崩壊が起こす愛情の始まり、夫は浮気から、娘は、そして何も知らない妻

木桜春雨

第1話 夫の隠し事、娘の進学、そして互いは未来を想像する  

 1回だけのつもりが二度、三度と浮気というのは不思議だ、最初は妻に対する罪悪感で一杯だったのに、それがなくなってしまうのだから。

 気づかない妻の方が悪い、そう思ったのは彼女の言葉に後押しされたせいかもしれない。

 「もし浮気してるって思ったら、問い詰めたり聞いたりするけど、もしかして、奥さんは、あなたに対して関心がないのかしら」

 新入社員、恋人、今は愛人となった彼女の言葉に男は、妻は忙しいからと最初は笑って答えていた。

 高校受験が失敗した娘は精神まで少し病んでしまった、心のケア、高校に行かなくてもいいのではないかと妻は娘の為に色々な方法道を模索している。

 生活費の為にと結婚直後から務め始めたパートも辞めてしまった、娘の為にだ。

 最初は、そのことに対して不満などなかった。

 だが、あなたも娘に対して、もう少し声をかけて、気遣ってほしいと言われて男は何故と思ってしまった。

 自分が声をかけても娘は、どこか迷惑そうな顔で見るだけだ。

 こんなとき、思わず何故、死んでしまったんだと前妻を恨んでしまう。

 離婚して妻の病気がわかり、入院生活は長くはないまま、妻はあっさりと亡くなった、癌、といえば簡単だか、持病があり、その薬の副作用のせいもあったので手術してもと医者は言葉を濁した。

 多分、本人も分かっていたのだろう、娘の事を頼むと言われては引き取るのは自分しかいなかった。

 離婚して妻の顔を見ることはないと清々した気分だったのに。

 

 そして今の妻は子供ができない体だ、だから自分の娘を本当の子供のように可愛がってくれる。

 一緒に暮らし始めた当初はなかなか打ち解けることができず、反抗期のようなこともあったが、それも受験前にはなくなった。


 「最近、食欲、凄いわね」

 妻の言葉に男ははっとした、テーブルの上に並んだ皿の上の唐揚げはなくなっている。

 「メタボとか気にしないの、最近、でてきてるんじゃない」

 娘の言葉に男ははっとした、わずかだが、いや、はっきりとした嫌みを感じるのは決して気のせいではないはずだ。

 男は口から出そうになった言葉を飲み込んだ。

 数日前、娘とは喧嘩、いや、言い合いをしてしまった。

 将来の事についてだ、多分、そのときのことを根に持っているんだろうと思ったのだ。

 こんなときは誰でもいい、いや、優しい言葉が欲しいと思ってしまうのだ。

 そんなときだ、好意を持って近づいてくる女性社員の存在と言葉に揺れてしまった。

 

 「嬉しいです、一度きり、もう、会えないと思ってしまいました」

 その言葉に気持ちがぐらりと傾いてしまった、社内に家庭にばれなければ続けてもいいのではと思ったのだ。

 浮気は初めてではなかった、前の結婚の時に、そのときは誤り倒して許してもらったのだ。

 床に頭を擦りつけて、必死に謝った、そして許して貰ったのだ。

 そのときに思ったのだ。

 (女という生き物は……)

 だから、次にもし、再婚、結婚するときにはよく考えて失敗しないように、子供のことも考えてと思ったのだ。

 

 そして、再婚した。

 だが、前妻とは違うタイプの女性だ。

 子供が産めない事を気にしていたせいか、娘がいると知っても嫌な顔はしなかった、むしろ、喜んだくらいだ。

 最初は不安だったが、うまくいっている、そして若い愛人もでき他が、妻は自分が浮気していることに気づいていない。

 最初の結婚生活と比べると、とても満足している。

 ちょとした不安、いや、そんなものはない。


 その日。

 「浮気だと」

 男の声が大きくなった、すると妻は驚いたように彼氏のことよと少し困った顔をした。

 「ほら、あの子の彼氏ができたって言ってたでしょう」

 娘に恋人が、そんな話は聞いたことがない、いや、娘と話すことがなかったから、知らなかったと男は驚いた。

 「それがね、ホテルから出てきたところを」

 妻の言葉に男は驚いた、まだ学生だろう、だが、高校生ともなれば大人と変わらない容姿だ、中学生で不純異性交遊などとTVやネットでニュースになる時代だ。

 だが男が驚いたのは彼氏の浮気の現場を見た場所だ、何故、あそこでと思ってしまう。

 気をつけなければと思ってしまった。


 その日は珍しく、親子三人の夕食だった。

 娘が一緒というのは珍しい何か話さなければと思った瞬間。

 「あたし、別れることにした、ううん、あんな男、捨てることにした」

 娘の言葉に驚いた、思わず、やめろというつもりだった、少なくとも食事の席ではあまりにも不似合いと思ったのだ。

 だが、娘の視線に男はたじろいでしまった。

 まるで、そう、自分が。

 (責められている?)


 「留学、海外にか」

 娘の希望を妻から聞かされて男は驚いた、それも半年、一年ではない、あちらの専門学校に行きたいという。

 「大体、そんな金」

 「成績がよければ途中からでも奨学金が受けられるシステムなの」

 娘の言葉に男は驚きよりも怒りを感じた。

 もし途中で駄目だ、無理だとなって帰ってくることになったらどうするんだと。

 「今すぐってわけじゃない、一年後の試験でいい成績をとって」

 娘の言葉に納得できないと男は首を振った、ところが。

 「あなた、娘の望みを叶えてあげられないの」

 妻の言葉に驚いた。

 

 それから数日後、娘は母親から預金通帳を手渡された、留学の費用に使ってほしいと、三百万という金額に娘は驚いた、

 だが、それだけでは十分とはいえないので、自分はパートを探して働くつもりだという。

 実の娘ではないのに。

 「頑張って、援護射撃、応援するからね」

 そのとき、娘は決心した、やはり、実行すべきだと。

 くすぶっていた感情が自分の中で大きく膨れ上がっていく。

 今までは、それを止めようとしていた。

 だが、応援してくれている、それがわかった今、何故、我慢する必要があるのかと思ったのだ。


 娘の留学を妻は応援している、それはいいことなのか、もし海外に行けば夫婦二人きりの生活になる。

 それを機に、ある言葉、選択が男の脳裏に浮かんだ。

 もし、そうなったら。


 「結婚できたら、嬉しいのに」

 

 数日前に愛人が口にした言葉を思い出した。

 未来の光景が幻ではなくなるとしたら、自分はどうすべきかと思いながら男は考えた。

 

 

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