第二話
「なんかあいつら下手くそだな」
「まあでも、面白かったしいいんじゃね?」
隼人達の初練習を覗いていた外野がそんな野次を捨てて去っていく。
その場に残された四人は、全員が別々の顔をしていた。
「……話にならねえ」
最初に声を出したのは、護だった。
「俺、こんなにベースを弾くが下手くそだったのかよ……」
彼はそんなことを言いながら、ショックで床に座り込んだ。
「……キーボードってピアノとは違うんだな」
その横で、奏介は力なさそうに笑っている。
四人の音をあわせた結果は、正直言って雑音であった。
一回目ならしょうがないと割り切って、五、六回くらい合わせてみたが、良くなる気配はなく、むしろ悪化してしまった。
護も奏介も演奏として成立しなかったのは、自分のせいだと悔やんでいるのだ。
「なあ、なんでそんなに落ちこんでいるんだ?」
隼人が発した何気ないその一言が、この場の空気を変えるのには十分だった。
「どういう意味だよ」
怒りの混ざった護の声は、なんだか苦しそうに聞こえる。
「いやまず、月島先輩や稲毛先輩は今までちゃんと練習してなかったじゃないですか。それで今日初めて組んだ人達と、ちょっとだけ個人練習したくらいで、いきなりあわせるってかなり至難の業だと思うんですよね。俺だって今日いきなりはかなりキツかった」
護はそう言われて自分の唇を噛んだ。
「それに、そもそも柿生はバンド自体初めてなんだから、それぞれの音色が上手く噛み合わないのは当然なんだと思う。むしろこれで噛み合ったら、奇跡」
奏介は隼人の言葉で顔をあげて自傷気味の笑いをやめた。
そして、隼人の目をじっと見つめた。
「じゃあ、俺がモテるためにはたくさん練習するしかないな」
そして奏介は、今度は自信ありげに笑う。
「まあな。こんなの、いっぱい練習して技術をあげていくしかないだろ」
隼人は、そう言い切ると自分のギターを持ってその場を離れようとした。
「おい、待てよ隼人。まだ話は終わってねぇ」
隼人の歩みを止めたのは、護だった。
「これ以上何を話すんすか、先輩」
隼人はぶっきらぼうに対応しようとした。
そしてその態度が、護の怒りという火に油を注いでしまった。
「お前、ちょっと俺達よりできるからって調子乗るなよ。お前の代わりなんていくらでもいるんだからな」
彼の中では気持ちの悪いプライドがうごめいている。
そして、隼人はなんでもないことのように、護に衝撃を与える一言を返した。
「じゃあ、代えればいいじゃないですか。ちょうど俺、新しい方の軽音楽部に入部しようと考えてたし」
この言葉は、護だけでなく奏介と大地も驚かせた。
「なっ!? お前、この部活から去るのか……?」
護のその言葉は、隼人以外の三人の気持ちを代弁していた。
「まあ、このバンドを追い出されるんだったらそうします」
無表情でそんなことを言って、隼人は再び部屋の入口の方へ歩みを進めようとした。
護の中には、灰色の気持ち悪い感情で溢れかえっていた。
「ふざけるなよ! 俺だって、お前みたいにカッコよく楽器を演奏したいんだ! なのに……」
護は辛そうな息を吐いた。
「行くぞ。大地」
護は大地を呼んだ。
この場から一度離れるようだ。
「初日からすまん、隼人。あのバカは俺がなんとかする」
大地は去り際に、隼人に囁いた。
結局部屋を出たのは隼人ではなくて、護と大地であった。
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