魔法少女も楽じゃない

公社

一ノ瀬陽菜@マジカル✩サンライズ(1)

「陽菜、ジャアーク反応がどんどん強くなってるでプ」

「急がないと!」


 一ノ瀬陽菜は夕暮れの校舎の階段を上がっていた。


 向かう先はあまり使われていない最上階の一番奥の教室。親友の恵美から大事な話があると言われ、指定された部屋。


 そこに今、危機が迫っていた。


「教室の中から邪悪な気配がするでプ」

「まさかジャアークがここまで……恵美が危ない!」




――悪の使徒ジャアーク


 人々の邪な心、"ジャアークエナジー"を拠り所として凶暴な怪物を生み出し、この世界を邪悪で支配しようとする異世界の存在。


 この世界の兵器では、その怪物を倒すことはできず、結果多くの街が破壊され、人々は絶望のどん底に突き落とされることとなったのだ。




「陽菜、変身だプ」


 周囲に人の姿が見えないことを確認すると、陽菜の制服の胸ポケットから、熊のぬいぐるみのような謎の生命体が姿を見せた。


 妖精パラップ。ジャアークの侵攻を防ぐため、異世界の神が送り込んだ妖精であり、先程まで陽菜と会話をしていた存在そのものだ。


「OK! マジカルチェンジ……サンライズ!」


 パラップの身体がスマホのような形状に変わり、陽菜がそれを手に取って呪文を唱えると、途端に辺り一面が光に包まれた。


「天高く登る希望の光……マジカルサンライズ!」


 そこに現れたのはピンクブロンドのツインテールに、これまたピンク色を基調とした極ミニのワンピースと膝丈ブーツを身にまとい、手には何やらジャラジャラとしたオブジェが散りばめられたステッキを持つ一人の少女がいた。


 ジャアークを倒すために戦いを続ける魔法少女・プリティ☆マジカルの一人、マジカル☆サンライズ。どこにでもいる普通の中学2年生の少女、一ノ瀬陽菜のもう1つの顔なのだ。




 彼女がプリティ☆マジカルとなったのは半年ほど前のこと、夜、窓の外を眺めていると流れ星が落ちるのが見えたときの話だ。


 「あっ、願い事言わなきゃ」なんて考えていたのも束の間、その流れ星はみるみるうちに近付いてきて、窓から自分の部屋の中へと入ってきた。


 すると、星型の器から出てきたのは、熊のぬいぐるみ……もといパラップだった。


 パラップは、ジャアークからこの世界を救うことの出来る力を持つ伝説の魔法少女、プリティ☆マジカルとなるべき素質を持つ少女を探して旅を続け、陽菜にその力があると見定めてやって来たのだ。


 こうしてすったもんだの挙げ句、陽菜はマジカル☆サンライズとして、人知れずジャアークと戦う日々を送っているのである。




――バァンっ!!!


「ジャアーク、覚悟しなさい! って、あれれ?」


 また命をかけた戦いが始まる。そう思い力を込めた手でドアを引くと、中にいたのは親友とジャアーク……ではなく、見知ったクラスメートの男子数人の姿。


 ただ、男たちは揃いも揃って下半身丸裸、そして恵美は服という服を剥ぎ取られた状態で彼らに組み敷かれ、虚ろな目で横たわっていた。


 誰がどう見ても、そういう状況だろうとしか思えない……


「ちょ、アンタたち……何してんのよ!」

「マ、マジカル☆サンライズ! ななな、なんでマジカル☆サンライズがここにいるんだよ」

「そんなことはどうでもいい! めぐ……その子に何をしているの!」


 プリティ☆マジカルは正体を知られていない存在。だからここで恵美の名前を呼んではマズいと咄嗟に判断したサンライズは、あたかも悪事の臭いを嗅ぎつけてやって来た体で男子たちを詰問した。


「お、オイ! 誰だよ、一ノ瀬を誘き出せって言ったのに、なんでマジカル☆サンライズが来てんだよ!」


 この状況と今の言葉で、サンライズはある程度を察した。




 簡単に言えば、恵美はクラスメートの男子から性的暴行を受けている。今もその現場なのだろう。


 おそらくは何らかの方法で口止めして、言うことを聞くように脅され、何度も何度も呼び出されては男たちの慰み者になっていたのだ。


 最近元気が無かったのは、誰にも相談できずに苦しんでいたからだと考えれば合点がいく。


「そして、それだけでは飽き足りず、今度はその子の友人の一ノ瀬さんを同じ目に遭わせようとしたってわけか。クズ野郎ども」

「だから何だよ」


 友人を嬲られたこと、そしてさも他人のことのように言ったが、実は自分も襲われたかもしれないと思えば怒りが治まらず、サンライズが男たちを睨み付ける。


 しかしその様子にも動じることなく、リーダー格の外道そとみちいう名の男子は、恵美の裸体、そして性行為の様子を動画に収めながら睨み返した。


「俺たちはただ遊んでいるだけさ。この女だって了解してるからここにいるんだ。アンタには関係の無い話だろ。あん、違うか?」

「了解って……脅しているだけでしょう!」

「おっと、それ以上近づくんじゃねえぞ。これを見て分かんねえか?」


 恵美を助けようと一歩踏み出したところで、外道は自分のスマホ画面をサンライズに向け突き出す。


「分かんない? ここにはこの女がアンアン喘ぐ姿がタップリ記録されてんだ。ここで俺がボタン1つ押せば、たちまち全世界に流出確定よ。いいのか? アンタの軽率な行動が、いたいけな一人の少女の人生を狂わすことになるんだぜ」




 親友を人質に取られ、大ピンチのマジカル☆サンライズ。


 負けるなサンライズ! 頑張れ、魔法少女プリティ☆マジカル (つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る