どうやら、色々と鍛えるらしい

「うーん、どうしよ……」


 色々と忘れたいこともできたが改めて状態異常耐性を鍛えよう。そう思い、動き始めた私だったがいきなり壁に当たってしまった。


 まず最初に鍛えようと選んだのは毒耐性だった。理由は簡単で他の状態異常よりも耐性が付いていたからである。


 鍛える方法は簡単。とにかく毒を飲みまくった。しかし、3番目の魔王が使っていた毒は王都の闇市で買えるそれらよりも強力だったようですでに耐性を付けてしまっていたため、どんなに飲んでも死ぬことができなかったのである。


 なら、遠いダンジョンへ行く? いや、往復1週間で帰ってこられる距離にあるダンジョンの中に魔王の毒を超える毒に出会えるとは思えない。他の状態異常も鍛えることを考えると最初から日を跨いでしまうのは避けた方がいいだろう。


(とりあえず、色々と調べてみよう)


 幸い、毒に関して勉強しても夕方ぐらいに自殺すればその日の朝まで巻き戻る。そうすれば1日も消費せずに効率よく知識を身に着けられるのだ。毒以外にも役に立ちそうなものがあったら耐性を付けるついでに勉強しよう。


 そうと決まれば話は早いと最初に向かったのは王立図書館。王様は魔王討伐のヒントを得られるように、と私たちに図書館に保管されている禁書の閲覧許可を出してくれている。実はこれまでにも魔王を倒すために何度か禁書を読んだことがあった。使用用途は今までと違うが強くなればその分、魔王討伐もしやすくなるので許して欲しい。


 王立図書館に着いた私は身分証明書を受付に提示して中に入る。とりあえず、一般に公開されているエリアで毒に関する本を探すことにした。


(んー……解毒とかは載ってるけど作り方はあんまり詳しく載ってないか)


 まぁ、当たり前の話である。こんな場所にある本に劇毒の作り方が載っていたら素材さえあれば誰でも作れてしまう。そうなれば毒殺事件が毎日のように起こってしまうはずだ。


 ないものは仕方ない。当初の予定通りに禁書保管庫へ向かうため、王立図書館の地下にあるので長い階段を降りていく。しかし、その足取りは重かった。


 禁書――強大な力を持つ魔法使いさんたちが残した魔法書は一般人が閲覧を禁止されている書物のことだ。閲覧を禁止されている理由は色々あるがそのほとんどがとても危険だからである。


 魔法書を遺した魔法使いさんたちは自身の弟子以外が読めないように防衛システムを組み込むことが多い。例えば、指定された開き方をしなければ魔法書に仕込まれた魔法が発動したり、そもそも偽物の魔法書で本そのものが大爆発したり、など。その防衛システムはたくさんあるが扱いを誤った瞬間、だいたい死ぬ。以前、魔王に関する情報を集めた時は魔法書ではなく、比較的安全な予言書の方だったのでそういった防衛システムはなかったが今回は違う。多分、まともに情報を得られるまで何度も死ぬことになるはずだ。


(どんな死に方するんだろうなぁ……)


 一応、これまで色々な死に方をしたがその中でもトップクラスに嫌だったのは意外にも溺死だ。理由は単純明快で他の死に方は死ぬまでの時間が短いからその分、苦しむ時間も短い。だが、溺死は死ぬまでにそこそこ時間がかかる。少しずつ苦しくなっていくあの過程はもう経験したくないと思えるほどだ。


「よっと……うわぁ」


 そんなことを考えている間に禁書保管庫に到着。触ることすら危険なので王立図書館に勤める司書さんすら立ち入り禁止されている魔境だ。ボロボロの扉を開けると埃が舞い上がり、入るのを躊躇ってしまう。思わず簡単な風魔法を使って換気をしようと魔力を操作し――。






「ぁ」





 ――いくつかの禁書が魔力に反応して大爆発を起こして私は死んだ。
















 2回目の挑戦。今回は一般のエリアには立ち寄らずに禁書保管庫へ向かい、ボロボロの扉の前に立った。


(魔力に反応するタイプもあるんだ……覚えておこう)


 実は換気しようとしなくても閃光魔法を明かりにしようとしていたので結局、爆発していただろう。そのため、今回は事前にランタンを用意してきた。これなら魔力を使わなくても周囲を照らすことができる。


(毒に関する魔法書……ほんとにあるかな)


 禁書のほとんどが魔法書である。そのため、毒に関するものはないかもしれない。そうなってしまえばこれ以上の毒耐性を付けるのはほぼ不可能だ。それほど魔王の毒は強力だった。


 それでもこの禁書保管庫に来たのはたった一つだけ毒耐性を得られる可能性があったからだ。もちろん、毒に関する魔法書があれば万々歳なのだがこればっかりは運次第である。


「……」


 本棚にぶつからないように慎重に禁書保管庫の中を歩く。前に来た時は目的の物を取るだけだったのであまり長居せずに出た。だが、今回はしらみつぶしに探していくしかない。


「ん?」


 とりあえず、禁書保管庫の間取りを確認しようと適当に歩いていたのだが、その途中で気になる本があった。背表紙には何も書かれていない。しかし、その本はあまりに紫・・・・・だった。『毒だよ、危ないよ!』と主張している。多分、誰がどう見ても毒に関する本だと思ってしまうほどの紫だった。これで中身がお料理の本とかだったら本を作った人のセンスは死んでいるとしか思えない。


「……」


 どうせ当てはない。気になった本を手に取っていこう。そう思って私は僅かに震える手でその紫色の禁書を手に取り、開く。






「ぁ」





 その瞬間、大爆発して死んだ。なお、後でわかったがこの本はお洗濯の仕方が詳細に書かれている本だった。












 それから私は禁書保管庫と戦い続けた。本を開いては爆発し、少し本棚に体が当たっただけで爆発し、背表紙をよく見ようとランタンを近づけて爆発し、埃のせいでクシャミをして大爆発を起こした。だいたい爆死である。昔の魔法使いさんは爆発が好きだったのかもしれない。


「こ、これは……」


 そして、死んだ回数が500を超えたところで探し求めていた禁書を見つけたのである。いや、実際には毒に関する禁書はない。最初に見つけたお洗濯の本のような例外はあるが禁書のほとんどは魔法に関するものなので毒に関するそれらがないのは仕方ない。正直、私もそこまで期待せずに探していた。







 そう、防衛システムで魔王の毒を超える毒を噴出する禁書だ。






 自分の手がどんどん紫色に染まり、ぐずぐずに崩れていく様を見ながら思わず笑みを浮かべる。毒の中には服用すると呼吸困難になるものや肌に触れるだけで溶けてしまうもの。体に起こる変化は様々だが、毒耐性を鍛えるとそれらの変化が起こらなくなる。どんなに飲んでも呼吸困難にならないし、毒沼に飛び込んで泳いでも溶けない。


 そのため、噴出された毒を吸い込んで体が崩れていく、ということはこの禁書から出る毒は私の毒耐性よりも強力な毒ということになる。


(これで毒耐性を……ぁ)


 鍛えられる。そう考え終える前に私の体は紫色の塵となった。
















 さて、毒耐性を鍛える方法は見つけた。だが、宿から王立図書館へ行き、禁書保管庫で件の禁書を開いて毒で死ぬ、という行為だけをするのは少しだけ非効率的だ。そのため、並行して耐性を鍛えられないか考えてみた。


 そこで用意したのはまたしても闇市で売られている痺れ薬。一滴でも口に含めばたちまち痺れて半日ほど動けなくなってしまう強力な物だ。一応、毒と麻痺は別の状態異常扱いのようで試しに宿の自室で舐めてみたらその場で倒れてしまった。


 手順としては他の状態異常を鍛える方法を図書館で調べながら考え、夕方になったら禁書保管庫に行き、痺れ薬を飲むと同時に毒を噴出する禁書を開いて死ぬ。こうすれば毒と麻痺の耐性を鍛えられるし、今後の動きも考えられる。


 もちろん、状態異常耐性だけではなく、体や魔法を強くしたいのでばれないように空気椅子をしながら体の中で魔力循環させつつ、調べ物をしている。正直、この方法で強くなれるかわからないが色々試してみよう。


 それから私は方法を考えつく度、行動した。魔力を全力で放出して飛べるか試してみたり、慣れない剣を振ってみたり、水路に飛び込んで溺死するまで息を止めてみたり、何時間も回復魔法をかけながら死ぬまで走ってみたり。


 何度も試して、何度も死んで、何度も戻って。死んで、死んで、死んで、死んで、死んだ。


「おぉ……」


 その結果、おそらく強くなれた。見た目は変わっていないのであまり自覚はないがいくら走っても息切れしないし、魔力を放出させて空も飛べる――なお、魔力によって周囲のものが全て吹き飛んでいく――し、剣もそれなりに振るえるようになったし、あの禁書の毒ですら私を殺せなくなった。痺れ薬だってへっちゃらである。


 しかし、これだけ鍛えても不安は残る。特定のダンジョンに行かなければ鍛えられない状態異常はあるものの、王都内でできることはすべてやった。だから、そろそろダンジョンに行きたいところなのだが、馬車で行くので泊りがけになる。つまり、ダンジョンで死んでも休暇初日には戻ってこられなくなるのだ。


 本当にやり残したことはないか? 初日でしかできないことはないか?


 これまでの経験が私の肩を掴む。後悔したくない、と心が叫んでいる。


「……」


 しかし、王都でやれることは高が知れているのも事実。どうにかしてダンジョンに行く時間を短くできないだろうか。いや、さすがに無理だ。どんなに鍛えても馬車の移動時間は決まっている。


「……あ」


 そこで一つの方法を思いついた。空、飛んでいけばいいのでは?


 なお、試した結果、早朝から王都を出て目的のダンジョンに着いたのはお昼前だった。これで初日でもダンジョンに入れる。今日からダンジョンで鍛えよう!


「危ないわよ! 一緒に行かない? 絶対、その方がいいわ!」


「お、おい! 一人は危ねぇって! 戻ってこい!」


 ダンジョンの周囲にいた優しい男女の冒険者が止める中、私は意気揚々と単身でダンジョンへ入り、入り口近くの落とし穴に落ちて死んだ。















「うーん……」


 それからダンジョン内で何度も死んで状態異常を鍛えていた私だが、少しだけ飽きていた。王都にいた頃は体や魔法も一緒に鍛えていたがここではただ状態異常になって死ぬだけ。しかし、他に鍛えられることもないのでもやもやしたまま、催眠をかけてくる魔導士型の魔物の前に立った。


「あ、へぇあ」


 催眠にかけられた私は魔導士に操られ、後についていく。催眠は抵抗しなければどんな格下相手でもかかってしまう、少し変わった状態異常なのでたくさん鍛えた私でも簡単に催眠にかかることができる。そのおかげで催眠耐性もそれなりに鍛えられてきたからか、催眠状態でも思考は止まらない。


(飛んでいけるダンジョンも限りがあるし……むしろ、今度こそ数日かけて飛んで移動してもっと遠い場所に行く?)


「あ、あの子! 催眠をかけられてるわ! どうして、あんな弱い催眠にかかっちゃったの!?」


「わざとかかろうとしなきゃかからねぇほど弱い催眠魔導士だぞ!? いや、今はそんなことどうでもいい! なんとしてでも助けねぇと!」


 のたのたと魔導士の後ろを歩いているとダンジョンに入ろうとする度、私を止めようとしてくれる優しい男女の冒険者と出会った。私の状態をすぐに看破し、助けようとしてくれる優しさは本当に心に染みる。


(そろそろ覚悟決めないと、ね)


 初日、という時間的アドバンテージはまだ維持できているがさすがに限界だ。まだ明日に進むのは怖いが勇気を振り絞って最初の一歩を踏み出さなければならない。


「――――」


「まずい、催眠魔導士があの子に指示を出してる!? あの子も攻撃をしかけてくるわ!」


「くそ、急いで魔導士を――」


「あ」


 催眠によって魔法を使ってしまった私は人差し指から通路全てを飲み込むほどのレーザーを放つ。真正面にいた優しい冒険者と私の前でふんぞり返っていた魔導士型の魔物は私のレーザーに飲み込まれ、消滅してしまった。


「……これでも最大限まで出力を抑えた方なんだけどな」


 鍛える過程で力のコントロールもできるように努力した。そのおかげでタマゴを爆散させることはないし、ドアノブをぺちゃんこにしたせいで部屋から出られず、仕方なく扉を蹴破ろうとして宿そのものを倒壊させてしまうこともない。


 しかし、魔法に関してはどうにも手加減が難しい。魔法の仕組み的にどんなに手加減しても魔力量に応じた威力が上乗せされてしまうのだ。


「さて、と」


 何度も死んだからか、自然と独り言が多くなってしまった。あまり褒められた癖ではないので皆の前では気を付けないといけない。そう決意した私は仕切り直すために自分の喉に短剣を刺して自殺した。















「よっと……」


 一日で行ける範囲内にあるダンジョンでできることを終えた私は皆に遠出すると伝え、飛び続けること一日。目的のダンジョンに着いた。ここでは魅了の魔法をかけてくる魔物が出現する。催眠と魅了は似ているように思うが状態異常的には別のものらしい。


「あ、いた」


 何度かダンジョンの罠に引っ掛かり、死んでは戻ってを繰り返していると目的の魔物に出会った。見た目は女淫魔サキュバスのように見えるが目が真っ赤に染まっているので一発で魔物だとわかる。


「――――――」


 女の魔物は私に気づくとすぐに魅了の魔法を使った。さて、魅了状態になるとどんな風に――。



「……あれ?」


 魅了の魔法が完成し、私の体が仄かに輝いた。だが、いつまで経っても変化は起こらない。かかって、ない? 気づいていないだけ?


「?」


 キョトンとしていると女の魔物も『あれ?』と首を傾げ、また同じ魔法を使った。しかし、やはり何も起こらない。


「……あ」


 そうだ、『女淫魔処刑魔法ナニ・ハエール』だ。確かあの魔法はナニを生やすと共に正気を失わせるほど魅了させ、目に入った女性を襲わせる魔法だったはず。実は少しだけトラウマになってしまい、あれからまだ一回も試していないのだが、あの一件で魅了耐性がそれなりに鍛えられてしまったのだろう。なお、『女淫魔処刑魔法ナニ・ハエール』は使えるようになっている。


「困ったな……これじゃ鍛えられない」


 焦ったように何度も魅了の魔法を使う女の魔物を前に腕を組んで考え込む。このダンジョンはそこそこ強力な魔物が出るため、目の前で涙目になっている魔物も本来なら脅威となる部類なのだろう。仲間を魅了して同士討ちさせるタイプだったはずだ。


 だが、問題はここからだ。これでは魅了耐性を鍛えられない。他のダンジョンに行けなくもないが残念ながら魅了を使う魔物は珍しいため、もっと遠いダンジョンに行かなければならず、完全に時間を無駄にしてしまった。もう2日目になってしまっているので死んでも初日には戻れない。どうしたものか。


「……」


「ッ……」


 一つだけ妙案が浮かんだ。自然と前に視線を向けると魔物はビクッと肩を震わせた。いや、まぁ、うん。自殺するから大丈夫だと思うが、念のためにいてもらおう。


「すぅ……はぁ……」


 自殺用の短剣を片手に意識を集中させる。初めて使う魔法なので少しだけ緊張している。女の魔物は私から溢れる凄まじい魔力量に腰を抜かし、ガタガタと震えていた。






「『女淫魔処刑魔法ナニ・ハエール』!!」






 使用する魔法はトラウマのアレ。対象は自分。女の魔物が使った魅了の魔法を遥かに凌駕する魔力量にバタバタと着ているワンピースが揺れる。


「……お♡」


 魔法は成功。頭が沸騰し、股間に違和感を覚えた私は正気を保っている間に急いで短剣を喉へ突き刺そうとして――目の前に座り込む女の魔物が目に入った。


「……?」


 恐怖からか、真っ赤に染まった目をうるうるさせながら『どうしたの?』とこちらを見上げてくる。なんだ、この子。可愛いな。いいや、この子で。




















「……死にたい」


 目を覚ましたのは休暇二日目の朝。野営に使った森の広場で私は肩を落として言葉を零す。記憶がほとんど残っていないのは唯一の救いかもしれない。


「……はぁ」


 まさか自殺できないほど正気を失うとは思わなかった。多分、女の魔物が目の前にいなくても女を求めて徘徊するか、その場で自分で始めてしまうだろう。きっと、何度も使えばいずれコントロールできるようになると思うがその度に死にたくなるのは避けたい。


 しかし、『女淫魔処刑魔法ナニ・ハエール』に耐えられるようになればアイリと結ばれた時、絶対に役に立つのも事実。まだ、彼女と結ばれたわけではないが今のうちにできる努力はしたい。それがアイリに対する私なりの誠意だった。


「何かいい方法ないかなぁ……」


 今回、失敗したのは短剣で自分を刺すという行動を起こす前に正気を失ってしまうからだ。じゃあ、正気を失う前に死ねたらどうだろう。


 だが、それもそれで難しい。即死級の状態異常は優先して鍛えてしまったので利用できない。もちろん、強い魔物相手でも指一本で倒せてしまうほど強くなってしまったから死ぬ直前に『女淫魔処刑魔法ナニ・ハエール』を使って正気を失ったとしてもそこから逆転してしまいそうだ。


 じゃあ、罠はどうだろう? いいや、駄目だ。即死級の罠は状態異常ありきなものが多く、落とし穴系のものも今の私なら死ぬ前に回復魔法を使ってしまう。まさか強くなった弊害がこんなところで出てきてしまうとは思わなかった。


 私がアクションを起こさず、回復魔法が間に合わない死に方。限界まで高く飛んでからの落下死? 正気を失うので飛行のコントロールができず、地面にそのまま叩きつけられるとは思うが今の私ならどんな高さから落ちても即死できず、回復魔法が間に合ってしまうかもしれない。


(やっぱり、何度も使って耐性を付けるしか……)


「……あ!」


 うんうんと唸って考えていると一つだけ方法を思いついた。急いで荷物の中を漁り、王都周辺の地図を取り出す。


「今はここにいるから……いける!」


 物は試しだと私は荷物を全て置いて全力で魔力を放出して空を飛ぶ。眼下ではテントを含めた荷物が魔力によって吹き飛ばされたが気にせず、目的地へ向かう。何度も長距離移動している間に魔力総量も増えていったので今では丸一日飛んでいても魔力切れを起こすこともなくなった。


「あった!」


 飛び続けて半日以上が経った頃、目的地が見えてきた。すでに周囲は夕焼けに染まり、そろそろ夜になる。完全に真っ暗になったら飛んでも景色は見えず、方向が分からなくなってしまうので間に合ってよかった。


 高度を上げ、私は下を見る。そこには大きな山があった。山の頂上は赤く燃え滾り、こんなに高い場所でも熱気を感じる。


 そう、私が今いるのは活火山の真上。その火口付近である。


「……よし!」


 真っ赤に燃える大きな口を前に生唾を飲んだ後、意を決して一気に急降下。熱気はどんどん熱くなり、短時間だというのに滝のような汗が流れ始める。


 そんな中、急降下し始めてから準備していたあの魔法を自身に対して使用した。


「『女淫魔処刑魔法ナニ・ハエール』!!」


 一瞬の静寂。そして、火山の熱気に負けないほどの熱が頭を焦がす。早く、早く誰かを襲いたい。こんなところにいる場合じゃない。早く、誰かを――。


 だが、正気を失った私が何か行動を起こす前に私の体が火口へ落ち、マグマの中へダイブした。

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