第0015話
「過去二百年以上の発展を経て、人々は徐々にこの新しい元素を受け入れるようになりました。ですが、新元素の魔法回路は元々極めて稀少な存在で、さらに新元素の魔法使いが迫害された歴史的背景もあります。もしかしたら、表に出たくない新元素の魔法使いもいるかもしれません。そして反応水晶……あ、いえ、これで終わりです」
少女は言いかけたことがありそうだったが、二人は追及しなかった。
「じゃあ、<例の魔法陣>は新元素の魔法だったんですね? <令狐さんが多くの資料を調べても収穫がなかった>という点から考えると、それが古今未曾有までとは言わないが、少なくともほぼ知られてない魔法のはずです。これは神秘的な新元素の魔法と一致しますね」
「はい、私もそう思います。ただ……」
「ただ?」
「その、お二人が今朝に言っていた”ショーカン”……とはなんでしょうか?」
「召喚というのは、おれたちがあの魔法陣を通じて、元の世界からこの世界に移されたってことです」
「そうですか……では他の人も召喚されたのですか?」
「……どうでしょう。あの異変でどれだけの人が光になったのか、なんでおれたちだけが令狐さんの家に現れたのか、おれたちにも分からないです。おれたちの前に何百人も光になったはずだけど、レストランへの行き帰りの道ではその人たちを全く見かけなかったんです」
少女はすこし考えて、独り言のように言う。
「……規模が大きすぎます」
「規模?」
「はい。何人がこの世界に召喚されたのかは別として、もしあの異変があの魔法陣によって引き起こされたものなら、その規模はあまりにも大きすぎます。通常、魔法の規模が大きくなると魔法陣も大きくなるものです」
「「そうだった」」
悠樹と萌花は声を揃えて言った。これは彼らが二次元作品で培った認識と一致する。
「つまり、地下室のあれのような魔法陣が他にもたくさんあるってこと?」
「私はそう考えています。それに、それほど大規模な魔法を使うことができるのは、おそらく『賢者』様だけです」
萌花が聞いて、少女が答えた。悠樹もすこし考えてボソッと呟く。
「<自然と対抗できる能力を持つ魔法使い>……」
「はい。ですが、現在の『賢者』様は水、風、地、火属性の各一名しかいませんし、彼女たちは皆双回路ではないと聞いてきます」
「新元素の賢者は聞いたこともない、と」
「はい。それに、魔法教会の研究によると、新元素の魔法はまだ多くの未知の部分があるとはいえ、その本質は四大元素と同じのはずです。つまり、それはその新しい元素を駆使して、四大元素とは異なる魔法を発動させるものであり、特別強力な魔法ではないということです」
「なるほど。なら、あの友人さんは実はとっくの昔に賢者レベルに達していて、みんなが知らなかっただけかもしれないですね」
「その可能性はありますね。魔法使い本人が等級認定試験に参加せず、一番強い魔法を披露しなければ、他の人はその人の実力を知ることはできません」
少女はさっきから何度も頷いた。
「けど、召喚はなんで20年後の今日になって発動したんでしょう? あの友人さんが意図的にそうしたのか、それとも魔法の発動自体にそれほど長い時間が必要だった? あるいはなにか起動条件があったとか? もし1つの魔法陣が2人を召喚できるなら、他の場所にも設置されているはずです。じゃあ、他の召喚魔法陣と召喚された人たちはどこにいるのでしょう?」
悠樹が一連の質問を投げかけたが、萌花と少女も同じように困惑していた。
「じゃあ現状を整理しましょう」
今分かっていること:
①あの異変は召喚魔法によるもの
②猫森悠樹と百合園萌花は、令狐詩織の家の地下室の召喚魔法陣でこの世界に召喚された
③あの召喚魔法は新元素の魔法
④あの召喚魔法陣は、令狐詩織の祖母の、20年前にこの家に泊まっていたある友人が設置したもの
⑤その友人は新元素の魔法使いで、20年前には既に『賢者』レベルに達していた
分からないこと:
①その友人がなぜ召喚魔法陣を設置し、魔素を集める魔法陣だと偽ったのか
②なぜ20年後の今日になって召喚魔法が発動したのか
③他の召喚魔法陣とその魔法陣で召喚された地球人はどこにいるのか
④その友人はどこにいるのか
「だいたいこんなところでしょう。もし他の召喚された人を見つけられれば、もっと情報が得られるかもしれません。だから、おれたちがすべきことは他の召喚された人を探し、<新元素の賢者レベルの魔法使い>という手がかりを辿って、召喚者を見つけることです」
「そうだね!」
「すごいです。猫森さんは本当に頭がいいですね」
「よし! 方向が見えたらすぐに行動しよう!」
悠樹はさっと立ち上がって言った。そして部屋の中も窓の外も既にオレンジ色に染まっていたことに気付く。もう太陽が沈みかけて、夜に入ろうとしている時間だった。
「ええっと、でも今はもう遅いから、他の人を探すのは明日にしよう……」
悠樹は照れくさそうに笑った。
悠樹と萌花は一日中お話を聞いていたような感じがして、時間の経過をあまり実感していなかった。
「じゃあ今できることは……令狐さん、どうやって新元素に関する情報をもっと得られますか?」
「多くはありませんが、うちにもいくつか資料があります。よければ持ってきますね。あと今度、貸してもらえるか知人に頼んでみます」
「本当にありがとうございます!」
「詩織ちゃん、ありがとう~」
「これは私がすべきことです!」
少女が嬉しそうに言った。そして彼女は部屋の蝋燭ランプを点け、魔法の杖も持たずに2階へと上がった。
「本当にいい子だね」
「そうだね、この子、最高かも……(ぺろり)」
「ン?」
しばらくして、少女は数冊の小冊子と一束の羊皮紙を抱えて戻ってきた。
「地下室にもいくつかあります。持ってきますね」
「ありがとう~」
そう言って彼女は地下室に下りていった。
この少女は初めて会った二人のために奔走する。二人は彼女に非常に感謝し、彼女がとてもいい人だと感じた。
二人は待ちきれずに資料を開き、新元素の手掛かりを探し始める。
「えっ……」「あっ……」
そして彼らはまたとんでもない事に気付いた。
すこししたら、少女はまた資料を持って戻ってきた。彼女は資料をテーブルに置くと、二人が固まった表情で自分を見ているのに気付き、すこし緊張する。
「ど…どうしたんですか……?」
「……おれたち……」
「……この世界の文字が読めない……」
どうやらこの二人は、まずこの世界の文字を学ぶ必要があるようだ。
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