第11話 歌ってみたとshortとバズ 

《前書き》

少し短めです。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「洸くん、歌ってみた動画(略して歌みた)の動画で歌いたい曲あるの!!」


 洸に元気づけられ、すっかり自信を取り戻した瑠璃葉は朗らかな声でそう言った。


「おぉ、やる気満々でいいね!なんの曲歌うの?」


「当ててみてよ」


「なんだろ、やっぱりアニソンとかかな?」


「う~ん。近いっちゃ近いけど、正確には周年記念のアニメーションPVに使われた曲かな」


「なるほどね……。もしかして『アカシア』とかだったりする?」


「えっ、正解。貴様、何故わかった!?」


 瑠璃葉はハッと驚いた様子を見せると、後ずさりしながら、こちらに指を指してきた。そんな彼女に対して、洸はあっさりとこう答える。


「だって、小学生の時に瑠璃葉ちゃん、ずっとアニソンとBUMP OF CHICKENばっかり聴いてたじゃん」


「覚えてくれてたの?」


「うん。俺も瑠璃葉ちゃんにバンプを教えてもらってから、ずっと聴いてるからね」


「う、嬉しい……。別れた後も彼女が好きだったアーティストまでは嫌いになれないやつ……そんなに小四まで私といた日々は洸くんにとって刺激的だったのか……」


「いや、付き合ってた覚えないけど?」


 感傷に浸り始める瑠璃葉に、洸は冷静にそうツッコむ。


「それにしても、こういう曲って、結構Vtuberデビュー一周年記念とかで出す感じだから、正直、洸くんはもっと可愛さ全開の曲にしなさいって、アドバイスしてくるかと思ったんだけどな」


「しないよ。瑠璃葉ちゃんが――姫川ことが歌いたいって心の底から思ってる曲にした方が、彦星の皆にも届くに違いないから」


「そっか……何から何までありがとね……って、ん?」


 ふととある疑問が瑠璃葉の頭に浮かんだ。


「ところで、歌みたって、二週間じゃ厳しいんじゃない?」


 そう、瑠璃葉の言った通り、本来であれば歌ってみたは準備期間合わせて数か月はかかる。


(人によっては半年以上かけたりするものもざらにあったし。でも……)


「いや、そこは大丈夫。事前に動画編集の業者さんには歌みた出すからって、PV作った段階で依頼してたし、ぴかっそママにも歌みた用にイラスト描き下ろしてくれないかって、言ったら喜んで引き受けてくれたよ」


「えっ、でも、それって、私が歌みたで『アカシア』歌うって、事前に知っとかないと出来ないんじゃない?」


「最近、毎日のように『アカシア』聴いてたでしょ」


「あっ」


 瑠璃葉はここ数日の間、『アカシア』を聴いては防音室で歌の練習をしていたのを、洸はこっそりと見ていた。(覗き見するつもりはなかったが……)


「だから、瑠璃葉ちゃんはきっとそのつもりかもなって……違ってたらマズかったけど」


「何から何まで、本当にありがとう、洸くん♡」


「えっ、ああ、はい」


 急にデレてくる瑠璃葉に、洸は動揺する。何とも甘酸っぱい空気。まるで、これまで感じてこれなかった青春を全身で浴びている感覚。だが、それはすぐに不穏な空気に変わることとなった。


「でも、……ってことは、さっきは私をからかって、わからないふりをしてたってこと?」


「あっ……」


 しばらく瑠璃葉の機嫌を直すのに時間を要した。


 ●○●


 三日後。なんとか歌を取り終え、業者に委託してピッチやMIXまでも、早々に取り掛かってもらうことになった。そして――、


「まさか、一週間で歌みたが完成してしまうとは……」


「ぴかっそママの描き下ろしイラストが使われた動画も、こんなに早く編集してもらえるとは流石に思ってなかったよ」


「うん。しかも、結構張り切って沢山描いてくれてたからね」


 どのイラストをサムネイルに使うかに悩んで時間使った気がする。


「それでこの後はこれをどうするの?」


 そう。これだけ、歌みたの動画作成を早めた理由。それは単純にデビュー前に投稿したかったからというだけではない。


「short動画用に編集する。それをYouTubeだけじゃなく、TikTokのアカウントも作って、そこにも投稿する」


「なるほど……」


 更にX(Twitter)も今以上に活用していく。現在、やってる自撮り写真付きのおはようポストもかなり好評なので、もっと上手く活用出来れば、こちらでもフォロワーを沢山増やすことは可能なはずだ。


「でも、それだけじゃまだ足りないと思う。だから、これから毎日short動画を作って投稿を繰り返す。それに加えて――」


「それに加えて?」


 瑠璃葉は不思議そうに、洸の言葉を繰り返す。


「ななな、なんと、本日から姫川ことのサイン入りデビュー記念グッズを抽選で当たるキャンペーンを行おうと思います!!」


「で、デビュー記念グッズの抽選……!?」


 わざとらしい洸のテンションに、瑠璃葉も合わせてはみるものの、頭にはてなを浮かべている状態だ。それもそのはず。だって――、


「デビュー記念グッズ発売してるどころか、委託すらしてないよね!?」


 そう。グッズに関しては元々、デビュー後に出す予定だったので、委託どころか今、まさに考案している最中である。


「それなんだけどさ、グッズの考案を彦星の皆にも手伝ってもらおうってのはどうでしょう?」


「え、リスナーさんにも!?」


「うん……」


「……それは名案ですな」


「瑠璃葉ちゃんのOKも頂いたことだし、これから早速準備しよう!!」


 先ずはデビュー後に記念グッズを発売することをX(Twitter)にて告知する。

 そして、一部のグッズの考案を彦星(姫川ことのリスナー)に頼み、ハッシュタグを付けて送ってもらう。採用された人の中から抽選でサイン入り記念グッズが当たる。

 ざっとこんな流れだ。


「私、限定ボイスとかも、当たった人に付けてあげたいんだけど、どうかな?」


「いいね!当たった人のお名前と一緒にメッセージを送るやつだね、ナイスアイデア」


 瑠璃葉の意見も加えながら、作業は順調に進んでいった。


 ●○●


 SNSの反応はとても好評だった。これから推しになるであろう存在から、自分のためだけのメッセージボイスがもらえるチャンスということだけあってか、多くの人がハッシュタグを付けて企画に参加した。

 もちろん、梨々香と優芽も宣伝するのに協力してくれた。

 その影響で、ちょっとずつ話題になっていき、ほんの少しの間だが、『#姫川ことデビュー記念グッズ』がX(Twitter)のトレンドに上がることが出来た。


「よっしゃー!」


「おお!!」


 そして――、


「た、達成したぁ~!!」


 ~~

 Koto CH.姫川こと チャンネル登録者数1万人

 ~~


 short用に編集した歌みたも少しだけバズり、それも功を奏してか、なんとか初配信前までに登録者数一万人の壁をクリアすることができたのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《後書き》

作中に出てきた楽曲

BUMP OF CHICKEN『アカシア』(2020)

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