推しの悪役令嬢の弟に転生したから、原作知識で推しを救うことにした。

水間ノボル@『序盤でボコられるクズ悪役貴

第1話 悪役令嬢の弟(モブ)に転生した

「はあ……またバットエンドか……」


 30歳の社畜の俺は、PC画面の前で絶望していた。

 乙女ゲーム、ルーナ・クロニクル。

 聖女のヒロインが、3人のイケメン攻略対象と魔法学園で恋愛していく乙女ゲーだ。

 おっさんの俺がどうして乙女ゲーをやってるかというと……

 姉に、攻略を頼まれたからだ。

 俺には2歳上の姉がいて、今、海外旅行に行っている。

 その間に、完全クリアを頼まれたのだ。

 学生時代に姉にはいろいろ助けてもらったから、俺は姉に逆らえなかった。


「クレアちゃん、かわいそうだな……」


 クレアちゃん、クレア・フォン・ハウゼン。

 いわゆる悪役令嬢だ。

 金髪の縦ロールで、ブルーの瞳の超絶美人。

 しかし……クレアは、どのルートでも悲惨な最期を迎える。

 ある√では、ヒロインをいじめて挙句、断罪されて学園を追放される。

 その後、50歳も年上の爺さんと結婚させられる。

 また、ある√では、ヒロインを殺そうとして失敗し、殺人の罪でギロチンで処刑される。

 すべての√で、バッドエンドを迎える——


「でも、かわいいんだよな……」


 ほんの少しだが、クレアが子どもの頃のシーンが出てくる。

 子どもの頃のクレアは天真爛漫で、ガチでめちゃくちゃかわいい。

 だが、厳しすぎる淑女教育と、ヒロインへの嫉妬のせいで、どんどん性格が悪くなっていくのだ。

 

「今回も、クレアちゃんは死んでしまった……」


 う……っ!

 目の前が暗くなっていく。

 エナジードリンクを飲み過ぎたか。


「…………少し、眠るか」


 俺は早朝の鳥の鳴き声を聞きながら、PC画面の前で力尽きたのだった。


 ★


「レイン、かわいい〜〜っ!」


 目覚めると、俺は女の子に頭を撫でられていた。


 (この子の顔、どこかで見たような……?)


「ク、クレアちゃん……?!」


 もしかしてこれは……「転生」ってヤツか?

 俺は乙女ゲーム、ルーナ・クロニクルの世界に転生したらしい……


 (でも、俺は、誰に転生したんだ?)


 クレアちゃんは、また子どもだ。

 身体の大きさを見るに、たぶん12歳くらいか。

 で、クレアちゃんにやたら可愛がられているこのキャラは——


「レイン、一緒に外で遊ぼーっ!」


 クレアちゃんは、俺の腕をグイグイ引っ張っていく。

 

 レイン——って、誰だっけ?

 そんなキャラいたか?

 俺はクレアちゃんに引っ張られながら、必死でゲームの内容を思い出そうとする。

 そんな中、俺とクレアちゃんは中庭まで来た。


「よぉーし! お姉ちゃんとかくれんぼしよっ! レイン早く隠れて!」


 お姉ちゃん——あっ! そういうことかっ!  

 レイン・フォン・ハウゼン。

 クレアちゃんの弟だ。

 クレアちゃんの2歳年下で、今、10歳だ。

 俺が思い出せなかったのは、レインがモブだったからだ。

 クレアに弟がいるという設定はあったが、設定だけで立ち絵すらないモブ・オブ・モブ。

 親に反発して魔法学園に入学せず、騎士団に入り、魔族との戦いで死ぬという設定……だったはず。

 

「……レイン? どーしたの? お姉ちゃんと遊ぶのイヤ?」


 クレアちゃんが心配そうな顔で、俺の顔を覗き込む。

 レインが自分をを嫌がっている思っているのか、すごく悲しそうだ。

 

「ううん。大丈夫だよ! クレアちゃ……お姉ちゃんと遊びたい!」


 俺はクレアちゃんを悲しませないように、笑顔でクレアちゃんの手を握る。


「……っ! レイン、かわいい〜〜っ!」


 クレアちゃんは、俺をぎゅうと抱きしめた。

 原作の設定では、レインはクレアちゃんの唯一の理解者だった……らしい。

 具体的なシーンはなかったけど、子どもの頃の厳しい王妃教育の中で、レインと遊ぶのが癒しだった。

 レインとクレアちゃんの親は、なんとしても、クレアちゃんをエドワード王子(攻略対象)と結婚させたいから、かなり厳しい王妃教育を課していた。

 そのせいで、クレアちゃんの心が歪んだのだ。

 

 (かなりの毒親、という設定があったな……)


 俺はクレアちゃんに抱かれながら、決意した。

 クレアちゃんの、破滅の未来を変えたいと。


「何を遊んでいるのだ? 早く部屋に戻れ」


 背後から声がした。

 立派なモジャモジャの髭を蓄えたおっさん、ハウゼン公爵がキレた顔で立っていた。

 そう。こいつがクレアちゃんを歪ませた元凶だ。


「お前に遊んでいる暇などないぞっ!」


 ハウゼン公爵は、抱き合う俺とクレアちゃんを無理やり引き剥がす。

 クレアちゃんの右手を乱暴に掴むと、クレアちゃんを引っ張っていった。


「……」


 ハウゼン公爵に引きずられながら、名残惜しそうにクレアちゃんは俺を見ている。


 (ますはこの毒親から、クレアちゃんを救わないと)


 しかし、この場でハウゼン公爵に反発しても、クレアちゃんを救うことはできない。

 まずは作戦を練ろう。

 厳しい王妃教育は逆効果だとハウゼン公爵を説得するか、あるいはそれがわからなければ……


「追放するしかないな。自分の父親を……」


 すべてはクレアちゃんを守るためだ。

 それに、レインが騎士団に入って死ぬのも、たぶんハウゼン公爵に原因があるのだろう。  

 だから、俺自身を救うためでもある。


「よし。まずはクレアちゃんを救う作戦を立てるか」



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