第14話 初配信直前

《前書き》

 結構短めです!

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 初配信当日。あと、二時間とちょっとで、姫川ことがデビューすることになる。


「なんか、緊張がほぐれて、いつものフラットな感じで臨めそうな気がする!」


 デートを終えてからというもの、瑠璃葉は本調子を発揮しまくっている。テスト配信で行った歌もASMRもあれからかなり良くなっていた。おまけに――、


「姫川ことです。カップ数はⅮです!!きゃぴ♡」


 ガッチガチの話し方から、今では普段のように冗談も交えてすらすらと話せるようになったことはかなりでかいと洸はみている。というのも、瑠璃葉の日々の努力により、歌もASMRもゲームもそこそこ……新人にしてはかなり安定して上手なレベルにまで達してきているが、飛びぬけて上手いというわけではない。

 ただひとつ、『雑談』という分野を除いては。


「洸くん。私、本当にほとんど素のままでやっちゃって大丈夫かな?皆、多少は声作ったり、清楚を演じたりするものだと思うんだけど……」


「大丈夫、なんの心配もないよ。先ず、瑠璃葉ちゃんは作らなくても声可愛いし、猫被って清楚ぶってもすぐにその化けの皮が剝がれそうだし」


「うぐっ、その通りです……確かにオタバレしそうだし」


「そこがいいんだよ!!」


 洸は声を大にして、瑠璃葉の――これからデビューする姫川ことの魅力について力説し始めた。


「瑠璃葉ちゃんの限界オタクキャラは、多くのリスナーの共感を生むことになるよ。君の好きなことに対する熱量は絶対に人を惹きつける」


 これは洸が布武坂楽市として、やって成功してきた経験があるからそう言える。


「始まったら終わりそうにないオタクトークも、話をなるべく途切れさせないっていうVtuberにはとても大事な要素だよ」


「そ、そっかぁ……って、それって褒めてますぅ?」


「それに、たまに出てくるキモオタキャラも面白くて、配信者には持って来いって感じの性格してると思うし」


「やっぱりディスってるよね?」


「何より瑠璃葉ちゃんは、こうしてボケツッコミが出来る……リスナーとのプロレスは、Vtuberの雑談配信の醍醐味とも言えるからね」


 瑠璃葉は未だにからかわれてると思ったのか、洸を若干睨んでいるが、彼の言ってることは正しい。彼女を人気Vtuberにするためのマーケティング的な面においても実に的を得ている。

 配信主が上手いことコメントを拾い、おもしろおかしくリスナーと会話をすることによって、コメントの数はどんどん増えていく。コメントの数が増えれば、その分面白いコメントも増える。話も途切れるどころか、どんどん広がって面白くなる。

 そうすれば、数分にまとめられた切り抜き動画も作ってくれるリスナーも現れ、配信主が知られる機会も増えるし、面白いという口コミも拡がる。

 雑談の切り抜き動画がX(Twitter)でバズり、登録者が一気に増えたVtuberも少なくはない。


「なるほど……」


「理解してくれたかな?」


「なんとなくは……まぁ、声可愛いって褒めてくれてたし……」


 少し、先程のムッとした表情を残しつつも、もじもじして若干照れながら、瑠璃葉はそう言ってくれた。


「それなら良かった。とにかく、瑠璃葉ちゃんはほとんど素のままで、姫川ことに憑依しちゃって大丈夫だよ」


 洸がそう言ったところで、Discordの通知が鳴った。パソコンの表示画面にはぴかっそと白雪ふわなの文字。梨々香と優芽も初配信前の瑠璃葉を応援しに来てくれたのだ。


『やっほー、らくっち&るりりん』『こんにちは。水嶋君、瑠璃葉さん』


「梨々香たそ、ふわなたん!!」


「お二人とも、わざわざ凸してくれてありがとうございます」


『いいって。初配信直前の可愛い娘の声を聴きにくるのは当然だって』


『SMプレイを誓い合った可愛い妹ちゃんですもの』


(二人目の発言にはツッコまないでおこう……)


『それより、声の調子聴いた感じだとあんまり緊張しなくなったみたいだね。もしかして、気晴らしにらくっちとデートでもした?』


「「……」」


『あれ?冗談で言ったつもりだったけど、図星だった?』


『まあまあ、梨々香。お二人とも今日は大変なんだから、いじるのは程々に』


『じゃあ、その分、ゆめぴをいじりまくってあげるかぁ~』


『いやぁ~ん♡早く頂戴♡~』


 梨々香と優芽の二人も変わらず、いつも通りだ。


(なんか、物凄く二人のおかげで安心出来た気がする)


『じゃあ、るりりん――ことちゃんガンバ!らくっちもことちゃんのサポートよろ』


『私も陰ながら応援していますので!瑠璃葉さんなら、いえ、ことちゃんなら大丈夫です!!水嶋君も裏方仕事ファイトです!』


 応援するだけ応援してくれて、元気にするだけ元気にしてくれて。優しい母と姉は、こうして綺麗に去っていった。


 ●○●


 同じ室内にいると、物音や咳などで同棲がバレてしまう可能性があることから、洸は防音室とは別の部屋で自身のパソコンから瑠璃葉のサポートをすることになった。


「じゃあ、俺はそろそろ向こうの部屋に移るね」


「うん。私、最高の姫川ことをやってみせるから!!」


 瑠璃葉の放った力強い声に洸はただ頷いて返す。何か言葉を掛けてあげるより、ただ隣で姫川ことになった彼女を信じて、最善のサポートに徹する。それが今、彼が最もすべき言葉だ。


(ここから始まるんだな)


 姫川ことの物語が今、幕を開けた――。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 《後書き》

【転んだら手を貸してもらうよりも


 優しい言葉選んでもらうよりも


 隣で信じて欲しいんだ


 どこまでも一緒にいけると】


 BUMP OF CHICKEN『アカシア』

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