第23話 半獣人
夜。野営地。
竈の火の前でゴトーは肉の塊を焼いている。
「あまり目立つことはせんようにな」
「配慮が足りなかった」
「一応、他言はせんと約束してくれたからな」
「そうか。俺に不利になるようなら始末も考慮するが」
「物騒じゃのう。人を殺めることにためらいはないんか?」
「そういう裏世界で渡って生きてきたからな」
「暗殺者言うとったのう。その眼つきや今までの素振りで察せられるわ」
「・・・・・」
「まあ他人の過去など興味はないし、ワッチも聞かれると言えんこともあるでのう」
「・・・・・」
「聞きたいんか?」
「・・・・・」
「ええわええわ。ゴトーは他人の話は興味がないと分かっとったわ。言うておくが、ワッチも誰彼かまわずペラペラと過去話をするほど危機意識は低くないんじゃぞ。用心深いし、街では変装して極力他人とは接しんしの。
じゃが、ゴトーなら不思議と信用できそうでの。口も固そうで吹聴もせんじゃろうし。まあ転移人じゃからいうのも大きいのかもしれんがのう」
「別に過去の話を無視していたわけではない」
「どう見ても受け流しておっただろうがい」
「俺は他人の過去を聞く時は、一生を掛けて全力で受け止める姿勢だ。それまでの人生を聞くからには、警戒を絶やしてはならない危険な森は適切とはいえない。
俺はどのような状況下でも緊張感の欠如や警戒を疎かにすることはしない」
「……ゴトーなら大丈夫思うがの」
「俺は臆病で用心深い男だ。小さくひ弱な獣であろうが過信することなく全力で望む。それを怠った者が命取りとなることを知っているからな」
「……用心深く、臆病か。ワッチと同じタイプじゃな。2人とも臆病で疑心暗鬼の塊。なんとなくそう思うとったわ。ゴトーも誰も信用も信頼もせん部類じゃとな」
「似た物同士が出会ったというわけか」
「ワッチはちょっとは、ゴトーを信用しかけてるがの」
「信用は実績と人間関係の積み上げなしに構築はできない。お互い信用を得るには長い期間が必要だ。これからの信頼関係を構築していくうえで、いずれ過去の話を聞かせてもらおう。
今はお前の護衛の任務を優先させてもらう」
「……分かったわ。ゴトーの信頼を得るか。こりゃ難しそうじゃの」
「正直、もう信頼はしているか・・・。
短い付き合いだが今までの言動から信用に足る人物。それこそ背中を任せてもいい相棒レベルかもしれない」
「……相棒?」
「相棒とは本当に信頼している相手にしか使わない言葉だ」
「……ゴトー」
「申し分のない幼女のツッコミは好感度が高く、異世界ポイントが高い」
「……ん?」
「いずれ、落ち着いたら過去の話を聞かせてもらうがいいか?」
「お、おう……」
――ワッチを信頼、相棒か。久しぶりに嬉しい言葉を貰ったのう。相性もあるんじゃろうが、なかなかそれに値する人物とは出会えんからの。
――なんか不穏なことも言うとったの。
「幼女のツッコミは好感度が高く、異世界ポイントが高い」
なんじゃろ、これ?
ゴトーを見る。
煙草を吸うゴトー。
――まあ、ゴトーじゃからな……。
「そういやアヤツら全員、人族と獣人のクォーターじゃぞ」
「何!!」
「うおっ!」
ゴトーはシューティングスターの面々を見る。
「なんじゃその今までにない喰いつきは?」
「耳が、ないが」
「耳? ああケモ耳かい。両親のどちらかの因子を持って生まれてくるでの。人族と獣族が結ばれても耳が頭に生えるとは限らん。アヤツらは人間寄りの「半獣人」というのじゃ」
「半獣人?」
シーナは獣人と、人族による異種族との差別、迫害、奴隷制の説明を始める。
――
「半獣人」
表面的には人族。(例 シューティングスターの5人)
「獣人」
表面的には人族で、生まれつきの先天的の獣耳や尻尾が生えている。
ある条件や「覚醒」によって、後天的に半獣人から獣人へと変貌する例有り。
「純獣人」
体毛に覆われ顔形は獣の二足歩行の人型。
ある条件や「覚醒」によって後天的に純獣人へと変貌する例有り。
純獣人の存在は王国での確認は10人に満たない。(冒険者ギルド調べ)
「覚醒」とはある一定の条件を満たすと発現。
半獣人から、獣耳尻尾が生え獣人へと変貌。
稀に半獣人から2段階の純獣人への例有り。
覚醒するとLVの向上。スキルギフトの増加。
能力の向上、潜在能力の向上。
LVは上昇するが、大成する者はごく一部でそれほど多くはない。
亜人の覚醒は稀有。
覚醒後、変化、見た目があまり変わらない。
シーナは亜人で覚醒、SSランクまで上り詰めた稀有な例。
半獣人の選別、見分け方は「感受」スキル。
――
「これは王族や貴族、特権階級らは許容できん話しじゃが、何千年何万年、様々な異種族同士この世界で共存してきた。純粋な人族などはおらん。血が薄まっておるがどこかで必ず異種族同士交わっておる。
ワッチの先祖も人族や獣族と混じり合っておったろう。その因子で突如耳が生えていた可能性もある。まあ、亜人は血が濃く他種族の血は受けつけんらしいがな」
「獣人の血か・・・。それを許容できないのが人族至上主義者いうことか。
形態が違うが地球でも昔から肌の色を理由とした迫害や弾圧はあった。今では人種差別撤廃を叫んでいるが、後進国や発展途上国ではまだまだ根強い差別が行われている」
「チキュウでも、肌の色とかで同じような差別とかあるんじゃのう。ここでは主に半獣人、獣人、能力のない亜人の扱いじゃな。けっこうな数、最下層の底辺の生活を送っておる。
あの5人はまだマシじゃ。冒険者としてそこそこ能力も力もあるでやっていけてるでの」
「半獣人には、耳や尻尾はなしか・・・」
「獣人の可能性もあるぞ。任意で耳も尻尾も隠せる「擬装」スキルもあるからの」
「俺のスキルボードには「感受」スキルがないな」
「信じられんギフトがあるのに、低スキルの「感受」がないのが不思議じゃわ」
「鑑定で確認すれば・・・」
「鑑定て、獣人族は出自や耳や尻尾は晒されたくはなかろうぞ。まあ、こっそり視るんなら別にええんじゃろうが」
「いや、敵になるなら鑑定も辞さないが、敵意のない者には鑑定をすることはない」
「真面目な男じゃの。
ワッチの「感受」からは、3人はオオカミ族。ネッコ族にウッサ族じゃな」
「ネコにウサギか。
聞くが、語尾にニャンとかピョンとかつけるのか?」
真剣な表情のゴトー。
「おい、いままでで一番、テンション高いくないか?」
「初獣人だからな」
「あの一番右端のウッサのサミンは、ピョン言うてたな。獣人は意識してないとポロッと出るらしいし、あざとい奴はニャーニャーピョンピョンうるさいぞい」
サミンを凝視するゴトー。
「え? ゴトーさんからなんか熱い視線が……」
「ねーよ」
「ほら! わたしのお尻を視姦してくる!」
「誰が痩せた貧相なお前のを」
「ん? 頭も? あの目は狙われてる? ゴトーさん、まさか契の交尾を(♡)」
「サミン、エルが居るんだ。欲情はしないでくれ」
「獣人は視線に敏感なんじゃ。あまり見ないでやってくれ」
「耳や尻尾がなければ地球人からすればただの人だな」
「獣人が好みなんか? 渋面のゴトーには似合わんし、そういうのとは無縁そうにみえるが。あー、ペットが何匹もおる獣好きじゃったな」
「性的欲求は皆無だ。愛でモフモフするだけで俺は満足する」
「………」
「これだけの肉の量。5人に分けても構わないか?」
「………」
「ダメか?」
「ワッチもそのつもりだったんじゃが、ゴトーよ」
「何だ」
「獣人の話をしてから、完全に護衛のこと忘れ去ってる思うんじゃが」
「・・・・・」(汗)
――まさかそこまで獣人に対して琴線に触れるとは……。うすうす気付いておったが、これがゴトーの本質なんじゃろうか?
――
23 半獣人 終わり
24 登場人物一覧
――
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