15.チャージオン・プラズマスパーク(高電圧融解撃)!

 「“試演会”とは──」


 学院長室での個人授業プライベートレッスンが終わった際に、クロウリンデ学院長が、アンナにくだんの学校行事について解説してくれた。


 「非魔法文明出身である貴女に分かりやすく例えるなら、「全校生徒参加の春の体力テスト」とでも言うべきかしら」

 「あ、思ったより穏当な行事イベントだった!?」


 ルームメイトセイラの口ぶりから、もっと物騒な代物を想像していたアンナは、ホッと胸を撫でおろしたのだが……。


 「あくまで比較的近いものを当てはめれば、の話よ。この場合、測られるのは魔法の腕前だし、単なる“測定”ではなく“試験テスト”だから、ポイントがあまりに低ければ補講&追試になるわよ?」


 全然安心できる話ではなかった!


 「え……となると、ボクの場合、ちょっとシャレにならないのでは?」


 なにせ、今のアンナは、下等科の基礎教科書にひととおり目を通した程度の魔法知識しかない。そして知識以上に“実技”に関しては惨憺たる有様だ。

 某呪われた島や剣世界系TRPGで例えたら、発火(ティンダー)と灯明(ライト)と武器魔力付加(エンチャンテッドウェポン)が、どうにかこうにか使えるようになった程度。

 とても「魔法技術の測定」に耐え得る状態ではない。某ゼロが仇名のツンデレメイジよりもヒドい結果になるのが目に見えていた。


 「(いや、1週間程度で魔法知識ゼロからその3つを覚えただけでも、かなり優秀なんだけど……)

 その辺は、貴族や富裕階級以外の一般庶民出の生徒なら、五十歩百歩でつまづく問題ではあるから、対処方法はあるの」


 学院長いわく、下等科の試演会は、学院地下に設けられた人造迷宮に赴き、配置された疑似モンスターを撃破していく、オリエンテーリング+アクションゲームのような形式で、しかも単独ソロではなく2~4名のチームで当たることが前提。

 さらにその二人組ペアは、よほどの事情がない限りは同室の者ルームメイト同士で組むことが推奨されるらしい。


 「あぁ、それでセイラが気にかけてくれたんですね。

 ──ん? もしかして、ボクみたいな庶民出の魔法初心者って……」

 「おや、気付いたみたいね。ええ、そういった初心者新入生は、基本的に入試時に魔法実技が優秀だった生徒と同室になるよう工夫されているわ」


 とは言え、バランスをとるのは“魔法技術”だけなので、人間としての相性までは考慮してないという。


 (あれ? それじゃあ、“本物のアンナ”の場合、セイラとの相性なかが最悪だから、メチャクチャ苦労するハメになったんじゃあ……)


 あるいはソレも、彼女が逃亡を選んだ理由のひとつなのかもしれない。


 ともあれ、そういうコトなら早速セイラと相談するため、一礼して自室に戻ろうとしたアンナだったが、「待ちなさい」と学院長が呼び止めた。


 「そう言えば、貴女自身あんな・くれいの魔法適性は、まだ計測していなかったわね」


 他の生徒は入学時の健康診断で一緒に計測されているらしい。


 「“本物”の方は、火水風土4属性にバランスよく適性があったけど、貴女はどうかしら? ソウルツインだから、おそらくそれに近いとは思うのだけれど」


 執務机の引き出しから、学院長は適性鑑定用の魔導具を取り出す。

 それは、古式ゆかしい占い師が用いるような直径10センチくらいの水晶玉の形をしていた。


 「もしかして、コレに手をかざせばいいんですか!?」


 異世界転生物の冒険者ギルドなどでの定番シーンを想起して、自然とテンションが上がっているアンナ。

 そんな彼女の(珍しく年相応の)稚気を見て、学院長は苦笑しつつ頷いた。


 「ええ、その通りよ。手を近づけてみて」


 言われた通り、アンナは右手を水晶玉にかざしてみる。

 すると、水晶玉が極彩色の光を放つ──のではなく、表面にデジタルな文字が浮かび上がってきた。


『生徒番号:5074 下等科1回生 アンナ・クレー

 魔力量:48 魔力錬成度:12

[魔法適性]

 基本:火3 水3 風3 土3 光4

 特質:雷5

[特技]

 魔力回復1』


 「これって、どうなんですか?」


 なんとなく思っていたのとは違うが、これはこれでアリか──と考えつつ、アンナは尋ねる。


 「そうね。まず、一般人の魔法適性は軒並み0か1ね。普通に魔法を使用できるのは2以上だと考えてちょうだい。

 そのうえで、3以上の適性が3つ以上あれば、そこそこ優秀。

 ひとつでも4以上があれば、かなり優秀。

 そして適性値5を持つのは「魔導士全体の上位1%程度」だと言われているわ」


 どうやら五段階評価だったらしい。


 「──すると、全部3以上で、4と5がひとつずつあるボクは……」

 「おめでとう、少なくとも適性面では、貴女は同学年100人のなかでもトップ10に入るくらい優秀だと判明したわ」


 その評価を聞いて、さらにテンションが上がるアンナだったが、彼女が増長しないように、学院長は釘を刺す。


 「ただし、逆に言えばその程度。この学院に入る学生の中では、「毎年10人くらいはいるレベルの優秀さ」よ」


 つまり、「10年なり100年なりにひとりの天才」というほど飛び抜けた資質(モノ)ではない、ということなのだろう。

 それを聞いて、アンナは少し落ち着きを取り戻した。


 「(ま、そりゃそうだよね)はーい」

 「それと──雷系が5というのは、ちょっと惜しいわね」


 学院長の言葉を聞いて、アンナは意外に感じる。


 「えっ、もしかして“雷”って、いわゆるハズレ属性なんですか!?」


 アンナ的には、ラスボスや主人公ではなくとも、四天王や主人公の頼れる先輩(もしくはライバル)枠が持ってそうな属性なので、てっきり強いと思っていたのだが……。


 「あぁ、誤解しないで。雷系の魔法自体は、かなり有用よ──ちゃんと熟達して使いこなせれば、ね」


 含みのある言い方に、アンナはちょっと考え──はたと気が付いた。


 「もしかして、「使いこなす難度が高い」もしくは「使いこなせるようになるのに時間がかかる」タイプの属性なんですか?」

 「ええ、その両方だと考えてちょうだい」


 なので、十日後に迫った試演会で役立たせるのは、さすがに無理らしい。


 (そんな~~)


 なまじ希望が見えたと思っただけに、上げて落された気分になり、アンナは意気消沈する。


 「幸いにして“光”も4あるから、今はそちらを中心に鍛えていきましょ。光属性なら、初心者にも有用で覚えやすい魔法がいくつもあるわ」

 「そう、ですね。了解しました、はい

 (いくらセイラが優秀でも、彼女に全面的におんぶだっこは避けたいしね)」


 完全に復調はしなかったものの、希望はあるということで、なんとか自分を納得させるアンナなのだった。

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