僕らはいえない傷を抱えて生きる。

こばなし

僕らはいえない傷を抱えて生きる。

「あんたに何が分かるんだよッ!!!」


 ……って、叫びたくなる時がある。


 誰にも理解してもらえそうになく、誰かに伝えることもできないような心の傷を負った時だ。


 いつまで経っても苦しい気がして、治る気配もみじんもない。


 胸の中が痛くて痛くて仕方がない。


 だけど「こういう感じで痛いです」って、言葉にすることも難しい。


 誰かに話したら話したで、傷口を広げてしまいそうで怖い。


「大丈夫、そんなの誰だって経験してるよ」


 ……なんて分かったようなことを言われたらと思うと、そもそも口にしたくもない。


 そんなに簡単なものじゃない。

 僕の苦しみは、そんなふうに言葉に言い表せるものなんかじゃない。


 けれど、時間が経てばいつの間にか痛みを忘れていたりする。


 あの時、苦しかったはずだった。誰にも理解してもらえなかったはずだった。


 それなのに今はどうしてか、すっと楽になっている。


 かと思えば、ときどき思い出して痛みを覚えるものもある。


 心の傷も身体にできる傷といっしょで、二度と思い出せないかすり傷のようなものもあれば、古傷になってことあるごとにうずくものもあるらしい。


 けれどどんな心の傷も、完全になくなることはない。


 もとより目には見えないものだから。


 僕らはそれを受け入れて生きるほかないと思う。


 いつか楽になれるかもしれない、なんて考えながら、苦しさから楽になるためのばんそうこうを貼ったり、薬を塗ったりしながら。


 僕らは言えない傷を抱えて生きている。


 僕らは癒えない傷を抱えて、今日も生きていく。



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