第6話「ウルフズ・ウェア(狼の毛皮亭)」

 第六話「ウルフズ・ウェア(狼の毛皮亭)」


「ウルフズ・ウェアだって?まんまウェアウルフ(人狼)じゃないか」


 ルシファーはその隠す気も無い酒場の名前に驚愕もとい呆れていた。

 一方でリィンはピンときていないようだ。

 ルシファーはため息をつくとリィンに怪物の解説を始めた。

 まるでモンスター博士になった気分だった。


「彼らは人型の狼でね。鋭い牙と爪を持ち非常に狂暴だ。まあ満月にしかその姿にはなれないんだが」


「じゃあ盗賊の言っていた満月の夜に起こる猟奇殺人と言うのは?」


「十中八九彼らの仕業だろう。心臓も無いんだろう?奴等のやり口だ」


「こいつらも吸血鬼の様に増えるのか?」


「察しがいいな、その通りだ」


「弱点は無いのか?」


「心臓に銀の弾丸を……はないから銀の矢だな。さっそく用意させよう、満月の晩までに」


「正気か、オーナー!?満月の晩には人狼になるんだろう!?」


「その姿の時に殺さないと僕らはただの殺人鬼になってしまう。人狼の死体を残さないとね」


「そういう事か。しかし気が進まないな、敵が万全の状態の所に踏み込むなど……」


「その方が張り合いがあるじゃないか」


「さすがは異世界の魔王様、だな」


 リィンは皮肉抜きでルシファーを褒め称えた。

 例の血の館でのルシファーの虐殺ぷりを見たリィンはこの男なら人狼の群れを一人でなんとかできるのではないかと期待もとい安心していた。

 単なる自称異世界の魔王という称号も本当の物ではないかと信じかけていた。


 ―満月の晩・ウルフズ・ウェア(狼の毛皮亭)


 ルシファー達は大量の銀の矢を準備してウルフズ・ウェア(狼の毛皮亭)に乗り込もうとしていた。

 これから始まる戦いに高揚していたルシファーだったが、一方でリィンは武者震いしていた。


「さっき偵察した感じ10人はいたぞ?あれ全部人狼なのか?」


「そうだと考えていい。なんだ、怯えてるのか?」


「そ、そんな訳ないだろう!私の弓の腕、見せてやる!」


「ははっ、期待しておこう」


 ルシファーは高笑いすると酒場の扉を勢いよく開けた。

 その音に反応してガラの悪い男女10人がルシファー達に注目した。


 ガルルルル……


 一人の男が鋭い牙を剥き出しにし、その鋭利な爪を露わにしている。

 今すぐにでも狼に変身しそうな勢いだ。


「俺の店に何の用だ、同業者さんよ」


 長い髭の生えた年長者らしき男がルシファーに言う。

 異世界の品であろう茶色の皮ジャンにバンダナ、身体と顔の無数の傷跡、

 その男の雰囲気からして彼がこの店の店主なのは一目瞭然だった。


「おお、知っておいてくれて嬉しいね。さっそくだが君達に提案がある」


「提案だって?殺し合いをするんじゃないのか?」


 男と一緒にリィンも驚いている。

 こんなの計画に無いと言った感じだ。


「おいオーナー、話が違うぞ。戦うんじゃないのか?」


「その予定だったが話が変わった。彼らは良い兵士になりそうだ」


「さっきから聞いてりゃ兵士だって?金で俺らを雇おうとでも言うのかい?」


「金なんかよりももっといい物さ。強化してやろう」


「強化だって?」


「そうだ。銀に怯える必要もなくなるし、身体ももっと強くなる。デュラハン(首なし騎士)状態にでもならない限り死ぬことはないだろう」


「それが本当なら……へっ、凄い儲け話じゃねぇか。で条件は?」


「この店を僕の店の二号店にして貰いたい。後は僕の部下として指示に従って貰う」


 部下の悪魔を多数失ったルシファーにとって人外の駒を増やすのは急務だった。

 幾らルシファーがチート堕天使とは言っても、この広い異世界を一人で征服するのは難しいからだ。


「だがなぁ、俺達は使われるのは好きじゃねぇんだ。ここで死んで貰うぜ」


 クラウスと名乗った人狼の店主が合図を出すと人狼と化した店員達がルシファー達に襲い掛かった。


「それ見た事か。化物達に交渉など通じる物か!」


 リィンが悪態をつきながら銀の弓矢を構える。

 ルシファーも銀の短剣を構えると率先して人狼の群れに襲い掛かった。


「じゃあ仕方ない。子犬君達には死んで貰おう」


「舐めやがって!いけ、お前ら!」


 クラウスの合図で大量の人狼がルシファーを襲う。

 しかしルシファーには鋭利な爪も牙も通じず、その間にリィンの銀の矢に心臓を貫かれ絶命していた。

 ルシファーも銀の短剣で応戦する。

 短剣に心臓を貫かれた人狼達は目や口から激しい光を発し絶命した。

 そして店内の人狼が数少なくなったその時である。


「待った!その取引、乗ってやる!」


「今更虫がいいな。それに乗ってやる、だと?立場が分かっていない様だな」


 ルシファーは目を赤く光らすと手をクラウスにかざし、宙に吊り上げ首を締め上げた。


「わ、分かりました!部下にならせて下さい!」


「ふん、分かればいいんだ。じゃあ早速強化してやろう」


 ルシファーは一本の小さい試験官を取り出すとそれをクラウスに渡した。

 それはルシファーの体液をベースに作りだした特殊な強化剤だった。

 それは光を帯びており神秘的な印象を感じさせる。

 クラウスは意を決してそれを飲んだ。


「ん?身体から力が湧いてくるぞ!!これなら貴様も……」


 ルシファーに手を向けるクラウス。

 しかしルシファーは目を赤く光らせ余裕の笑みを浮かばせている。

 それを見たクラウスは自分はこのお方に一生勝てないのだと悟った。


「さあ残る酒場は後一つ、魔女の館だ」


 この酒場さえ潰してしまえばルシファーズ・ハンマー(悪魔の鉄槌)はこの街唯一の大型酒場となる。

 ルシファーはモヒート片手に今後の展開を考えた。

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