初恋相談所へようこそ~その恋、私たちが叶えます~
カネコ撫子@推し愛発売中
プロローグ~初恋の嵐~
Prologue
「あなたのことが好きです。この世界の誰よりも」
俺はいま、一世一代の告白をした。
俺の目の前に立っている
「そ、それって……告白、ですよね?」
「うん、まあ」
聞き返されると照れる。
それはそうと、彼女はモテる部類に入るだろうが、あからさまに動揺していた。見たことがないぐらいに頬を紅潮させて、俺と視線を合わせようとしない。
思いのほか告白され慣れていないのか。それとも、俺から告白されるとは思っていなかったのか。どちらにせよ、あまり良い予感はしない。
彼女と知り合って1ヶ月足らずでの告白は、さすがにマズかったか。いや、でもその間は毎日メッセージのやり取りをしていたし、毎週一回、つまり月に4回は会って話をしていた。人が人を好きになる要素は揃っている。
告白をした今日は5回目のデートになる。昼間から映画を観て、カフェで感想を言い合って、夜景の見える公園で告白。我ながら完璧なスケジューリングだった。
『先輩って優しいですよね』
愛菜と初めて会った日のことを思い出した。同じ高校の後輩(男)と一緒に帰った時、彼女が俺たちの前に現れた。
非常に愛嬌のある子だった。常にニコニコしていて、一緒にいる人間を不快にさせない明るい雰囲気の持ち主。面白くはない話でも、思わずつられて笑ってしまう魅力があった。
想像通り、誰とでも仲良くできるタイプの子で、連絡先の交換や会う約束もとてもスムーズにできた。どうして『優しい』と言われたのかは思い出せない。
「どうして私なんか……」
彼女はひとりで呟いている。俺の言葉を待っているようだが、それに追撃する理由はない。追撃してはいけない。
恥ずかしながら、生まれて初めての告白のせいでどうすれば良いか分からなくなっている。だがそのおかげでこうして冷静でいられている。
「返事を聞かせてほしい」
「あ……そう、ですよね……」
彼女は優柔不断であった。何事にもそう。
メニューひとつ選ぶのだって、俺が言わなければずっと悩んでいる。背中を押さないと決めることができないタイプだった。
とはいえ急かしておいてアレだが、今回に関しては申し訳ない気がした。返答次第では、自分の生活が大きく変わろうとしているのだから。
「わ、私は……」
愛菜は小さな声で切り出す。けれど、続きが出てこない。口元がプルプルと動いているが、喉から言葉を紡ぐ雰囲気がない。
――この子は言えない。ハッキリと断ることができない。だって素直で優しい子なのだから。1カ月過ごしただけだけど、それはよく分かる。
「もしかして、他に好きな人がいる?」
「えっ……!」
本人は気づいていないようだけど、その反応は明らかに図星だった。
無意識に一歩後ずさりして、その小さな胸に手を当てている。まるで自身の鼓動を確かめるように。意地悪で俺が一歩前に出ると、露骨に驚いた顔をして申し訳なくなった。
「どうなの?」
愛菜が怯えない程度に優しく追撃する。しかし、返答はない。大丈夫だ。これも想定通り。
「正直に言ってほしい。気を遣って付き合うなんてことは、絶対にしないで」
「先輩……」
ここまで来ればもう負け戦である。
こういう場合、浮き足立ったり、なんとかならないかと交渉することも考えられる。でも俺はしない。今ここで動いたところで、この人の気持ちは変わらないのだから。
「――ごめんなさい」
この瞬間、俺は彼女の交友関係から消えることが確定した。
それもそうだろう。俺は高2で、愛菜は高1。それも違う高校の。普段の学校生活では絶対に会うことはない。それに告白してきたヤツとどんな顔で会えば良いのか、俺自身がよく理解していなかった。
「そうか。でもありがとう。正直に言ってくれて」
「いえそんな……」
フラれた俺がなんでお礼を言わなきゃならないのか。疑問でしかないが、これも全てアイツの指示だ。『
「先輩?」
アイツへの不満で表情が
「あははごめん。やっぱりちょっとショックでさ」
「……ごめんなさい。でも私」
「そっか。それなら良いんだ。早く行ってあげな」
そっけない態度に見えるかもしれないが、それで良いだろう。後腐れ無く関係を断ち切るには、多少イメージが悪い方が良いはず。
相手が相手なら『本当に私のこと好きなの!?』とか食ってかかってきそうなほど我ながらサッパリしている。
「はい。今日はその……楽しかったです」
「ありがとう。じゃあね」
俺の元から走り去る橋本愛菜――言い改めターゲットの後ろ姿を見ていると、不思議と感情が読み取れる気がした。
光り輝いて、イキイキしていて、好きな人が頭の中に浮かんで離れない。自分の恋心に気がついたその瞬間は、喜びのあまり口元が緩みまくるらしい。
ターゲットが見えなくなると、俺は制服の胸ポケットに忍ばせていたスマートフォンを取り出し、そのまま耳元に持っていく。長時間稼働していたせいか、すごく熱を帯びていた。
「終わった。予定通り」
肩の力が抜けて、声にも力を入れられなかった。だが電話口の相手はそんなことお構いなしだった。
『あなたのことが好きです。この世界の誰よりも――ぶっ! あはははは!』
「切るぞバカ」
声を低くして俺の真似をする。そしてキャッキャと相変わらず人をバカにするような笑い声である。これで普段はお人好しキャラを演じているのだから、本当に末恐ろしい生き物だ。
一通り俺を馬鹿にした後、ヤツは呼吸を整えて口を開く。
『いやーごめんごめん。そんなキザな告白をするとは思わなくて』
「熱を持たせろって言ったのはお前だろ」
『そうだけど、それとキザさは違うよ』
「どう違うんだよ」
『……あーごめん。いま議論することじゃないね』
確かにそれもそうだ。俺の偽告白なんかどうでも良い。返答するのが面倒だったから、何も言わず彼女の言葉を待った。
『なにはともあれ、お疲れ様』
「上手くいったか?」
『うん、上出来』
なんで上から目線なんだよ。まったく。
『そんな
「別に拗ねてない。人使いが荒いって思っただけだ」
『それを拗ねてるって言うの』
まあもう別に良い。俺は近くにあったベンチに腰掛け、背もたれに体を預ける。
恥ずかしながら無意識に緊張していたようで、体の筋肉が落ち着いていく感覚を覚えた。
「
『所長と呼んでよ。依頼中でしょ』
「同級生だろ」
『それでも良いから!』
「はぁ……」
分かりやすくため息を吐く。こうでもしないとやってられない。仕方なく、今回も俺が折れることになった。
「所長は今どこに?」
『家であなたの仕事ぶりを見てただけ』
「随分と偉いんだな。人に働かせておいてね」
『私は所長、あなたはアシスタント。わかる?』
「クラスメイトだけどね」
『奴隷にすることもできるよ?』
「……あーもう分かったよ! 何も言わないから」
コイツはそうと決めたら本当に奴隷のような扱いをしてくる。付き合い自体はさっきのターゲットより少し長いぐらいだが、コイツはそういうヤツだ。
『ま、結果は明日にでも分かると思う。放課後、相談所に来てね』
「3階の呪われた空き教室ね」
『それは前の通称。今年からは何?』
「
『普通。面白くない』
「……」
大抵の人間は、生きているうちに一度は誰かを好きになる。
中でも「初恋」というのは、その人間の心に深く根付き、大人になっても当時のことを思い出しては微笑む。そんな穏やかな存在だ。
花崎歌琳は、そんな初恋をあの手この手で成就させようとする。私立
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