川の字
気づけば日が傾いており、電気を点けていない部屋はいやに暗く感じられた。俺は枕の下に紙を戻し、リビングの電気を点ける。つけっぱなしになっていたテレビでは人気のバラエティー番組が流れていた。最近話題の芸人がゲラゲラと大きな声で笑っているのが聞こえてきて、俺はテレビの電源を切った。
……そろそろ飯にするか。時計を見ると六時三十分を回っており、小腹も空いてきていた。
俺は食器棚にストックしていたカップラーメンの中から適当にひとつ取り出した。夕飯はたいていコンビニ弁当か買い溜めしたカップラーメンで済ませている。自炊は面倒だからしていない。インスタント食品でも十分美味いし腹も満たせるからそれでいい。
ラーメンの準備ができた後、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。いつもは少なくとも三本は飲むが、今日は睡眠のことを考えて二本だけと決めた。本当は飲まない方がいいのだろうが、多少は飲まないと逆に落ち着かなくて眠れない気がした。
ラーメンをすすり、ビールを飲むと、ため息が漏れた。
酒は強い方ではないが、昔から好きだった。里美も飲めるから、忙しくなる前は二人でよく晩酌もした。あの頃は、二人でいろいろな酒を一口ずつじっくりと味わっていた。いまみたいに、ひとりで闇雲に呷ることはしてなかった。
あっという間に一本目を飲み干し、俺はまた一息ついた。
アルコールが回り、頭がフワフワと軽くなる感覚が巡る。この時だけは、後悔と憂鬱を忘れられる。
情けねぇよな、こんな風に頭をぼやけさせないと日常に耐えられないなんて。そう思いつつも、やめることができずにいる。
俺は二本目のプルタブを開け、またゴクリと大きく喉を鳴らした。
夕飯を食べた後は、適度に酒が入っているからかすぐに眠気が襲ってきた。
下手にダラダラと過ごすとソファでうたた寝してしまうかもしれない。俺はさっさと着替えと歯磨きを済ませ、布団に寝転んだ。
暗闇の中、ふと顔を横に向けた。目が慣れるまでじっと見続けたが、なにかが浮かび上がってくることはなかった。
かつてこの部屋では、隣にもうひとつ布団を並べて川の字で寝ていた。休日はいつも俺が一番起きるのが遅くて、リビングに行くと「おはよう」の声が迎えてくれた。やがて川の字の一本が離れてしまうとしても、二本はいつまでも並んでいるものだと思っていた。それが気づけば……。
俺は顔を正面に戻し、ぎゅっと目を瞑った。
やめだ、やめ。どうにもならないことを考えてもしょうがないだろ。もう昔の暮らしには戻れないんだから。
そう自分に言い聞かせているうちに、俺はいつのまにか眠っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます