第4話「へっぽこ勇者」
魔王は世界にとって、病魔のような存在である。
そのため魔王が出現すると、それに対抗するために世界は人類から英雄を選定する。
英雄は全てで三人。
聖女。
賢者。
そして勇者だ。
世界は魔王を討伐しうる、最も可能性が高い人物を選びその称号を与える。
称号を与えられた者には唯一無二の特別な力。
ユニークスキルが与えられ、証として手の甲に紋章が浮かび上がる。
この
今までの99の世界でも、人類の中で最も魔王を討伐できる可能性が高い者が選ばれていた。
この世界でも同じ。
同じ、はずなのだが……。
頭を深く下げた勇者のバックパックから半分ほど中身が落ちると、嫌な静寂に包まれた。
反射的にレベルを盗み見てしまう。
因みに平均成人男性のレベルが5。
騎士団や冒険者のトップがレベル10〜20程度と世界によって差がある。
そしてこの勇者のレベルはと言うと……。
2!
レベル2!!
思わず目を擦ってしまった。
でも数字は変わらない。
「あー……えっと……」
「わかっています! 自分がへっぽこでポンコツですっとこどっこいなのは痛いほどわかっているんです!」
くわっと涙目の顔を上げて言う。
「でも勇者に選ばれちゃったんですうぅぅぅ!!」
ガチ泣きである。
そりゃ泣きたくもなるだろう。
自信のない自分に世界の命運を背負わされたら。
俺も泣きてぇよ。
しかし、どんな勇者でも魔王討伐まで導くのが俺の責務。
後々こいつには追放されないといけないが、程よい友好関係を築いていかないといけない。
でも、いきなり泣かれても面倒くせぇな……。
「……今、面倒くさいと思いましたね」
「へ?」
「いきなり泣かれても面倒くせぇなって! 思いましたね!」
な、なにぃ!?
心を読まれているだと!?
まさか、こいつ女神が化けているんじゃ?
「私のユニークスキルなんです……」
ユニークスキル?
ああ、そうだ! 勇者にはユニークスキルがある!
中にはあまり能力がそれほど高くない勇者だっていた。それは低い能力以上に優れたユニークスキルが発現する人物だったから勇者に選ばれたのだ。
つまりこの勇者だって!
「私のユニークスキルは困った人の心の声を聞く事ができる能力なんです」
え?
困った人の?
心の声を?
聞くことが?
できる?
だって?
び、びみょー……。
全然低いレベルを補えてねぇし、なんも戦闘に役に立たねぇじゃん。
でもまぁ本人も気にしてるみたいだし、何か一ついいところを見つけて慰めないと。
「まぁ、その、優しさが滲み出るユニークスキルだな?」
「気を遣わせてすみません……」
「いや、そんなことは……」
「大丈夫ですよ。全部聞こえてますので、ダメダメな勇者に困ってるあなたの心の声が。びみょーですよね……」
っぐ。
やりずれぇ!
どうしろって言うんだ!!
「いつもこうなんです。鈍臭いせいでよく周りには気を遣わせてしまうのです。でも、私のことで困った人の心の声が聞こえるので、本心が丸分かりなんです。はは……」
ここまで来ると、どうしようもない勇者に絶望するよりも、一周回って可哀想に思えてきた。
「大変なんだな……」
もう月並みの同情しかできない。
「でもまぁ、悪いけど勇者に選ばれた以上、頑張ってもらわないとだな」
同情はするが、世界救済とはまた別の話だ。
勇者であるからには魔王を討伐してもらわないといけない。
ユニークスキルの使い道は置いておいて、レベルなら努力で上げる事ができる。
悪いが厳しくいかせてもらうぞ。
「見捨てないんですか?」
「なんでだよ。勇者なんだろ?」
「だって、今までに協力してくれようとした人や国には失望されて追放されてしまったので……」
は? 俺がお前に追放してもらわにゃいかんのに、既にお前が追放されてるの? 国レベルで?
そんなにヤバいのかこの勇者。
でも俺には選択肢はない。
こいつが勇者であるからには、俺は勇者のサポートが任務なのだから。
「……俺は見捨てない。お前がどんなにへっぽこでも、勇者である以上な」
腰を下ろして落ちたアイテムを拾い始める。
「っ!! ありがとうございます! よろしくお願いします!」
勇者は感極まったような顔をすると、改めて勢いよく頭を下げた。
案の定、バックにあった残りのアイテムが俺の頭に落ちてくる。
「ひゃっ!? ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
こうして俺は無事に? 現地勇者との合流に成功したのだった。
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