第8話 美人が気に入らないとか!信じられない!

「ほんっと! なんなのよ!」


 プルプラとの騎士団の視察を終えて、部屋に戻ってきて。

 侍女も下がらせて、一人優雅に読書の時間。とは、いかなかった。

 口実こうじつとして、本と紅茶の準備だけはしてもらったけど。


「美人が気に入らないとか! 信じられない!」


 訓練中の彼らの邪魔はできないからと、代わりに護衛についてくれていた騎士たちと少し話す時間をもうけることになって。

 というか、たぶんそれって建前たてまえなんだろうけど。それでも一応、色々質問してみたり鼓舞こぶしてみたりっていう、形式的なことはしてきたけどさぁ。

 その間のほとんどの時間、全員の目線がプルプラに向けられてたんだけど!?


「攻略対象キャラも、結局そこは一緒なのか!」


 プルプラと楽しそうに盛り上がる、軽薄そうなキャラ。

 そっと目線だけを向けて、会話には加わらずに優しく見守る無口キャラ。

 若手のトップらしく、騎士たちを取りまとめながらプルプラに接するメインヒーロー。

 残念ながら、自主的に私に話しかけてくれた人物はいませんでした。プルプラ以外は。


「本当に、私の妹は可愛い」


 それは、分かる。全力で、同意する。

 なんなら、ゲームの中のヴァイオレットだってそう思ってたかもしれない。実際、プルプラに強く当たっているシーンとかはなかったし。

 というかむしろ、この状況なら確かに騎士たちに強く出るよな、と。思わないわけじゃない。

 特に夜に二人きりで会うとか、普通に許されないからな?

 いくら護衛とはいえ、いくら攻略対象キャラとはいえ。相手は一国の王女だぞ?


「こーんなに美人なのになぁ」


 自分の顔に手をあてて、紅茶の水面みなもに映る姿を覗き込んでみる。

 そこにいるのは、絶世の美女といっても過言ではないほどの美人。この顔とスタイルなら、モデルになるのだって難しくないと思うのに。

 この国だと、なぜかモテない。


「……いや、モテたいわけじゃないんだけどさ」


 汗臭いのとか、筋肉つきすぎてるのとか、好きじゃないし。知性とかも、大事だし。

 分かるよ? 隊長とかのレベルになってくると、人を動かすために知性も必要になってくるんだって。

 でもほら、結局は参謀さんぼうとかが作戦を考えるじゃん?

 それに、普段から知性的かどうかは、また別ものだし。


「あーあ。これならいっそ、別の国に生まれたかったなぁ」


 この見た目なら、なおさら。

 かせないじゃん、この見た目。もったいない。

 しかも攻略対象キャラの好感度は、全員そろってプルプラに傾いた状態とか。

 こういう状態のこと、なんて言うんだろうね? 四面楚歌しめんそか


「……ちょっと、違うかな?」


 敵ではないんだよね、あくまで。

 でも、完全な味方でもない。


「でもなぁ。もうそろそろのはずなんだよなぁ」


 カップの中を覗き込むために、前傾ぜんけい姿勢になっていた体を起こして。今度は、椅子に背中を預ける。

 そのまま、顔も上に向けて。

 シャンデリアの装飾が、視界の端に映っているけれど。まだ明かりはつけられていない時間帯だから、特に眩しくもない。

 夜はもっと輝いているのに、昼間だとただの飾りになってしまうその姿に。なぜか、今の自分を重ねそうになった。


「早く来ないかなぁ。私の推しキャラ」


 そう。『キシキミ』のゲームにおける私の推しキャラは、あの三人の中にはいない。

 ちなみに、攻略対象キャラはあの三人だけ。隠しキャラも存在しない。

 だから正直、に会うためだけに。私はまだ、この国にいるようなもの。

 どっちにしろ、結婚についてはなにも言われていないから。出ていく理由もないんだけどさ。


「騎士に会うイベントとか、ホントどうでもいいよ」


 向こうが私に会うことをそう思っているのと同じで。私も、彼らに一切の興味がない。

 お互い無関心でいられるのなら、もうそれでいいかなって割り切ってる。

 だって私が質問した時と、プルプラが質問した時の、対応の差! 明らかにテンション違ったし!

 この顔が気に入らないとか、ホント納得いかないから!





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