異世界の魔王、現代に降り立ち正義を貫く

タロさ

第1話 異世界から来た勇者

今こそ、人間界に乗り込むときぞ!!


魔王の号令により、一斉に魔族が動き出す。


この出来事の始まりは、とある国が、勇者召喚をおこない


この世界に、別世界の人間を、召喚したことがきっかけだった。


異世界召喚された男の名は、【聖上せいじょう勇気ゆうき】。


年齢は17歳。


少しオタク気質のある高校生だったが

あるとき、多くの魔法士の手によって

異世界に転移させられた存在である。



「おお!

 召喚に、成功したぞ!」


そのような声が聞こえる中、勇気が目を開けると

そこには、ローブを纏った男達の姿があった。


「な、なに?

 いったい何?!」


状況が飲み込めず、勇気が困惑していると

ローブを纏った男達の間から

両肩を露出させたドレスを着た女性が、前に進み出る。


「初めまして、異世界より参られし、勇者様。


 私は、このルマンド国、第1王女、【ルーラ ルマンド】と申します。


 もし、宜しければ、我々の話を聞いていただき

そのうえで どうか、我らの願いを叶えてくださいませんか?」


「ゆ、勇者?

 俺、勇者なの?」


「はい、紛うことなき、勇者様でございます」


ルーラ ルマンドの言葉を聞き、再び、辺りを見渡してみたところ

ここが、今まで暮らしていた世界とは、違うことが理解できた。


──ここは、本当に異世界なんだ・・・・・・


そう理解した勇気は、なんだかワクワクしていた。


──日本では、少しオタクを齧っただけの平凡な学生だった俺が

  ここでは、勇者なんだ。・・・・・

  人々を助け、この世界を守ることの出来る唯一の存在・・・・・


 魔法も、ラノベで知っているし、

 この世界に来る途中で、出会った神様からも、

 色々と、恩恵を授かったんだから

 負ける筈が無い!・・・・・

 俺は、この世界で無双するんだ!・・・・・



その言葉通り、神様より授かった完全記憶の能力により

勇気は、この世界の事を把握すると同時に

魔法や剣術を、次々と修得した。


そして、この世界に来て、一月ひとつきが過ぎた頃

勇気の実力は、この国の最強戦力でもある軍団長の【バッカス】をも

凌ぐ力をつけていた。


だが、同時に、この頃には、

魔物や魔族の襲撃も増え、

魔王領に近い村や街は、次々と、彼らの手に落ち始めていたのだ。



この事実に、国王は、勇者である勇気の出撃も考えたが

勇気には、まだ、足りないものがある。


それは、仲間。


勇者であっても、魔王軍との戦いでは、何が起きても不思議ではない。


その為、冒険者ギルドと教会は連携し、

3人の同行者を選びだした。


「初めまして、勇者様。


 私は、【ネル】。


 魔法使いです。


 得意魔法は、炎の殲滅魔法です」


炎の殲滅魔法と聞き、勇気は、とあるアニメを思い出し興奮を覚えてしまうが

それを口にする前に、もう一人の女性が挨拶を始める。



「教会より、派遣されて参りました。

 

 プリーストの【メルシィ】と申します。


 回復、補助の魔法は、お任せください」


彼女は、聖職者らしい立ち振る舞いで

如何にも、といった感じの女性だった。


2人に続き、最後に挨拶をするのは

筋骨隆々の男。


「儂は、【アルマンディス】、A級の冒険者だ。


 今後は、よろしく頼むぞ勇者殿」



こうして、3人の仲間を迎えた勇気は、

あまりにも、定番と言えるメンバーに

テンションが上がる。


「僕は、異世界より転移してきた勇者の勇気です。


 僕の使命は、この世界を救い、平和を取り戻すこと。


 みんな、一緒に頑張ろう!」


満面の笑みで、手を差し出した勇気だったが

3人は、その意味が分からない。


「え・・・と・・勇者・・様?」


戸惑う3人を前に、赤面する勇気は、

そっと、手を引っ込める。


「勇者様、今のは・・・?」


「あっ、うん、気にしないで・・・」


「・・・そうですか」


何とも言えない空気の中、

仲間との面会を終えることとなった勇気は、

その翌日から、新たに、仲間となった3人と共に

ダンジョンに潜り、お互いの事を知りながら、

連携を学び、力をつけていき

それから、3か月後・・・

魔王討伐へと、旅立った。


魔王討伐に旅立った勇者一行の戦いぶりは凄まじく

人族の領地に進入していた、魔王軍を、次々と撃破し

奪われていた街や村を取り戻すと

その勢いのまま、魔族領への侵入を果たす。


だが、魔族領に入ってからは、今までとは違い、

激しい戦いが待ち受けていた。


それでも、転移したときに授かった超回復と状態無効のおかげで

勇者一行は、魔族の町や村を破壊しながら進んだ。


しかし、魔王城に近づくにつれ、街や村などはなくなり

人族に害を及ぼす瘴気だけが濃くなってゆく。


そんな中でも、プリーストの魔法を使い、障壁を張ることで

瘴気の影響を、あまり受けることなく進むことが出来たのだが

この状況を、魔王が放って置く筈がない。


勇者一行の前に、四天王の1人が立ち塞がる。


「貴様が、勇者か・・・

 ここまで来たことは、褒めてやるが

 この先には、行かせぬ、覚悟しろ!」


立ち塞がった四天王の1人【バズール】は、

巨大なバトルアックスを構え、勇者達と向かい合う。


当然、勇者一行も、相対するように身構えるが

メルシィの様子がおかしい。


ここまで結果を張っていたせいで、魔力が尽きかけていたのだ。


足取りも朧気で、今にも倒れそうになっているメルシィ。


彼女が倒れれば、瘴気の影響を、勇者である勇気以外の者達は受けてしまう。


「メルシィは、下がって」

 

アルマンディスと共に、バズールの前に立つ勇気。


その後ろにいるネルは、既に、呪文を唱えにかかっている。


──早くこいつを倒して、メルシィを回復しないと・・・・・


焦る気持ちを押さえながら、バズールに突撃する勇気。


アルマンディスも、それに続く。


だが、その後が続かない。


先ほどまで、結界に魔力を注いでいたメルシィが

倒れてしまっていたのだ。


だが、それだけではなかった。


メルシィに続き、ネロも、瘴気にあてられ、地面に横たわっている。


それだけ、この場所の瘴気が濃い。


「なんだ、この程度だったのか!」


吐き捨てるように、言い放つバズール。


「調子に、乗るなよ!」


渾身の一撃を放つため、アルマンディスが、一気に距離を詰める。


だが、アルマンディスも、瘴気の影響を受けており

思ったように、力がでない。


それでも、バトルアックスを振り上げた。


「うぉぉぉぉぉ!!!!!」


渾身の力で振り下ろすが、全力ではない一撃など

バズールに届くはずがない。


あっさりと攻撃をかわしたバズールが

アルマンディスの腕を掴んだ。


「まずは、貴様からだ」


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


掴んでいる腕を、バズールが握りつぶす。


思わず声を上げるアルマンディス。


手にあったバトルアックスも、地面に転がり

もう、武器はない。


この状況に、勇気が助けに入ろうとするが

そこに、もう一体の魔族が姿を見せ、行く手を阻む。


「おい、おい、ここから先は、行かせねぇぞ。


 勇者様の相手は、この俺様だぜ。


それによ、勇者様には、他にも仲間がいたはずだよな」


下卑た魔族の笑みに、勇気は悪寒に襲われる。


──もしかして!・・・・・


慌てて、倒れている2人に、視線を向けると

そこには、下級魔族、ゴブリン達の姿があった。


「ネロ!メルシィ!」


思わず声を上げるが、2人は、横たわっており

返事はない。


ネロとメルシィを取り囲んだゴブリン達が

一斉に、手に持っていた槍を、振り上げる。


「やめろぉぉぉぉぉ!!!」


勇気の叫びが届くはずもなく、

2人に槍が振り下ろされた。


何度も何度も突き刺され、ネロとメルシィが、赤く染まってゆく。


「貴様ぁぁぁぁぁ!」


怒りが頂点に達した勇気が動く。


バズールが振り下ろした斧を弾き飛ばすと

踵を返し、ネロとメルシィのもとへと、駆け出す。


そして、ゴブリン達を一刀両断すると

地面に横たわっているネロとメルシィのもとで、膝をついた。


「ネロ!メルシィ!」


必死に呼びかけ、抱き起した勇気だったが

既に息絶えており、彼女達からの返事はない。


抱きかかえていた2人を、地面におろすと

勇気の目は、バズールへと向くが、

そこには、真っ二つにされたアルマンディスの姿があった。


「この儂が、出ることもなかったか・・・・・」


何事もなかったかのように、言い放ったバズールに

勇気の怒りが爆発した。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


目に涙を浮かべながら、一気に距離を詰めた勇気が放った一撃は

バズールの両腕を、切り落とす。


だが、それだけでは終わらない。


間髪入れず剣を振るい、致命傷となる斬撃を、バズールの体に刻みつけ続けた。


「許さない・・・・・許さない・・・許さない・・」


バズールは、既に息絶えている。


それでも、勇気の攻撃は止まらない。


返り血を浴びながら、剣を振り続ける。


そして、バズールが下半身だけになった時

ようやく、勇気の動きが止まった。


崩れ落ちるバズールの残骸。


返り血で、赤く染まった勇気は、呆然と立ち尽くしながら

持っていた剣を落とし、口を開く。


「・・・みんな・・・勝ったよ・・・」


崩れ落ちるように膝をついた勇気の目から、

涙が零れ落ちた。


翌日・・・・・


あの戦いから、その場で立ち尽くしたままだった勇気が動き出す。


「魔王を倒さなきゃ」


未だ、視界も定まっていない勇気だったが、仲間との旅を続けるため

剣を引き摺りながらも、歩き出した。


行先は、魔王城。



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