第31話「決着」
第三十一話「決着」
―ルシファーズハンマー
「本当に私達は雑魚の相手でいいのか?オーナー」
リィンが戦支度をしているルシファーに尋ねる。
ルシファーは無言で頷くとミカエルの槍を握りしめ、いつもの黒シャツ黒パンツの上に黒いコートとブーツを履いている。
ルシファーの勝負服という奴だ。
ルシファーはこれ以上時間を掛けミカエル達が力を付けるのを心配した故に先手を打とうとしているのだ。
「奴等の場所はクラウスから聞いている。フォルス、頼むぞ」
「分かった。大天使と戦うとは……私も焼きが回ったな」
ルシファーはフォルスの肩に手をやると二人は翼のはばたく音と共に消えた。
―メタトロンのアジト
ルシファー達がメタトロンのアジトに付くとそこにはミカエルとメタトロンがいた。
フォルスはミカエルを見るとルシファーに一つ提案をした。
「ルシファー、私に彼と、ミカエルと話をさせてくれないか?」
「なんだって?」
ルシファーは戦いに来たのである、話し合いに来たのではない。
しかしフォルスの意思は固い様だった。
「彼はただ洗脳されてるだけだ。本当は私と同じ神の僕の天使なんだ。メタトロン如きに従う奴じゃない」
「わかったよ、でも駄目だったら奴は予定通り殺すからな」
フォルスはルシファーの目を見ると強い意志を持って頷いた。
そしてミカエルに語りかけながら歩み寄る。
「やあ、ミカエル。私はフォルス、君と同じ天使だ。君に正気に戻って欲しい」
「うううううう……」
苦しみだして頭を抱えるミカエル。
もう一押しとフォルスがミカエルに近付く。
「頑張れ!君は誇り高い大天使だろう!負けちゃ駄目だ!」
「そうだな」
「わかってくれたか―」
グサリ
フォルスの体に古びた骨のナイフが突き刺さる。
フォルスは腹から血を出し地面に倒れ込んだ。
呼吸もできず喋れないでいる。
「フォルス!」
ルシファーがフォルスに近付いて治療を施す。
しかし傷口は広がるばかりで血は止まらなかった。
「おい!死ぬな!死ぬんじゃない!」
ルシファーの必死の治療も効果が無くフォルスは死んだ。
ルシファーは深呼吸すると指をパチンと鳴らす。
今はこの世界での天使と悪魔の死後の魂の場所が分かっている。
かつて神と出会ったあの場所だ。
魂の場所さえ分かれば蘇生する事ができる、その筈だった。
「無駄だよ、カインの刻印とカインの剣は魂そのものを滅ぼすのさ。蘇生なんて無理無理」
「カインの刻印に剣だって!?」
カインの刻印、そしてその剣、ルシファーには聞き覚えがあった。
現代にもあった古代の神器である。
―メタトロンのアジト、数日前
「メタトロン、貴様の策略は全て失敗に終わった。何が知性だ!」
「そう怒るなミカエル。次の手は考えてある」
「そもそも私の槍無しで不死の存在であるルシファーをどう殺すのだ!」
ルシファーは神の子であり、ミカエル同様に不死の存在である。
それを殺せる唯一の武器は神器ミカエルの槍だった。
それもルシファーに先を越され奪われてしまい、今度はこちらが危ういという状況である。
「さてミカエルよ、最初に殺人を犯した罪深き人間を知ってるかな?」
「カインだろう。自分の献物が神に退けられたのを恨んで弟アベルを殺した」
「そう、その時に付けられたのがカインの刻印だ。その刻印には天使と悪魔を殺せる力があってね」
「おお!それさえあればルシファーの奴を殺せるじゃないか!」
「それを最大限活かすにはカインの剣が要る。それはアベルの墓に埋葬されているはずだ。しかしカインの墓とアインの墓は秘密にされている」
「大天使以外にはな。異世界のルシファーは知らない筈だ」
「じゃあさっそく墓荒らしといこうか」
メタトロンはミカエルと共に天使の翼で消えた。
―メタトロンのアジト、現在
「これで互角になった訳だ、ルシファー。ミカエルも刻印の影響でパワーアップし狂暴性が増した。半身を失ったお前に勝ち目はないぞ」
勝ち誇るメタトロンの横でミカエルが気味悪くニタリと笑う。
右腕には二重の円の赤い痣がある……カインの刻印だ。
そしてその影響で大天使としての彼はいない、ただの狂戦士<バーサーカー>であった。
「うおおおおおおおお!!!」
「ミカエル!!!」
ルシファーとミカエルが槍とナイフで激しい攻防を繰り広げる。
しかし武器のリーチの差はあれど、武器の扱いに手慣れている生粋の戦士のミカエルの方に分があった。
キンキンキン
ルシファーが槍の柄でミカエルのナイフをなんとか捌いている。
このフォルスの仇を串刺しにしてやろうとルシファーは躍起になっていた。
「ルシファアアアアアアア!!!」
狂暴化したミカエルがルシファーに襲い掛かる。
その時である、偶然地面に突き刺さっていたフォルスの短剣がミカエルの足に刺さった。
悲鳴を上げ一瞬だが動きを止めたミカエル。
ルシファーはその隙を見逃さず、ミカエルの槍をミカエルの心臓に突き刺した。
ルシファーの目や口から眩い光が放出される。
そしてミカエルは顔を黒焦げにしその場に倒れた。
槍は心臓に刺さった衝撃で破壊された。
大天使の心臓は死ぬ時に膨大なエネルギーを発するのだ。
「さあ、次はお前の番だ、メタトロン。フォルスの仇、討ってやる」
ルシファーはミカエルの右腕に触れるとカインの刻印を引き継いだ。
正気を失いそうな程の強烈な破壊衝動に駆られるが必死にこらえる。
そして地面に転がっているカインの剣を拾うとメタトロンに向かって歩みを進めていく。
「ひっ!?」
メタトロンは天使の翼で逃げ出そうとするがそうはいかなかった。
予めゴブ子の協力で天使の翼封じの魔方陣をアジトに刻んでおいたのだ。
この封印は一方通行で、入る事はできても出る事は出来なかった。
「さあ、終わりだ」
「まて、あんな絵の偽物の天使に何故拘るんだ?共に神に反逆しようじゃないか!参謀は私が―」
メタトロンが夢物語を語る前にカインの剣がメタトロンを切り裂いた。
メタトロンは呼吸する事もゆるされずそのまま倒れ死んだ。
ルシファーはどうでもいいことが終わったかのように天に向かって叫んだ。
「父さん、メナス、これで満足なんだろう?君達はこの戦いに直接関与できないからね。望みは果たしたんだから今度はこっちの望みを聞いてくれ!」
すると天から男の声が聞こえる。
かつて自分を助けた神だ。
「今の私に魂の無い天使を生き返らすことはできない、メナスにもね」
「そうよ、だからフォルスは諦めて―」
「違う、僕が生き返らしたいのは画家の爺さんだ!」
―あれから数日後
「調子はどうだ、フォルス」
「ああ、今日も厄介な人狼を仕留めたよ」
結論から言うとこのフォルスは今までのフォルスとは別の個体だ。
絵の中身を現実に生み出す力を持ったフォルスの生みの親である画家の力で生み出された別のフォルスだ。
しかし画家は天才で機械よりも正確に以前と変わらないフォルスを描き上げた。
「しかし私が大天使と戦ったのか。信じられないな」
「君はそういう男だよ。忘れないでくれ、今度はな」
ルシファーはカインの刻印の痛みに苦しみながらフォルスの復活を祝った。
そしてこのカインの刻印はフォルスの仇を取る為だけじゃない、現代のミカエルを殺す為に使うのだ。
それまで刻印の痛みには耐えなければならない。
魂が引き裂かれそうなこの苦痛に。
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