第2話異世界から来た勇者の末路
一人なった勇気は、歩き続けている。
途中で魔族と対峙しても、勇気が止まることはない。
勇者とは思えない殺気を放ちながら、次々と屠り続けた。
そして、目的の魔王城へと辿り着く。
「みんな、必ず、終わらせるから・・・・・」
そう呟いた勇気が、魔王城の門を開き、城の中へと歩を進めた。
だが、城の中は閑散としており、そこに魔族の姿はない。
ただ、豪勢な飾りと、広い廊下があるだけ。
魔法の灯で照らされた廊下を、奥に進んでゆくと
一際、豪華な扉が勇気に正面に現れる。
迷いなくその扉に手をかけ、勇気が中に入ると
そこには、大勢の魔族が壁に沿い、立ち並んでおり
正面の玉座には、角を生やした魔王が、鎮座していたのだ。
「待ちくたびれたぞ勇者よ」
魔王の声に、反応する勇気。
「お前が、魔王・・・・・」
「そうじゃ、わらわが魔王、【ラプロス】ぞ」
言い放ち、玉座から立ち上がった魔王ラプロスの姿は、
どう見ても幼い少女にしか見えない。
「嘘だろ・・・・・」
勇気の想像していた魔王は、体長が5メートル位あり
筋骨隆々の大男を想像していたのだ。
だが、目の前にいるのは、そんな想像とは、真逆ともいえる少女。
勇気が剣を構えると、立ち並んでいた魔族の中の一人が
魔王と勇気の間に、割り込むように立つ。
魔王様の手を煩わすことはねぇ。
この俺様が、仕留めてやる。
大柄の男は、そう告げると同時に、姿を消した。
「えっ!」
驚く勇気。
そして、次の瞬間、感じたことのない殺気と同時に
姿を消した男が、勇気の背後に現れた。
咄嗟に反応する勇気だったがもう遅い。
背後に現れた男のハンマーが、勇気に襲い掛かる。
──もらった・・・・・
笑みを浮かべた男は、一気にハンマーを振り下ろした。
回避は、不可能。
そう思われたのだが、振り下ろされたハンマーに合わせて
勇気は、剣を振るう。
だが、男は、笑みを絶やさず、言い放つ。
「そんなやわな剣で、俺の攻撃が防げると思うなぁ!!!」
「貴様こそ、勇者をなめるなぁぁぁぁぁぁ!!!」
互いの武器が、重なり合った次の瞬間、勇気の剣が、男のハンマーを斬り、
そのままの勢いで、男の体も、真っ二つに切り裂いた。
「な、なんと!」
周囲から驚きの声が上がる中、勇気は、ゆっくりと魔王に詰め寄ってゆく。
「魔王・・・・・次は、貴様の番だ・・・」
言い終えると同時に、駆け出した勇気。
そんな勇気に対して、魔王が笑みを浮かべる。
「ふっ・・・愚か者めが・・・」
その言葉と同時に、魔王の姿が消えた。
そして、勇気の背後から、姿を現すと、漆黒の剣を振り下ろした。
咄嗟に反応する勇気。
謁見の間に響く、剣の重なり合う音。
勇気は、魔王の一撃を、見事に防いだのだ。
だが、魔王は、笑みを浮かべている。
そして、口を開いた。
「やれ」
その言葉が合図となり、周りで待機していた魔族から、
一斉に鎖のようなものが放たれ、勇気の両手両足を捕らえた。
今まで、重なり合っていた剣も離れ、磔のような形にされた勇気。
「おい、正々堂々と戦え!」
その言葉に、魔王は、下卑た笑みを浮かべて言い放つ。
「何時、わらわが、正々堂々と戦うと言った?
それに、これは、魔族と人族の命を賭けた戦い。
勝てばよいのじゃ」
言い終えると同時に、魔王の手刀が、勇気の心臓を貫く。
しかし、勇気が抵抗をしたため、心臓よりも少し下の部分に突き刺さった。
そのおかげで、即死は逃れたのだが・・・・・
──なんじゃ、この固いものは・・・・・
勇気の体内に入っている指先に、何か固いものが当たる。
人を喰らったことのある魔王だが、今まで、人の身に、こんなものはなかった。
だからこそ、興味を惹いた。
その固いものを掴むと、勇気が悲鳴を上げる。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
魔王は、笑みを浮かべながらその固いものを引き抜いた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
再び悲鳴を上げた勇気の体から、力が抜けてゆき、
転生前の自分の体力と体型へと戻ってゆく。
それは、誰から見ても、明らかで、固いものを引き抜いた魔王すら驚いていた。
「これは、どういうことじゃ・・・」
疑問を持ちながらも、魔王は理解した。
「もしかして、これが、勇者の力のもとなのでは・・・」
そう結論に至った魔王は、迷いなく、その固いものを飲み込む。
『ドクンッ!』
途端に力が溢れ、今まで以上の力を得た。
「これが、異世界から転移してきたという勇者の力なのか・・・」
溢れる力に笑みを浮かべながら、勇者である勇気を見ると、
今までと違い、着ていた防具と体との間に、隙ができるほど
体から筋力を失っており、
顔からも、力を失ったことを理解しており、動揺の色が見える。
「ぼ、僕は・・・・・」
勇気は、剣を握ろうとするが、力が足りず、その剣すら持てない。
「え・・・」
「やはり、これが力の源だったようじゃな、ならば貴様にもう、用はない。
お前ら、こ奴を好きにしてよいぞ」
『勇者を、喰らえる日が来ようとは・・・」
待機していた魔族が、我先に、勇気に襲い掛かる。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
この悲鳴を最後に、勇気は、この世界から消えた。
勇気が消えてから数日後、魔王ラプロスは、自室で考えていた。
「異世界の者は、こんな力を持っているのか?
それとも、この世界に渡る過程で、得ているのか?」
この疑問を解消するため、ラプロスは、魔族の教会へと赴いた。
ここには神父もシスターもいない。
あるのは、重たい扉と、その奥にある古の像のみ。
ラプロスは、その像の前で跪くと、祈りをささげた。
「魔族の神よ、どうかお答えください。」
ラプロスの願いに応え、神との交信が始まる。
「貴様が、知りたいのは、勇者の力についてか・・・」
「はい」
「そうか・・・・・あれは、異世界者が世界を渡るときに、
あの忌まわしい神から授かるものだ」
「そうでしたか・・・・・」
「なんだ?
あの力が欲しいのか?」
「はい、あの力を取り込めば、我らの力も増し、
勇者が現れようと、人族など、撮るに足らない存在になるかと・・・」
「ふははは・・・
ならば、面白いものを与えよう」
天より、1枚の紙が落ちてくる。
その紙を、ラプロスが掴むと、魔族の神が口を開く。
「その紙の表には、異世界へ転移できる魔法陣が描かれている。
そして、裏には、異世界からこの世界へと転移できる魔法陣が描かれておる」
魔族の神の話は続く。
「こちらの世界から、あちらの世界に魔族を送り込み、
強制的に、こちらの世界に呼び寄せれば
あの力も手に入りやすくなるだろう」
「たしかに、仰る通りです」
「うむ、それでは、後は好きにしろ。
我は、しばらくの間、眠りに就くことにしよう」
魔族の神との交信が終わる。
ラプロスは、受け取った紙を手に、
教会を去ってゆく。
その翌日、ラプロスは、宰相であるウーディガンを呼びつけた。
「魔王様、御用でしょうか?」
「うむ、これを見よ」
ラプロスは、先日、魔族の神より授かった魔法陣の書かれた紙のコピーを
ウーディガンに手渡す。
「これは?」
「先日、神より授かった異世界へ行くための魔法陣だ。
そして、裏に描かれているのが、
異世界からこちらの世界に来るための魔法陣である」
「それはなんと・・・素晴らしい」
「それでだが・・・」
ラプロスから説明を受けるウーディガンも、
勇者の件は知っている。
だからこそ、ラプロスの説明と、この授かりものの効果を知り、
自然と笑みが漏れた。
「足りぬ分は、転写を使える者と魔力の高い者を使い、増産するとよい。」
「では、そのように・・・
それと、あちらの世界に送るのは、誰にいたしましょう?」
「うむ、そのことだが・・・」
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