第4話 転校生④
「おはよ」
「おう、おはよ」
次の日、俺が学園に到着するとすでに高見は来ていた。
「今日の英語の小テストの勉強してきた?」
「えっ、そんなのあったっけ?」
まさに寝耳に水だった。
「うん。テストの練習をするためにやるって言ってたじゃん」
「…………そういえばそんなこと言っていたような……」
「じゃあ、やってないのか?」
「……やってない」
俺は慌てて席に座り英語のテキストを開く。
「俺もやってないぜ」
「なんでお前はそんなに余裕なんだよ……」
今更勉強をして間に合う気は正直しなかった。しかし、足掻かないで悪い点をとって成績に響くのも嫌だった。
「珍しいよな。お前がそんなうっかりをかますなんて」
「…………昨日は色々あって勉強に集中できなかったんだ」
「何ぃ……?俺がサッカーの自主練している間にお前は莉愛ちゃんとイチャイチャしてたっていうのか?」
「は?何でそうなるんだよ……。あいつは関係ないって」
「そんなわけないだろ。男子高校生の悩みなんて性欲と彼女ぐらいしかないだろっ!!」
「偏りすぎだろ……」
昨日は葛城のことが頭から離れなかったのだ。
「あれ……。そういえば葛城は来てないな……」
ふと隣の席を見ると葛城がまだ来ていないことに気づいた。
「そうなんだよ。俺、葛城と話すために今日は20分も早く登校したのに来てないんだよ」
「……知らんわ……」
朝のホームルームにはまだ5分ほど時間があるが、昨日のことを踏まえて早く来ても不思議ではなかった。
「それよりも小テストだ」
俺は目の前のテキストに集中しなければいけなかった。
「あ……」
「なんだよ?」
高見の視線の先を俺も見る。そこにはギターケースを肩掛けた葛城の姿があった。すでにみんなに囲まれ、質問攻めにあっていた。2日目なのによくやるものだと思う。
「ゴメン。ちょっと後でいいかな?私、しなきゃいけないことがあるんだ」
葛城は自分の席、つまり俺の隣の席に向かってくる。
「
注目されている葛城が話しかければ、当然クラス中の視線は俺にも集まる。
「…………あ、ああ……」
「私とバンドしようよ!!」
一緒に昼ご飯を食べようという感じの軽いノリで葛城は俺を誘った。
「は……はぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
俺よりも高見の方が先に反応を見せる。普段から大げさなリアクションが多いがここまで大きいリアクションをしたことを見たことがなかった。そして、反応はクラス中に拡大した。
「ちょ……い、待って……。な、なんでそんなことになってる?」
「…………さあ……?」
とぼけてみるがこうなった理由は予想ができる。きっと俺がギターが弾けることを知ったからだろう。
(面倒なことになったな……)
さっきの様子を見てざわつくクラスメイトを見てそう思う。この騒ぎを収めるにはさっさと断ってしまうのがいいだろう。
「……やらない」
「ええー、何で?ギター弾けるのに」
「…………」
余計なことを口走ってくれたものだ。これ以上ボロを出される前にさっさと会話を終わらせたい。
「大勢の人前で弾いたことがないからだよ。そもそも人前で弾けるような腕前じゃない」
「練習すればなんとかなるって」
「1ヶ月で?」
「うん」
葛城は力強く頷く。
「……無責任だな。楽器をやってきたなら1ヶ月という時間がどれだけ短いかわかるはずだ」
音楽は簡単に上達しない。かじっただけの俺が言うのは説得力がないだろうが、みんなにもわかってもらえるはずだ。
「わかってるよ。1ヶ月は確かに短い。でも、本気でやればできるはずだよ。そもそも私は学園祭で上手い曲を披露するのが目的じゃないよ」
「……じゃあ、何が目的なんだ?」
「音楽を楽しむために決まってるよ。下手でも私達が楽しめればそれでいいの」
「!!」
再び葛城に莉愛の姿が重なる。
「じゃあ、俺じゃなくてもいいだろ。葛城が呼びかければ人は集まると思う。俺じゃなくても……」
「生駒君がいいの!!」
その発言に教室が凍る。先程の発言だけを切り取れば強烈なラブコールだ。俺も何を返していいのかわからなかった。
「………………」
視線が一瞬莉愛とぶつかる。彼氏が言い寄られているのだ。いい気はしないだろう。
「と、とにかく俺は……」
「告白!?大胆過ぎっ!!」
「ヤバいって」
「面白くなってきたー」
女子の盛り上がる声で俺の声はかき消されてしまう。もうこうなってしまっては誰にも止められない。
「お前ら、うるさいぞー」
ちょうどいいタイミングで土井先生が教室に入ってくる。
「何を盛り上がってるか知らんがホームルーム始めるぞ。席に座れー」
土井先生が大きな声で呼びかけるも教室内の盛り上がりは静まらない。
「何があったんだ?」
この疑問が出るのも当然だろう。
「葛城さんが生駒君に告白したんです」
「は……告白……?ったく、初日からどれだけトラブルを起こすんだよ……」
「ち、違うんです」
もはやこの騒ぎは俺の力では止められない。高橋先生にしかこの場は収拾できないだろう。
「色々と誤解があるんです」
「そうなのか?」
「はい。まず葛城は俺に告白をしていません。学園祭のバンドに入ってくれと頼まれただけです。ただ、言い方が……その、良くなかったというか……」
俺は事実を述べる。
「ほーー……そういうことか……」
土井先生はうんうんと頷く。
「生駒、お前……楽器ができるのか?」
「えっ……」
なぜ土井先生がその質問をしてきたのかがわからなかった。
「…………一応……少しですが……」
ここで嘘をついても後でバレるので俺はひとまず認める。
「なんで……そんな質問を今するんですか?」
「実はな……今、学園祭の生徒有志の応募数が一昨日までゼロだったんだ」
「は、はぁ……」
猛烈に嫌な予感がした。
「有志だから強制はできないけど、盛り上がりには欠けるから何とか誰か出てくれないものかという話が教員の間で出ていたんだ。しかし、昨日応募があったんだ」
土井先生は葛城を見る。
「それが葛城だ。ただ、葛城は転校してから間もないし学園のこともよくわかっていない。もちろん去年の学園祭のことも知らないだろう。それに色々と不安でな……」
気持ちはわからないわけではない。
「生駒さえ良ければ葛城と一緒にバンドをやってくれないか?」
「……………」
まさか土井先生が敵に回るとは思っていなかった。
「……少し……考えさせてもらっていいですか……?楽器ができるといっても人前で弾いたことはないですし……」
「もちろんだ」
「………………」
本音を言えば断りたかった。しかし、土井先生に頼まれた以上無下に断ることもできなかった俺はひとまず保留することにした。
(最悪だ……)
予想外の展開に絶望するしかなかった。
「じゃあ、ホームルーム始めるぞ。席に着けー」
少し落ち着いたクラスメイトは席に着いていく。
「…………はぁ……何でこんなことに……」
「よろしくね。生駒
葛城は席に座り満足そうに笑みを浮かべる。
「…………まだやるって言ったわけじゃない」
「強情だなぁ……」
「なんで俺を誘ったんだ?ギターを弾ける奴なら探せばいるかもしれないだろ」
先程葛城に聞きそびれたことを問いかける。
「昨日音楽室でギターを弾いている生駒君がすごく楽しそうだったからだよ」
「……俺が楽しそう……?」
そんなわけがない。他の誰でもない弾いていた本人が言うのだから間違いない。
「うん。昔を思い出すような感じっていうのかな……。すごく優しい顔をしてた」
「…………」
弾いている姿を見てそこまでわかるのかと俺は思わず感心してしまった。同時に彼女に警戒心を覚える。
(……葛城
俺はそう思った。
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