僕に生き方を教えて下さい

砂歩

歌声

夜が好きだ。誰もいない街中。誰もいない公園。物音1つしない静寂を破るのは、僕の立てる足音のみ。

まるで、僕だけの世界みたいだ。

そんな僕だけの世界に、僕以外の誰かが立てる音が響いた。まるで、自分もこの世界に存在しているんだと、主張するかのように。


「生きたいにおやすみ 死にたいにおはよう

楽になりたいって思うそれは悪い事なの?

生きたいは正義で 死にたいは悪者

それを押し付ける君は一体何者なの?


ha~散々聞かされた正論がとても耳障りだ

ha~燦々と降り注ぐ朝日がとても嫌いだ


人それぞれ違う形の心を持っているのに

僕に送られる枠にハマった言葉たち

否定するだけ無駄だから何も言わず聞き流して

自分の気持ち再確認する


生きたいにおやすみ 死にたいにおはよう

楽になりたいって思うそれは悪い事なの?

生きたいは正義で 死にたいは悪者

それを押し付ける君は一体何者なの?


ah~散々な人生だ全然上手く生きていけないや

ah~燦然と輝く星空はとても好きだ


人それぞれ違う色を持っているはずなのに

求められるのは使える色ばかり

否定する気はないけれど 肯定したくもないからさ

自分の気持ちが固まっていく


生きたいにおやすみ 死にたいにおはよう

楽になりたいって思うそんな世界なんだよ

おはようにおやすみ おやすみにおはよう

もう起きたくないんだ寝てていいかな?

もう起きたくないんだねてていいよな。」


歌声。ギターの音色。歌詞。全てが僕の心を激しく揺さぶった。

頬を熱いものが伝う。この感覚はなんだろう。感動している?近いけど違う。ならこの感情はなんなのか。

共鳴。この音の主は僕と同じだ。

その結論に至った瞬間、僕は走り出していた。


駅前のベンチに音の主の姿を認め、息を整えながら近付く。

街灯に照らし出されているその姿は小柄な少女だった。歳は10代半ばだろうか。肩口にかからないぐらいの黒髪に、整った目鼻立ちの少女。身長は150前後にみえる。その体格には不釣り合いに大きなアコースティックギターを抱えている。

「あの…」

僕の接近に気づいていたのか、突然声をかけられても特に驚いた様子もなくこちらに向き直る。

「ありがとう」

何故か咄嗟にでた言葉がそれだった。

そんな僕の言葉を受けた彼女は、訝しむ事もなく、僕の目を見据え小さく呟く。

「完成、かな」

「え?完成?」

「そう。曲って誰かに届いて初めて完成だから。だから人の数だけ曲は完成させられる。今君が1つ完成させてくれたんでしょ?」

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