第36話

ノスタルジックな感情。子ども時代や青春時代を振り返って、感情が揺らぐ感覚は何だろうか?

うまく表現できないが、秋村の実家は田舎で、窓からよく陽の入る、夕日も眩しい家だった。夏のある日、学校帰りで親が帰宅していない部屋で、熱気のこもった部屋で書棚の本を手に取ってみる。「TSUGUMI」という題名の吉本ばななという作家の青春小説。または学校の教科書に掲載されていた山田詠美という作家の青春小説でもいい。まだ自分が生まれてすらいないとき書かれた小説だったが、そういった「青春小説」を手に取ってパラパラとページを読んだときの、何か心が締め付けられるような、遠くに思いを馳せるような感情。

そのとき秋村は中学生くらいで、特に学校生活に困っていることもなかった。これから僕にはこんな色々な人生や出来事が待っているのか、といったような何か切なさと期待が入り混じった不思議な気持ち。


それが今ではすっかり中年のおじさんとなった秋村は、大きくは過去に後悔しか感じていなかった。

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