな?」


「身分証?

 そんなものは無い」


「では、自宅は?」


「自宅?

 わらわはどうやらこの世界の者ではないので、そんなものは無い。


 貴様が、わらわの為に、用意せよ。


 そうすれば、先ほどのロリコン発言も、忘れてやろうぞ」


「なっ!」


わなわなと震えだした山田に対して、速水が小声で話しかける。


「山田さん、このまま本署に連れて行きましょう。

 

 あそこなら、宿直室があるので、仮眠もとれるでしょう」


「ん、ああ、そうだな」


山田の了解をとると、速水が、山田の前に進み出て、ラプロスと向き合った。


「では、ご案内致しますお嬢さん」


笑みを浮かべて、右手を差し出した速水。


署内でも人気があり、

女性の扱いには自信があるからこその態度だったが

ラプロスは、差し出された手を、ジーと眺めている。


「さぁ、ご案内しますよ」


手を取れとばかりに、強く差し出されていた手を

ラプロスが弾くと、速水の肩の関節が抜けた。


「うぎゃぁぁぁぁぁ!」


あまりの痛さに、のたうち回る速水を放置して、ラプロスが告げる。


「童は幼子ではないぞ、さっさと案内せよ」


「ああ、わかった。

 だが、ちょっと待て」


山田は、のたうち回っている速水を立たせ、

パトカーへと向かって歩き始めると

その後ろをラプロスがついて歩き、パトカーへと乗り込んだ。


山田の運転で、本署に到着したラプロス達。


肩を担がれている速水が、自動ドアをくぐると

残っていた婦人警官たちが駆け寄ってくる。


「速水さん、どうかなさったのですか?」


「速水さん、私が肩をお貸しします」


婦人警官たちは、山田から速水を奪い取ると

そのまま治療の為、奥へと歩き始めた。


その場に取り残される形となった山田とラプロスに、

山田の同僚である警官が声をかける。


「山田さん、その子は?」


「おお、そうだった。

 速水が連絡を入れたと思うが・・・」


「ああ、保護したという少女でしたか。

 

 ならば、こちらへ」


「警官の案内に従い、奥へと進んでいき

 とある部屋に入ると、そこには、2段ベッドが複数設置されていた。


「今日はもう遅い。


 色々聞きたいこともあるが、それは明日だ。


 さっさと寝ろ」


ロリコン扱いされたせいか、山田の言葉使いもぶっきらぼうで、

先程までとは違っていたが、ラプロスは、気にすることなく

言い放つ。


「ここが寝所だということは理解した。


 だが、わらわは、空腹なのじゃ。


 寝ようと思っても、腹が減っていては、おちおち眠れはせぬ。


 何か用意するのだ」


「ここは警察です。


 食堂ではないので、食べるものなどありません。


 貴方は保護されたのですから、大人しくしてください。


 あまり騒ぐと、牢屋に放り込みますよ?」


山田の同僚は、脅しをかけて、

言うことを聞かせるつもりで放った言葉だったのだが

その言葉は、ラプロスの癇に障ってしまう。


「おい、貴様、わらわを牢に放り込むだと・・・

 そうか、わらわをここに連れてきたのはその為か・・・」



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