第42話 壁尻
ついに、最終決戦のときが近づいてきていた。
「死霊術師ヴェレンディはここから北に500メートルのところにいる。まっすぐ行けば十分で接敵するだろう。あいつはこのダンジョンの主だ。私達には気づいているだろうが、やつの性格なら酒でも飲みながらのんびり待っているだろう。いつも余裕ぶっていてむかつくやつだからな。ただし、会話には気をつけろよ、なにかしらの方法で盗み聞きしてるかもしれない」
ツバキがそう言う。
光希も答えて、
「ああ、わかってる。盗聴するような敵には今まで何度も会ってきた。こう見えても俺も熟練探索者なんだ。だから、本当の奥の手については俺も話していないことがある……。ツバキ、お前にだってまだ俺達に隠していることがあるだろう?」
「ストップ、私にも言えることと言えないことがある。だがあの魔法契約書があるんだ、お前らを裏切ることはしないよ、
それぞれ、装備の確認をする。
荷物は最小限のもの以外、みんな置いていくことにした。
「で、ヴェレンディってやつはどんな攻撃をしてくるんだ?」
「うん、あいつは死霊術師だ。この世のありとあらゆる死体を操ることができる。中には人間の死体もあるだろうが、多くは強大なモンスターを殺し、それを手下にしている。ドラゴンや巨人族、討伐難易度Lv30を超えるようなモンスターの死体を自由自在に操るんだ」
「そのドラゴンや巨人族はもともとの強さを保っているのか?」
「もちろんさ、ヴェレンディから見たら使い捨てのコマだから壊れても構わない手駒だ、リミッターを外した全力全開の攻撃をしてくるぞ。まあ、全盛期の私なら死体共は蹴散らせたが、それは私が強大な魔力を持つ魔女だからできたことだ。お前らは苦戦すると思う」
「なるほどな……。ヴェレンディの他の攻撃方法は?」
「やつは
「なるほどな……」
「だから……こういうのはどうだ?」
ツバキは紙にサラサラとペンを走らせる。
なるほど、筆談か。
どこかで盗聴されているかもしれないし、妥当な判断かもしれない。
どこかから覗かれている可能性も考えて、四人、持ってきていたシートを広げてそれをかぶり、魔法で小さな火をともして筆談で作戦を練った。
「ええ!? そうだったんですか、そんなこと……」
「しっ、
:青葉賞〈大の大人がシートの下に潜ってる光景ってなんか間抜けだな、尻だけ出てるし〉
:修羅〈どんな作戦なのか、僕も見たい〉
:みかか〈見ていいわけないだろ、これ全世界配信だぞ。作戦がバレたらどうする? 俺達にできるのは見守ることだけだ〉
:パックス〈ミシェルのケツが……これ、壁尻っぽくていいな〉
:おならのらなお〈
:ルクレくん〈壁尻だと思うと興奮してきた〉
:小南江〈光希さんのお尻がかっこいいす!〉
:Q10〈とにかく、これからのラスボス戦ですべてが決まるわけか〉
:音速の閃光〈光希ならやってくれるでしょ。日本最高峰のSSS級だよ。おけ丸水産!〉
:ペケポンポン〈由羽愛ちゃんを無事に連れて帰ってきてくれ……頼む〉
:Kokoro〈
:seven〈ナッシーのこと信じてるからな!〉
作戦が終わったあと、筆談に使った紙は即座に燃やした。
「さてマスター。お待ちかねの時間だ」
「ん? なんだ?」
「今から戦うのは、魔女すら殺した死霊術師。SSS級の探索者でも倒すのは困難な敵だ。ダンジョン内でモンスターを殺すのは当然推奨されている行為だが、それにしてもヴェレンディを倒さなければ私達は生きて地上に帰還できない」
「まあそうだな」
「だから、これは自己または第三者に対する現在の危難を避けるため行った避難行為となるため、違法性が阻却される」
「いちいちまわりくどい言い方をするなあ」
それについてはさっき筆談で相談を終わったばかりなのだが、一応違法行為とはなり得ることだった。
だから、配信を見ている人たちにも納得してもらえるよう、これについてはミシェルが自分で説明しているのだろう。
「前に話したが、私は幸運を運ぶウサギの一族だ。私の血肉を食らったものは幸運の祝福を受ける。とはいっても使役したモンスターを自己の目的のためにいたずらに傷つけるのはモンスター使役法によって禁止されている……が、今回はいいだろう。マスター、どこがいい? 食べたい私の部位を言ってくれ」
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