第15話 シアとルカ



「兄様、あの、あの、どうなっているの?」


「俺と契約したシアが、ルカの匂いを嗅いでるだけだ。特に害を加えることはないから安心してくれ」


「そ、そうなんだ」


「クンクン、クンクン。たしかにルシェと同じ匂いがしてる。血の繋がった妹ってのは本当みたいね。なら、問題なし」



『対話の儀』を無事に終えて、実家に帰って来ていた俺は、いつもの通りに朝食を妹のルカの部屋で食べていた。シアを連れて帰宅して、初めてのルカとの食事ということで、さっそくチェックが入っている。



 実妹はセーフ判定してもらえたようだ。作中でルートによっては義妹になるヒロインもいたが、そっちは完全にアウト判定だったはずだ。ヤンデレ値が限界を超えると自爆されるんで不要な心配はさせない方がいい。



「よろしくね。ルカ」


「よ、よろしく。シアさん。すごい精霊さんだって聞いてるので、兄様のこと頼みます」


「うんうん、ルシェのことはわたしに任せて。何でも助けてあげるつもり。あーそうそう。これはルシェから頼まれてたこと――」


「え? え? シアさん!?」



 小柄な女性サイズに実体化しているシアが、妹のルカに抱き着いていた。ルカもシアも小柄であるため、仲良し姉妹がじゃれ合っているようにも見える。



 実体化してるシアは精霊力が溢れている存在のため、高位精霊と契約している機士と同じく、ルカの病状に対して一定の歯止めをかけられるかもしれないと思い、俺が頼んだことだ。



「ルシェが、ルカのこと心配してるの。わたしが治せればいいんだけどね。その病気だけはわたしの力でもどうにもならないみたい。でもでも、ルカに抱き着くことはできるよ。ほら」


「シアさん!? 顔、ちかっ!」


「ルカは視力も弱ってるって話だから、近くで見せてあげてるの。見て、見て」


「はわわ! 兄様、シアさんの顔が綺麗すぎてまっすぐ見えないよ」


「ほら、ほら、そんなに照れなくてもいいのに。可愛い! ルシェ、ルカって可愛いね!」


「俺の大事な妹だから当たり前に可愛いぞ」



 たしかにシアは美人、いや精霊の年齢は分からないから美少女かもしれんが――。でも、俺としてはルカも成長したら美少女から美人の部類に入ってくると思うぞ。うん、兄が断言するので間違いない。



「に、兄様!? シアさんの前でそんなこと言わなくても――」


「可愛いー! 照れてるー! ルシェの大事な妹なら、わたしもルカを大事にしてあげるからねー!」


「はわわ、シアさん!?」



 抱き着いてスリスリしていたシアが、近くの椅子を手にすると、ルカの隣に移動させて座った。



「ほら、ご飯食べる? わたしが食べさせようか? ほら、あーんして」


「い、いいんですか」


「うんうん、いいよ。ルシェは自分で食べるって言ってさせてくれないし」


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて。あ、あーん」


「はぁ~い、どうぞー」



 シアが完全にルカのお姉さんポジション……いや、お母さんポジションを確保してるな。義母のパトラは母親らしいことしてくれたことはないし、そもそも実母とも死別してるからルカには母親というポジションに当たる人がいない。世話好きのシアがそこに収まってくれるとルカにもいい影響が出てくれるかもしれないな。



 それにしても、最近はルカも外に出て日を浴びなければ、体調を崩すことがほとんどなくなった。食事すらとれたりとれなかったりしてたころと比べたら格段に体調は良さそうだし、病状も落ち着いている。



 シアの方もどうなるかと思っていたが、ルカが俺の実妹ということもあり、ヤンデレ値の上昇は感じられないし、本人を気に入ってくれているようでなによりだった。



「ルカが元気そうでなりよりだ」



 ワイワイとにぎやかさを増した朝の食事風景を見届けていると、近くに控えていたローマンが話しかけてくる。



「坊ちゃまが王都に行かれた間は、ブロンギ様が常にルカ様と朝食をともにされていたそうです」


「そうか、義父上にはきちんと礼を言わねば……。食事の後、会いに行く。シアのことも報告せねばならないからな」


「承知しました。それと、『リンデル』という方の行方については、どうされますか?」


「それも俺の口から直接、義父上に頼むつもりだ」


「はっ! では、先にブロンギ様のところに行ってまいりますので、坊ちゃまは朝食をお済ませください」


「ああ、分かっている」



 隣で控えていたローマンが俺に一礼をすると、義父との面会をセッティングするため、部屋から駆け出していく。ローマンを見送ると、以前より少しだけ騒がしくなったルカの部屋で、俺は身体づくりのために摂取しているいつもの朝食に手を付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る