第13話 報告

門司港の朝は、いつもとは少し違っていた。桜田製作所の社員たちは、新たな技術の成功に胸を高鳴らせながら一日の仕事を始めていた。香織もまた、その日の重要な報告を控え、特別な緊張感を感じていた。


信用金庫のオフィスに到着した香織は、すぐに涼介と合流し、桜田製作所へ向かった。二人は、成功した多波長LiDARシステムの報告のために豊橋モータースの本社へ向かう準備を整えていた。


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豊橋モータースの本社に到着した香織たちは、八木沢治と片桐専務に出迎えられた。優香が事前に成功の報告をしていたため、彼らの期待は高まっていた。


片桐専務は柔らかな微笑みを浮かべながら、香織たちを会議室へ案内した。会議室には、大きなテーブルとプロジェクターが用意されており、報告の準備は整っていた。


香織は少し緊張しながらも、涼介と共に報告を始めた。「今回のプロジェクトで開発した多波長LiDARシステムは、従来の技術を大きく進化させることができました。」香織はプロジェクターに映し出されたスライドを見せながら説明を続けた。「特に、反射光の多様性を取り込むことで、より正確なデータを得ることができます。」


八木沢治は真剣な表情で説明を聞き入っていた。「具体的には、どのようにしてその精度を向上させたのですか?」


涼介が続けた。「海の波の反射光を利用するアイデアを基に、反射光の多様性を取り込む技術を開発しました。これにより、物体の形状や位置をより正確に検知することができます。」


田中陽介と佐藤直樹も具体的な技術について詳細に説明した。「新しいシステムでは、反射光の波長ごとに異なるデータを取得し、それを統合することで高精度な測定が可能になりました。」田中はスライドを指しながら補足した。


片桐専務は感心した様子で頷いた。「これは素晴らしい成果です。桜田製作所の皆さん、本当にお疲れ様でした。この技術は我々のプロジェクトにとって非常に重要な役割を果たすことでしょう。」


八木沢も同意した。「確かに、この技術があれば我々の自動運転システムは飛躍的に向上するでしょう。早速、実地試験を行いたいと思います。」


香織たちは一息つきながら、報告が無事に終わったことに安堵した。しかし、その一方で新たな試練が待ち受けていることも感じていた。


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その日の夕方、桜田製作所のオフィスに戻ると、一郎が皆を労った。「皆、本当にお疲れ様。今回の成功は私たちの努力の賜物だ。この調子で次のステップに進もう。」


香織も涼介も、達成感とともに新たな決意を胸に抱いた。


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その夜、香織は門司港の海岸沿いを歩きながら、一日の出来事を振り返っていた。波の音が静かに響く中、彼女は自分の心の中にある不安と期待が入り混じるのを感じていた。


「次は何が待っているのかしら。」香織はつぶやいた。


涼介が隣で微笑んだ。「何が来ても俺たちなら乗り越えられるさ。これまでだってそうだったろう。」


「そうね。」香織は微笑み返した。「これからも頑張りましょう。」


二人は未来に向かって歩き続けた。新たな挑戦が待っていることを知りながらも、共に歩む仲間がいることで、心強さを感じていた。

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