第12話 ログ

門司港の静かな朝、香織は信用金庫に出社する前に老松公園近くのコンビニに立ち寄った。店内はさわやかな朝の雰囲気に包まれ、香織はコーヒーと朝食を手に取った。店長が微笑んで声をかける。


「おはようございます、三田村さん。今週末から栄町銀天街で土曜夜市が開催されますよ。屋台もたくさん出店する予定です。」


「そうですか。楽しみですね。」香織は微笑み返した。


コンビニを出た香織は、門司港駅前を通り抜け、オフィスへと向かった。駅前の風景は歴史を感じさせるレトロな建物が立ち並び、観光客がゆったりと歩いていた。香織は一瞬、その風景に目を奪われたが、すぐに仕事に集中するために歩みを早めた。


信用金庫のオフィスに到着すると、涼介が既に待っていた。二人は桜田製作所での多波長LiDARシステムの開発状況について話し合い始めた。


「最近、LiDAR技術の開発が暗礁に乗り掛かっているわね。」香織はため息をついた。「どこに問題があるのか、もっと詳しく調査する必要があるわ。」


涼介も同意した。「ああ、特に最近の実地試験で異常が発生している。データにノイズが多くて、正確な測定ができていないんだ。」


香織と涼介は、その日の午後、桜田製作所を訪れた。工場の外には、美しい海が広がり、波がキラキラと輝いていた。その光景を見て、香織はふとあることに気づいた。


「涼介、昨日の実験で使ったデータログはどこにある?」香織は急に真剣な表情で尋ねた。


「オフィスにあるよ。どうして?」


「ちょっと確認したいことがあるの。」香織は急いでオフィスに戻り、データログを取り出した。涼介もすぐに彼女の後を追った。


「ここに問題があるの。光の反射データが不自然に歪んでいるわ。」香織はデータログを指しながら説明した。


「確かに…。」涼介もその異常に気づいた。「でも、これをどう解決する?」


香織は一瞬考え込み、ふと窓の外の海に目を向けた。波が輝く光景を見て、彼女の頭の中に閃きが走った。


「波の光の反射を利用するのよ。多波長LiDARシステムを改良して、反射光の多様性を取り込むことで、より正確なデータを得られるはず。」香織は自信を持って言った。


涼介もそのアイデアに賛同した。「それだ!早速試してみよう。」


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二人はすぐに工場に入り、技術者たちにこのアイデアを共有した。田中陽介と佐藤直樹もこの新しいアイデアに興味を示し、早速試験を始めた。


「このアイデアは素晴らしいです、三田村さん。」田中は目を輝かせて言った。「早速シミュレーションを始めましょう。」


佐藤も同意した。「そうだね。この新しいアプローチが成功すれば、多波長LiDARシステムの精度を大幅に向上させることができる。」


技術者たちと共に、香織と涼介は新しいシステムの開発に没頭した。その過程で、彼らは何度も試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ問題を解決していった。


数日後、香織たちは新しいシステムの開発に成功し、その成果を一郎に報告するために桜田製作所の会議室に集まった。


「この新しいシステムのおかげで、LiDARの精度が飛躍的に向上しました。」涼介は自信満々に言った。


一郎は彼らの報告を聞き、満足げに頷いた。「よくやった、みんな。これで私たちはさらに一歩前進できる。」


その夜、香織と涼介は桜田製作所を後にし、門司港の海岸沿いを歩いていた。海風が心地よく、二人は一日の疲れを癒しながら未来への希望を胸に抱いた。


「このプロジェクトが成功すれば、桜田製作所だけでなく、私たち信用金庫も大きな飛躍を遂げることができるわね。」香織は微笑んで言った。


涼介も同意した。「ああ、これからが本当の勝負だ。でも、俺たちには信頼できる仲間がいる。絶対に成功させよう。」


香織は涼介の言葉に力強く頷き、二人は未来に向かって歩き続けた。


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この新しいシステムの成功により、桜田製作所はLiDAR技術の最前線に立つことができた。しかし、次の試練が彼らを待ち受けていることを、まだ誰も知らなかった…。

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