#3
「コラ泥棒猫ッ!今日こそはとっちめてやる!!」
結局空腹には耐えられず、いつもの様にパンを盗みに行った先で、店主がカンカンに怒って追いかけてくる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」
一切れのパンぐらい恵んでくれても良いのに……と恨めしく思い、泣きながら走る私は、パンを大事に抱えながら呪文の様に謝罪を繰り返して逃げる。
しかし、大人の足と子供の足では速さが格段に違い、私は転がる小石に躓いた。
「ひゃっ……!」
「そら追い詰めたぞ、小娘めッ!」
転んだ私の首根っこを掴んだ店主は、まるで腐った雑巾を見る様に鼻を摘み、「ウエッ……臭ッ!」とえずいた。
私はその隙に逃げようと体をジタバタさせたが、店主の太い腕にがっしりと鷲掴みにされてビクともしない。
「お前みたいなクソガキは、善悪の判断もつかないのか!」
バシン……ッ!!
店主は私の腹を思い切り殴った。
「う……っ」
その勢いに吹っ飛ばされた私は、まるで蹴り飛ばされた小石の様に地面を転がると、体が重くて動けない。
「良いかッ!ウチはなぁ、慈善団体でも何でも無いんだッ!!こうもコケにされて黙っちゃいられねぇッ!!!」
指先1つ動かせない中、店主は足に力を込めて私を何度も踏みつける。
口に広がる血の味だけが、まだ私が生きている事を証明しているように思えた。
──『ホレイショー、天と地の間にはお前の哲学などには思いもよらぬ出来事があるのだ』
店主に踏み躙られ、私はごく近い天と地に挟まれている。
私はホレイショーじゃないけれど、あの悲劇の主人公は私にもそう問うのだろうか?
店主の怒声を聞いてわらわらと集まってきた人々も、ヒソヒソと何かを言い合うだけの観客……私を助けようとするものなどどこにもいない。
いたい。
いたい……。
いたい……っ。
にくい……。
にくい。
──憎い!
『助けが欲しいなら、貴様が願えば良い!』
異形は脳内で声高らかにそう叫ぶと、私はそれに釣られて「やめろっ!」と吠えた。
その途端、店主の足は止まり、観客は悲鳴を上げる。
その悲鳴に遅れて反応した私の前には、足を振り下ろす仕草の石像が止まっていた。
「えっ……」
『お前がやったんだろう?』
「ちがう」
『何が違うんだ?』
「だってわたしは……」
グルグルの頭を巡るメドゥーサの声に反論していると、遠くから耳をつんざくような不愉快な声が聞こえる。
「助けて……助けてー!……み、三つ目の怪物だわッ!!!」
──かい……ぶつ?
どうして……踏みつけ虐げられた私が、『怪物』に見えるの……?
『見える!
いや、事実そうなのだ。
見えるとか見えぬとか、そのようなことはこちらの知ったことではない』
──そう……そうね。
私はもう、優柔不断な少女では無く、復讐に飲まれた怪物だった。
その声に私が振り返ると、声の主である中年の女は瞬く間に石ころとなってその場に倒れた。
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