大月くんは不可思議と遊びたい

城崎

大月くんは改造制服を着ている

 大月くんは、改造制服を着ている。

 といっても、ヤンキーのような改造ではない。

 普通は黒色と紺色で地味な制服を、金色で装飾しているのだ。

 その改造は、すごく目立つ。この学校では誰もそんなことをしていないからっていうのもあるだろうけど……そんな改造をしている制服が、あまりにも似合っていることも目立つ要因だろう。

 切れ長で金色の目、彫刻のようなお人形さんのような顔が、その制服に本当に似合っているのだ。

 まるで貴族のようだと、一目見た誰かが言っていた。私もその通りだと思う。

 とにかく、もの凄く目立ってしまう人なのだ。

 でもそれだけなら、たくさんの人間を魅了するだけで済んだのかもしれない。

 しかし、彼はそれだけじゃ済まなかった。

 彼は入学初日に改造制服を咎める教師たちを、あれやこれやと言って説き伏せた。

 さらにその上で、睨んでくる先輩たちに喧嘩を売って(その売り方が手袋を投げつけるというものだったというのだから、本当に貴族だ。いや、私は貴族のことを何も知らないけど)見事それに勝利したというのだから笑えない。

 それにより彼の周りには、壁が出来てしまった。

 それも、もの凄く分厚いタイプの。

 当たり前だろう。巻き込まれ体質であると自覚している私じゃなかったとしても、お近づきにはなりたくないほどである。

 けれど私は、帰り際に彼とすれ違うその一瞬、その目に魅了されてしまった。


 しっかりと、見てしまったのだ。

 その金色の瞳を。


 その事実は、彼の目をぎらぎらと燃えさからせた。

「やぁやぁやぁ!」

 その一瞬を逃さないとでもいうように、彼は私に話しかけてきた。そんな話しかけ方があるかいって感じだけど、彼にとっては普通なんだろう。貴族だから。貴族がこんな挨拶をするのかどうかは、まったくもって知らないけれど……。

 そこで私の平穏だった高校生活は、悲しいことに幕を閉じた。一年生だった頃には何もなかったから、これからも何もないと思っていた矢先の出来事である。悲しいなんて言葉じゃ言い表せられないほどに悲しかった。

「この制服が目に留まるとは、お目が高い。教師らには不良だなんだと言われているが、こちらのほうが断然いいのは一目瞭然だろう? むしろ感謝されて然るべきだ」

 そんなことを思っていたのかと、立ち止まってしまった私は驚いた。同時に、なんて傲慢なんだろうとも思った。感謝されて然るべきだなんて、到底教師相手に思うことではない。そして、目に留まったのは制服ではないんだけど……それは言わないでおこう、なんとなく。

 そうやって立ち止まっている二人の周りを、避けるように下校中の生徒が進んでいく。

 それを見てヤバいと思ったのも束の間、彼は私の手を取った。その手の冷たさに、ちょっとだけゾッとする。ちゃんとご飯とか、食べているんだろうか? もしかして貴族じゃなくて、ヴァンパイアのほうだったかな? あはは……。

 笑い事ではない。

 捕食のターゲットとして定められてしまった私には、なんにせよ逃げ場などなかった。

「立ち話もなんだから、僕がいつも使っている教室に行かないかい?」

「……もしかして、空き教室?」

「そう。そうした、とも言えるけれど」

 そう言って、彼は存外無邪気そうに笑った。

 その笑みに、まぁ、こんな美形になら捕食されても仕方ないかと思ってしまって本当に両親に申し訳ない。でも、両親ももしかしたら同じことを思うかもしれないと考えたら申し訳なさが一気になくなった。なんて血筋なんだよ。

 ヴァンパイアだけに?

 だから笑い事にするべきじゃないんだってば。

 脳内大混乱な私とは裏腹に、無邪気で何を考えているか分からない大月くんに空き教室とやらに連れて行かれる。

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