第2話
毎年毎年僕たちが18歳になるまで受けるこの身体検査。これを世界のための生贄となる適性検査であると知っているのはどれぐらいの人間のみなのだろうか。果たしてどれだけの子供がこの歪な世界のために、クソジジイやクソババアのために平和ボケのために犠牲になっているのだろうか。こんな歪な形で平和を取り戻した世界などどれだけの価値があるだろうか。そう思ってしまうのはやはり僕が普通の子供ではないからだろうか。一般人はもちろんこの検査が適性検査であることを知らない。でも僕は知っている。僕は上層部の人間か?いや、違う。さすがにこんな子供が、上層部に入り込めるほどあそこは甘くない。僕は一般人か?これについては微妙なところだ。少し前に一般人になった、とでも言うべきだろうか。僕はある国の反上層部の組織に実験体として8歳まで育てられていた。いや、実験されていたという方が正しいだろうか。反上層部については僕自身が幼かったからあまり詳しくはないが少なくとも今の上層部のやり方に対しては賛同していないようだ。僕は8歳の時、上層部の人間に保護された。そう、今はもう反上層部なんて組織はない。解体されたのだ。あっという間に。ボスや僕を実験体として研究していた科学者はみな殺された。僕は運悪くその現場を見ていたわけだが、とてもじゃないけど正義のやり方ではない。そんな感じだった。幼い頃にそんな光景を見ても今こうして普通に生きているのはきっと僕が普通の感受性を持っていないからなのだろう。別にいいのだ。普通じゃなくて結構。僕は一般人という仮面をつけて生きてなんの不自由もない。上層部に保護されて日本へ送られて優しい里親に育てられて、何が不満だと言うのだろうか。だけど…この世界はつまらない。上層部に反旗を翻したくなる気持ちもわかる。つまらないつまらない。この先自分はどう生きていく事になるかなんて容易に想像がつきすぎる。つまらないつまらない。あぁ、なんてつまらないんだろう!!!!!じゃあ死んでしまおうか。確かに人生がつまらないからという理由で死んでしまうなんて短絡的で馬鹿なのかもしれない。けれど死ぬという行為がどれほどの恐怖やおぞましさを持っているかなんて僕は嫌というほど知っている。あの頃、つまり実験体として生きていた頃はただひたすらに生きたいと願っていた。死ぬのが怖かった。他の子供が死ぬたびに、次は自分の番なんじゃないかって怯えた。けど僕にそれが回ってくることはなかった。僕が実験体として優秀だったのか、はたまたその死の順番が回ってくる前に保護されただけなのかは分からないけど。
どうしてそんなに嫌っていた、怖がっていた死を今は積極的に選択しようとするのか。つまらないから、そして今いるこの世界が大嫌いだからだ。この世界をぶち壊したい。どうして他の奴らは笑ってられるのだろうか。お前らのその幸せは誰のおかげで成り立っているというのだろうか。政治家や、聡明な大人達は口を酸っぱくして言う。
「子供はこれからの未来を担う大切な宝だ」
そんな大切な未来を担う宝を犠牲にしていることも知らないで。自分が当然のことを言っているかのように言う。ムカつく。死ねばいいのに。だが、僕には犯罪者になる趣味はない。なら、途中退場させていただこうじゃないか。別に子供っぽすぎる動機だと思われ呆れられても結構なのだ。僕は僕の意思でそうありたいと願い17歳になったら実行するつもりなのだから。
だけどもうそんな必要もないらしい。僕は15歳で適性検査で生贄として選ばれてしまったのだから。
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