第27話 アリアと共に

「それで? 何を拗ねてるの?」


 俺の大切な赤髪の少女は、さっき、アオの部屋で内緒話をしてからあまり喋らなく、ちょっとだけ不機嫌そうだった。今は俺に宛てがわれた客室のベッドに腰かけていた。


「べ、別に拗ねてない」

「アオから何か聞いたんでしょ?」


「……仲、良かったんでしょ。小さい頃からずっと一緒で」


 麻枝の事を言っているんだろう。確かに麻枝とは幼馴染だったが――


「中学……13の時から3年間はぜんぜん話もしないくらい疎遠だったかな。その前は妹みたいなものだった。だから気になったのは本当に1年だね。アリアと変わんないよ」


「そっか……」

「振られたしね」


 俺は笑うがアリアは笑わなかった。


「こ、ここ子供は居なかったの?」

「え!?」


「アオさんが、ユーキたちはたぶんしたことあるって」

「あいつ……」


「あ、あたしが無理に聞いたの!」


 俺は向こうの世界では18歳以下で子供を作ることがほとんど無いことを説明した。それまでは勉学に力を入れている学生という身分であるのが普通だということも。あと、魔法は無いけれど避妊の道具がちゃんとあるということもついでに。


「アリアと結婚したくないわけじゃないよ? ただ、向こうで無くした時間をアリアと二人で大事にしていきたいんだ」


 無くした時間とはつまり、高校生活だけじゃなく、幼馴染に置いてけぼりにされた中学での三年間も――自分で口に出して初めてそう確信した。


「そこは大丈夫。あたしも楽しいから」

「ルシャとの関係が嫌なの?」


 ルシャとのことは何とも言えないが、彼女は祝福の件以外はアリアとの関係を大事にしてくれている。祝福もアリアが居ないと要求してこないし、俺たち二人で祝福を与えているようにルシャは受け取っている様子もある。


「ルシャはああいう子だし、その、必要以上にユーキを刺激しないというか、誘惑したりはしないでしょ? あたしにも感謝しかしないし」

「それはあるかな」


「そうじゃなくて、あたしとルシャの両方の立場を持ってる人が元の世界に居たのがちょっと嫌だったの」

「そっか。でもね、俺はどっちかっていうと今のアリアとの関係みたいなのを望んでたんだ」


「そうなの?」

「うん。彼女の方から要求してきたんだけど、俺は将来が誓えないならしないって断ったんだ。そのあと誓い合った…………はずなんだけどね」


 当時、麻枝に言われたことを話しながら自嘲気味に笑った。キモいは酷いよな。

 けれどアリアは笑わなかった。顔をしかめていた。


「そんなの酷いじゃない!」

「そうでもないんだ。俺たちはまだ学生――子供みたいな身分で、それはそのまま子供の口約束みたいなものだったんだ」


「口約束でも子供でも誓ったものは守るべきよ!」


 アリアの言うことは尤もだと思った。

 聞くところによるとこの世界では、『誓い』というものは神聖で絶対的なものなのだそうだ。それは未成年でも、幼い子供でも変わらない。ルシャが将来を誓ったのはそれだけの大きな覚悟があったのだと後で知った。だけど――


「俺たちの世界じゃ学生の恋愛なんて、法律っていう世の中の決まり事が守ってくれるわけでもない。罪にも問われないし神様からの罰も無い。憤りがあっても、俺のような陰キャのボッチじゃ誰も味方をしてくれないし、自分でもどうにもできないんだ」


 アリアは何か言いたげだが返さなかった。


「どちらにしても誓いは破られたし、俺はここに居る。アリアと共にね。だからアリアが心配することは何もないんだよ」


「わかった」


 アリアはそう言うと、戸惑いがちに耳元へキスをして、自分の部屋へと帰っていった。







--

 誓いに関しては『堕ちた聖女は甦る』や『ヤドリギの下の物語』でも語られている通り、結構この世界では絶対に守られるべきものという認識ではあります。それこそ、悪役でも誓いを恐れるくらいには。もちろん悪人は気にもしないと思いますが。


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