じつは家族の絆を試されまして…

考えたい

じつは弟妹間違いを犯しまして……

第1話 じつは宇宙で仕事をしておりまして…

 漆黒の空間にぽつりぽつり見える、彼方遙の恒星が発する光が浪漫チックで人の心を擽り続けたのは言うまでもない。だが、それほど雄大な景色と言っても慣れればどうって事も無いもので。

 ヘルメット越しに欠伸をするのは、真嶋涼太航空自衛隊三等空尉である。

『Enceladus Approach, JASDF 3 Echo 1, leaving flight level 236-014, desend cross Amaterasu Hotel 153.』

(エンケラドゥス進入管制、こちらは航空自衛隊第三宇宙航空団エコー隊隊長機。現在我が隊は土星衛星系座標236-014、アマテラスH153付近を飛行中。)

『JASDF 3 Echo 1, Enceladus Approach, cleared to runway 32 via Susano Delta 3.』

(航空自衛隊第三航空宇宙航空団エコー隊、こちらエンケラドゥス進入管制。スサノオD3を経由して三十二番滑走路への進入を許可します。)

『Roger, cleared to runway 32 via Susano Delta 3, JASDF 3 Echo 1.』

(スサノオD3を経由して三十二番滑走路への進入許可、了解。)

 そうこうしているうちに基地からの進入経路指定が伝達された。

 隊長機を追いかけつつ、着陸体勢を整える。

 するとピピーンピピーンという独特な電子音を立てて秘匿回線の着信を知らされる。

『おう、涼太。訓練の調子はどうかな?』

『親父…、あんまり私用で秘匿回線を使うなよ。』

『まあまあ良いじゃねぇか。コレも艦長の特権よ。』

 発信したのは涼太の父、かげろう型宇宙駆逐艦ゆきかぜ艦長真嶋太一三等空佐である。涼太と同じエンケラドゥス守備隊の護衛艦隊に所属している。

『丁度帰還する様子をレーダーで捉えてたもんでな。一言ぐらい労いの言葉をかけてやろうかと。ーそれで、父さん再婚したいんだけど、いいかな?』

『へ〜、再婚ねぇ〜、…ーさ、再婚⁈はぁっ⁈』

『ははははは、いい反応するなぁ。』

『いやいや、流れ流れ!会話の流れを考えろよ親父!』

第一に、「それで」の使い方が間違えている。第二に、訓練終わりの息子に向かってわざわざ秘匿回線で呼びかける内容ではない。

『親父、もう最終アプローチも近いからもう切るけど、後でじっくり話を聞くからな。』

『ハハハ、分かった。じゃあまた今度。』

 そうこうしているうちにエンケラドゥスの基地が見えて来た。航空管制の管轄もアプローチからタワーに切り替わってた。

 エンケラドゥスの地上は氷の世界であるが、其の氷の中に日本政府が保有する居住区域がある。施設の外縁部から居住区画まで一キロ離したりとなるべく氷を溶かさないように工夫しているので、活動の熱によって環境を破壊しないように建造されている。

 そのうち地上に敷設された滑走路を示す移動誘導灯が見えて来た。風などの気候条件が目まぐるしく変化する為、安全の為に一機一機着陸する決まりになっている。

 最後ではあるが、涼太の機が着陸する番になったので無線の回路を開く。

『こちらエコー5、着陸誘導願います。』

『あっ、涼太先輩。』

『お、今日のオペレーターはひなたちゃんか。』

 涼太はオペレーターが知ってる声で少し安堵した。彼女は上田ひなた三等空尉で、エンケラドゥス守備隊司令部付のオペレーターである。

『では誘導開始しますね。ビーコンΩに従って高度三百まで降下、その後方位226に展開している滑走路にマニュアルで進入してください。』

『マニュアル使わなきゃいけない程今地上は荒れてるの?』

『そうですね、すいません。』

『ああ、ひなたちゃんは謝らなくていいから…』

 ひなたちゃんは昔から少し自己肯定感が低い節があるが、普通にいい子だからそれなりに自信を持って欲しいものだ。実際作戦オペレーターの仕事を初めて四ヶ月とは思えない程オペレーションは丁寧で的確だ。

 エンジン動力を切り替えて、フラップを立てる。強風に煽られつつも所定の滑走路に進入する。

 気象レーダーに映る気流から風の変化を読み取りながら、フラップやエンジン推力を微調整する。

『滑走路まであと三キロ。』

 ひなたちゃんの声が無線越しにヘルメットの中に響く。

『風向変化、滑走路角度修正11.5度。』

『11.5⁈』

 どうりでサブオートすら使えない訳だ。

『修正不能、ゴーアラウンド。再度計算の上、滑走路を展開されたし。』

『すいません涼太先輩、私のオペレーションが未熟なばかりに…』

 またシュンとしちゃった…

 次こそは成功させねば。

『大丈夫だよ、今回は気候が意地悪なだけだから次は上手く行くさ。』

『ありがとうございます。』

『いえいえ。』

『では改めて誘導指示を出します。方位315、中心座標変化なしです。』

『了解、誘導ビーコン乗った。』

 そのまま徐々に高度を下げていく。移動誘導灯が目視できるようになった。ギアを出し、最終着陸態勢に入る。

 フリフリと灯火を振っている最終端の誘導灯ロボが見えたところで機首を上げそのまま後輪を接地させ、滑走する。

 強風に煽られているせいか、地球で訓練した時より早く停止した。

『ありがとうひなたちゃん。』

『お疲れ様でした、涼太先輩。十五号エレベーターで格納庫にタキシングしてください。それでは後ほどお出迎えに参りますね。』とひなたちゃんは言い残して無線を切った。

 格納庫エレベータの内部に設置された自動誘導装置に機の操縦を委ね、頭の後ろで腕を組んで伸びをした。その後ゴー、というエレベーターの作動音が響き渡り、三十秒ほどで格納庫エリアに到着した。

 そのままトラクターに牽引されて所定位置に戻ったところで漸く風防を開けることができた。

 搭乗員待合室を抜けて制限区域を抜けると、気をつけの姿勢でひなたちゃんとその兄、エンケラドゥス守備隊航空偵察隊の若きエースであり、そして涼太の親友である上田光惺二等空尉が待っていた。

「お疲れ様です、涼太先輩。」

「涼太お疲れ。」

 そう言って律儀にも敬礼してきた。もっとも光惺の表情は相当怠そうだが。

「ただいま。」

 でもそうは言っても親友に出迎えてもらえるのは嬉しい訳で、涼太も思わず笑顔になる。

「あと涼太、お前また無線でひなたといちゃつきやがって。」

「いやいちゃついてないが⁈というか光惺よ、お前もちゃんとひなたちゃんに構ってやれよ。」

「面倒いからパス。」

「あのなあ光惺…」

「涼太先輩、またうちの兄がすいません。」

「いやいやひなたちゃんは気にしなくていいよ。それより光惺、マジで考えてくれ。」

 光惺は気怠そうに涼太とひなたを見渡した。

「チッ、飯行くぞ。」

「うん行こう。って光惺、今舌打ちしなかった⁈」

「どうでもいいだろ。」

「またうちの兄がすいません。」とまたひなたちゃんがペコペコし出した。

 そうしながら三人揃って飲食店街に向かう三人の足取りは軽かった。

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