第42話 撃破と残る謎



 あの凹凸のない真っ白な顔面と人の形をした妖霊機ファントムは、ゲネラーリス……か。プレイヤーからは、『顔なし』とか言われてたやつだ。武装は……近接タイプか。遠距離の装備はしてないらしい。



 ゲネラーリスは、『汎用種』と言われ、どこの戦場にも姿を見かける武装のバリエーション多い妖霊機ファントムだ。個々の戦闘力はそこまで高くないが集団で襲ってくると厄介なタイプ。



 しかも連れてる魔物が、集団戦闘を得意としてるアーミーアントなんてのは冗談だろと思いたいが……。これは転移で数が揃うと面倒なことになる編制だ。



「ソラ先輩、アリエス先輩、そいつら強くはないですけど油断したら死にますよ」


「君に忠告されるまでもないっ!」



 ソラの乗ったザガルバンドが、食いつこうしてきたアーミーアントの首を剣で一閃して叩き落した。



 さすが主人公リンデルのライバルとなる機士なだけはある。雑魚程度は従霊機でも十分に対応可能か。プレイヤーたちから付けられた狂戦士バーサーカーソラの異名は伊達じゃないな。



「ソラ様、援護します」



 アリエスは常にソラの背を守る位置に立ち、近づくアーミーアントをエレメントライフルで牽制していく。牽制で足を止められたアーミーアントの首は、次の瞬間ソラによって刈り取られた。



「次、のっぺりとした顔の妖霊機ファントムを倒す」


「承知しました」



 手を止めることなく、ソラとアリエスがゲネラーリスを狙って動き出す。



 あの2人なら勝手に死ぬことはないな。だとしたら、俺のやることは――あいつの退治だな。



 視線を新たな妖霊機ファントムを跳躍させているメタスターシスに向けた。



「シア、あの輪っか持ちをやる」


「え? あれを?」


「ああ、近衛機士が来るまでまだ時間がかかる。その間、放置してたら、敵が増える一方だ」



 到着までのカウントはまだ5分以上ある。今の転移速度だと、到着までにあと数グループが転移してきてしまいそうだった。



「それもそうね。ルシェのことだから、あの不明の妖霊機ファントムの倒し方も気付いたんでしょ?」


「まあな。突っ込んで剣で叩き斬るだけだが」


「ザガルバンドでいけるかしら?」


「機体を壊していいなら」


「整備科がカンカンに怒るでしょうね」


「そこは、シアが宥めてくれ」


「しょうがないなぁ。ルシェの頼みならやるしかないね。エルー、ルシェが突っ込むから援護よろしくー!」



 通信モニターのエルの表情が驚きに変わるのが見えた。



「ルシェ君は正気ですか……」


「みたいよ」


「エル先輩、援護は任せる。いくぞ!」



 俺はフットペダルを踏むと、メタスターシスに向かって機体を加速させた。ザガルバンドの出せる限界値に近い速度で走り、グングンとメタスターシスの機体が近付いて来る。不意に警告音が鳴った。



「脚部加熱警告! 脚が終わっちゃうよ」


「無視だ。この距離で動きを止めたら確実にこっちが死ぬ」


「りょーかい! 装甲パージして冷却能力を稼ぐね」


「ああ、任せる。あいつに斬りかかれるところまで脚を持たせてくれ」



 脚の装甲がパージされたことが、すぐさま情報としてポップアップした。



 この状態だと1発でも誘導弾を脚に喰らったら終わりだな。だが、当たらなければどうということはない。



 新たな警告音が、メタスターシスの誘導光が機体に照射されたことを告げてくる。



「二射目の来るぞ!」



 メタスターシスの機体から白煙が上がったかと思うと、誘導弾が一気に俺に向かって押し寄せてきた。エルが援護してくれて一部の誘導弾が撃ち落とされるが、残ったのがこちらに向かってくる。



 エレメントライフルを連射して誘導弾を撃ち落とすが、数発だけ残ったのが襲いかかってくる。



 残ったやつは、裏技を使うしかないか……。



 エレメントライフルを投げ捨て、フルパワーで剣を地面に突き立てると、地面ごと剣を薙ぐ。飛び散った石が迫っていた誘導弾に当たって爆発をした。



「よし、しのいだ」


「左腕過負荷! 出力低下中! 腕一本イカレたよ!」


「問題ない。右腕一本でやれるさ」



 機士席内には様々な警告音が鳴り響き、モニターには無数の警告情報がポップアップされていく。メタスターシスの機体は目の前に迫っていた。



「脚が終わる! これ以上は持たない」


「上出来だ! シア、よくやってくれた」



 近接攻撃手段を持たないメタスターシスの機体の頭部に足を掛けると、そのまま飛び上がった。



 こいつの倒し方は、輪っかを物理攻撃で歪ませてやるのが一番効率よく倒せるんだ。



 飛び上がった俺は右腕一本で剣を輪っかに振り下ろす。



 メキメキと音を立てて歪んだ輪っかは内部の漆黒の闇が不規則に波打ったかと思うと、真っ白な光を放った。余りの光の強さで、機士席内のモニターがホワイトアウトしていく。



 強い衝撃を受け、機体が地面に落ちたことに気付いた。すぐさま、搭乗口を開けるボタンを押して、外の景色を見られるようにした。



 輪を失ったメタスターシスの機体がゆっくりと地面に向かって倒れていくのが、搭乗口越しに見えた。



「倒したの?」


「ああ、倒せたみたいだ。機体の状況報告頼む」


「う、うん。下肢接合部は完全破損。脚部も両方とも完全破損、移動不可。左腕、重度損傷。モニター類は全部ダメかな。精霊融合反応炉エレメント・フュージョンリアクターは損傷軽微。爆発の可能性はなし」


「なら、回収要請しといてくれ。近衛機士がそろそろ到着するだろ?」


「はいはい、そうしとく」


「ちょっと、俺は倒した妖霊機ファントムを見てくる」


「ちょ、ルシェ!? 危ないよ!」


「エル先輩が周囲を警戒してるから大丈夫さ。あ、そうだ。提出用のデータ作成もよろしく頼む」



 エルにデータ作成を頼んだ俺は搭乗口から出て、メタスターシスの機体の上に降りた。近くには警戒するようにエルのザガルバンドが控えている。



 やっぱり大襲来発生後に新種扱いで出てくるメタスターシスだよな……。輪っかを歪ませて転移ゲートを不安定化させると倒せるのも同じだし。投入時期が違ってるのがとても気になるが、こいつはプロトタイプだろうか?



 倒した機体を検分していると、胴体の部分に文字が刻まれているのを見つけた。こちらの世界の文字はルシェの知識によって翻訳されるのでそのまま読めた。



 えっと、『偽りの機士王に鉄槌を』か……。なんだコレ……。こんなイベント『神霊機大戦』になかったよな。



「ルシェ・ドワイド。そこまでだ。それ以上、その妖霊機ファントムに触るな!」



 外部拡声器の声が聞こえたので、振り向くと白銀の霊機が2体並んで立っていた。シアの通報を受けて緊急で出撃してきた近衛機士の2人だろう。



「これより、その妖霊機ファントムとゲネラーリスの管理権限は王国軍が引き継ぐ。今回のことは後で聞かせてもらうが他言しないように話が漏れれば、処罰があると思うように」



 まぁ、新種は誰でも情報解析したいから、王国軍が持って行くのはしょうがないか。逆らうとまた義父上に迷惑がかかるだろうし、機士王からも睨まれてしまう。できれば、なんでこの時期に出現したかを知りたいところだが、近衛機士の様子だと情報はもらえなさそうだ。



「了解した」


「ソラ様もエル様もよろしいな」


「承知しました」


「お任せします」


 

 俺たちの意思確認を取った近衛機士たちは、現場保存の作業に入っていった。その後、破損して帰還不能になった俺のザガルバンドを運んでくれた頃には日は完全に暮れており、その日は聴き取り調査もあったため機士学校に泊まるはめになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る