勇者のオレの妻が全員NTRれている件
あんぜ
第1話 勇者ロスタル
「どうした、勇者様が
オレの隣に座ってきた男は声を掛けてきた後、葡萄酒と水を注文する。男は顔を覆うように柿渋で染めた布を巻き、目の周りと口の周りだけを出し、それ以外は普通の町民――という珍妙なナリをしていた。
「そうだな。クローサン、オレはもう生きていることに疲れているのかもしれん」
はぁ――と溜息をつき、薄めていない蜂蜜酒を呷る。
「溜息を吐くな。酒がマズくなる」
彼はマグに注がれた濁った葡萄酒を舐めるように味わう。
「――それで? わざわざこんな場所へ呼び出したからには用があるんだろう? それとも愚痴か?」
ククッ――と笑い声を押し殺す男、クローサンはオレの親友とも言える存在。
そして彼の言うこんな場所――酒場、『ハイドイン』は、かつての『勇者一行』の
「まあな」
「ん? どっちだ」
「愚痴の方だ」
「……まさかあの魔王を倒した最強の勇者ロスタルにも悩み事があるとはな」
クローサンはオレのことを勇者などと呼ぶが、彼もまた
勇者と呼ばれたオレは、そんなクローサンから足下にも及ばないと言わしめるほど、強力な
そんな噂を別の噂で民の意識から逸らせたり、扇動したりしてオレたち『勇者一行』に都合の良い方向へ民心を導いてきたのが彼、クローサンだ。
「いや、本当に魔王を倒したのはクローサンだよ。ハーレム税の時は本当に助かった」
「ククッ、あれは酷かったな。まさか勇者一行にかける金が、勇者が一行の女どもと酒池肉林の宴を開くために使われているなどと噂されようとはな」
「実際、そう見えた民も多かったかもしれない」
「確かにな。聖堂お抱えの長身スレンダー、聖女ディジエ。神殿お抱えのデカ女、魔女バレッタ。天才の名を欲しいが侭にし、魔術師たちからも、王都の騎士たちからも羨望のまなざしが絶えなかった魔導剣聖ハイトリン。三人が三人とも、容姿だけじゃなく、実力、名声、全て持ってた」
クローサンが指折り数えていった。
「――それがハーレム税なんて揶揄されてもな。俺も居るんだが!?――ってなったぞ」
クローサンはその噂をどうやってか消してしまった。今でも詳しく聞くなとしか答えてくれない。
「ああ、そんなこともあったが…………昔は良かった」
「今は辛いのか? 魔族の残党か?」
「まあ、それもある」
「お前でも厳しいのか?」
「ああ」
オレが得た力は確かに最強とも言える力だった。ただ、力というものはそれに伴う代償がある。例えば、魔王城を先制攻撃とばかりにオレの力で吹き飛ばしたときのことだ。あれはディジエの『予兆』の力が無ければオレは仲間さえも失うところだった。
オレの放った力は確かに魔王城をその城がそびえる山と共に吹き飛ばした。
だが結果はどうだ。その時の衝撃波は周辺の家屋をことごとく吹き飛ばし、大音響が王都まで轟いたそうだ。吹き飛ばされた山を成していた岩や土塊が魔王領ばかりか王国中に降り注ぎ、周囲三十万尺の文明らしきものは全て失われたそうだ。魔王領に落ちたとはいえ、もとは人の国の領土だった。
そして『勇者一行』はディジエの『聖域』が無ければ誰ひとり――オレを除く誰ひとり生き残ることができなかっただろう。地形さえ変える力というものはそれだけの代償を求められるのだ。
結局、今は
「だがお前、屋敷に帰れば癒してもらえるんだろう?」
「…………」
オレは答えに詰まってしまった。
「おいおい、まさかまさか! ロスタル、お前あの
「…………」
「いやいや、オレはやめておけと言ったぞ。別に羨ましかったわけじゃない。あいつらは三人ともお前にベタ惚れだったしな。何よりあいつら……ハイトリンでさえ俺より少しだけ背が高い。趣味じゃない」
「それは何度も聞いた」
実際、クローサンの恋人は彼よりもずっと背が低い。
「お前が纏めて求婚した相手は三人とも立場がある相手だったんだ。それぞれ、魔王を倒した後は聖堂や神殿の責任ある役に就いたり、嫁ぎ先の話もあったろう。それを全部かっさらっていったのがお前だったんだよ」
「国王様は――いいよ――って言ったんだ」
「軽いなおい!…………ま、何にしても妻の仲くらい取り持て」
「いや、三人の仲は問題ないんだ」
「じゃあ何だって言うんだ、ロスタル」
「実は…………」
「――実は三人とも、男に寝取られているみたいんだ」
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よくあるやつです(ない
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