電撃ウィッチ -助けた少女に騙され身代わりにされた少年は異世界で超一流の魔女となる-
嵐山之鬼子(KCA)
第一部
1.お呼びとあらば、即参上!
「クソ、コッチはダメだ。道が崩落している」
「急げ! あんな照明弾じゃ、一時しのぎにしかならねぇぞ」
石造りの建造物の中の薄暗い空間──俗にダンジョンと呼ばれる場所を、十数名の集団が走って、いや懸命に逃走していた。
「ま、待ってくれ! 足のケガが悪化してもう走れないんだ!」
泣き言を漏らす者もいるが、一行のリーダーは容赦せず、「ほら走れ、でないと置いてくぞ」と叱咤するのみ。ことさらに非情というワケでなく、それだけ余裕がないのだ。
──shgyaaaaaaa……!
なぜなら、やや遠く──しかし決して安全とは断言できない距離から、耳障りなナニカが咆哮するその声が、時折聞こえてくるからだ。
「ぅぅッ……どうしてあんな化物が……コレって楽な仕事じゃなかったの?」
逃走する一団には若い女性も混じっており、半泣き状態で愚痴っている。
事の発端は、エル・セタドーン皇国辺境の惑星ハイペルボリアで、およそ2000年前の古代文明の遺跡が発見されたことだ。
入口付近を軽く調査した限りでは、奇跡的に保存状態もよく、さらに当初の予想以上に大規模(地球で言うならクフ王のピラミッド並み)であることが判明した。
銀河星間国家連盟の盟主たる皇国だが、その国家としての歴史自体は1000年に満たない。
前史文明とも言える古代コルトナ帝国期に関する調査は、あまり進んでおらず、だからこそこの遺跡が古代魔導帝国時代のモノであることが分かったとき、ちょっとしたセンセーションを巻き起こした。
そして、中央からの肝煎りで、6人の専門学者と、10名の直属護衛、さらにほぼ同数の作業員(と言っても日雇い労働者などでなく、遺跡探索専門の冒険者など)が調査団チームを組み、入口の石碑の内容から「ベレルギース古代寺院」と命名されたこの遺跡を調査することになったのだが……。
調査3日目、あと少しで寺院の最深部──というトコロで、とんでもない“罠”、否、“守護者”が待ち構えていたのだ。
ソレは、一言で言い表せば「紫色の双頭のドラゴン」になるだろうか。
遺跡の構造に合わせたのか、トカゲと言うよりヘビに近い体型ながら、一応四肢はあり、また全長は20メートルを越えているだろう。
全身を丈夫な鱗に覆われ、大型ワニの数倍はありそうな
寺院内の大半の通路は高さ3メートル弱、道幅も2メートル半あるかないかだ。
そんな環境なので、調査団の護衛陣も大型火器の類いは持ち込んでおらず、手持ちの小火器類では、頑丈な鱗に守られたドラゴンに傷ひとつ付けられなかった。
こういう閉所で頼りになるはずの魔導士たちの魔法──魔導術や法力操作も、相手が古代魔導帝国時代からの生き残りであるせいか、ほとんど効いてるように見えない。
ほうほうのていで逃げるハメになった調査団一行だが、ドラゴンの追跡は執拗かつ攻撃的なモノだった。
ふたつの頭から放たれる大音量の咆哮は振動となって遺跡の脆い部分を壊し、高熱のファイヤーブレスと極寒のアイスブレスの時間差攻撃は、直撃せずとも、熱衝撃を発生させ周囲の物体を大幅に脆くする。
入り組んだ寺院の構造も逃走を困難にし、気が付けば一行の人数は当初の半分近くにまで減少していたのだ。
それでも、遺跡の1階付近まで逃げ延びたものの、ついにドラゴンに追いつかれ、入口への直通路に先回りされてしまった。
「畜生、どうすれば……」
このまま外までおびき出せれば、戦闘艇の主砲などで、コイツを滅ぼすことも可能なはずだが、生き残った人々にとっては、入り口までのあと百メートルほどの距離が、限りなく遠く感じられた。
絶体絶命という言葉を思い浮かべ、護衛のひとりである一級魔導士ルリエリは、暗澹たる気持ちに陥っていたのだが……。
『──ルリエリ先輩、皆に右の方の壁に身を寄せてくれるよう伝えてください』
唐突に頭に飛び込んできた、波長に覚えのある念話に驚きつつ、言われたとおり「皆、できるだけ右の壁にくっついて、早く!」と大声で指示する。
半信半疑ながら調査団の生き残りがその指示に従った直後、ドラゴンは背後から直径30センチはありそうな“ごん
「魔法自体に対する抵抗力はすごそうですが、物理現象化すれば、それほどでもありませんね」
痛みと驚愕に目を血走らせて振り向いたドラゴンの視界に、黄色に近いオレンジの、ローブともドレスともつかない衣装を着た若い女性の姿が映る。
その人物こそが、自分を傷つけた張本人だと直感したドラゴンは、大きく息を吸い込んで溜め、得意の二属性ブレスを吐こうとしたのだが……。
「
冷酷に言い捨てた黄衣の女性が、挙手のような姿勢で右手を上げ、そのまま素早く手刀を振り下ろす。
間髪を入れず、手刀に沿って“
──Ungyaaaa~~!!!
名状し難い悲鳴と共にビクビク痙攣するドラゴン。本人(本竜?)的には痛みにのたうち回りたい気分なのだろうが、流し込まれた電撃で神経系統が麻痺している上、筋肉部分も灼け焦がされて、まともに動けなくなっているのだ。
「麻痺りましたか。あとは詰めを誤らねば消化試合ですね」
その言葉通り、魔女と思しき黄衣の女性は油断することなく、雷系と光系の魔導術で徹底的に苛烈にドラゴンの身体を破壊し、息の根を止めた。
「わーん、アンナちゃん、ありがとぉ~!」
一息入れようと女性がフードを下ろしたところで、半ベソをかいたルリエリが駆け寄り、勢いよく飛びついた。
「やれやれ。そんな情けない顔しないでください。“氷の監督生”としての先輩の顔しか知らない子たちが見たら、幻滅しますよ?」
自分より背の高い女性に抱きつかれ、ちょっとだけ困ったような──それでも満更嫌そうでもなく、「アンナ」と呼ばれた女性は、ルリエリをなだめすかす。
「うぅ、言わないで。学生時代のわたしの言動は、ある種の黒歴史なんだから」
ともあれ、多少なりともルリエリが落ち着いたことを確認したのち、「アンナ」は運良く生き残っていた調査団の代表に近づき、懐から取り出した指令書を示す。
「アネット・エバンズ教授ですね? 惑星知事ラドルフ氏からの要請で、緊急救助に来ましたベナンダンティ所属の一級魔導士、アンナ・クレー・ヴォルツェフです」
「ベ、
エバンズ教授が発言を聞いて、周囲の人からの視線が、それまで以上に尊敬と畏怖に満ちたものへと変わる。
「ハハッ、そんなふたつ名で呼ばれるほど、ご大層な身分でもないんですけどね」
苦笑しつつ、指令書に教授のサインを受け取ると、アンナは身を翻し──ほんの一瞬だけルリエリに向かって目礼すると、魔導杖兼用の“
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