第34話 にょろっとした触手
壁の隙間から、チョロチョロと少量の水が流れ落ちてきていた。
言うまでもないが、ダンジョンは基本的に地下にある。
したがって、どこのダンジョンにも地下水の湧く場所があって、水には困らない場合が多い。
もちろん、有毒な場合もあるし、その場合には浄化の魔法が必須になる。
さて。
そうはいってもいつでもどこでもほしいだけの水が手に入る訳ではない。
今、光希たちの前には、わずかな量の水が、壁の少し高い場所からこぼれ落ちているだけだった。ボールペンくらいの太さの水量だ。
「おい、ツバキ。ほかに水の湧く場所はないのか?」
「うーん、ないわけじゃないけど現実的じゃないくらい遠いし……。ここから南に5キロもあるよ、きっとそれまでにモンスターに何度も出会うと思う」
臭くてネバネバしているヨダレまみれで戦うなんて心の底から勘弁してもらいたかった。
流れ落ちている水を見る。
水道の蛇口よりもずいぶんと弱い水流だ。
「……これだけじゃ、全然洗えないです……」
ジャイアントポイズントードの吐いたツバで全身がドロドロになった
「うーん、どうするかなあ……。正直、ワイバーンなんかよりもよっぽどいやな相手だったな、あのカエル…………。ん、どうした、ミシェル、さっきからなにも喋っていないじゃないか?」
「…………」
「おい、ミシェル? どうした?」
「……………………」
「おい、ミシェル!」
「マスター……頼むから話しかけないでくれるか。喋るとこのヨダレが口に……あ、くそ、臭い、まずい、にがががががおろろろろろろろろろろ」
:250V〈おい、カメラオフしわすれてるぞ〉
:U.N.応援〈カメラオフ〉
:支釣込足〈カメラ切れ〉
:Q10〈待て、俺メシ食いながらこの配信見てるんだやめてくれ〉
:パックス〈ああミシェル……かわいいよ……〉
:ハンマーカール〈これでかわいいと言えるのは上級者とびこえて人外だな〉
「くそ、このままじゃミシェルが吐き死んでしまうな。……ん? この水……もしかしたら……」
光希は壁に耳をぴったりとつけて音を聞く。
ゴポゴポと大量の水が流れている音が聞こえた。
間違いない。
壁の向こう側に、そこそこの水流があるのだ。
間違いない。
「
頼む、いいのでてくれ!
そう願いながら光希は鼓動の剣を発動させる。
今回のガチャは……。
それは、一見、触手に見えた。
柄から生える、にょろっとした触手。
しかし、よく見るとそうではないことがわかる。
3メートルはあろうかというそれには、無数の吸盤がついていた。
:時計〈なんだこれ〉
:どこにもたどりつけない〈タコだ〉
:U.N.応援〈タコの足じゃねーか〉
:五苓散〈刀身ガチャはこんなのも引くからなあ……。よくSSS級になれたもんだ〉
:薄紅〈強いのを引くとまじで無敵だからな〉
そう、今回の刀身は、一本の巨大なタコの足であった。
うねうねと蠢くその動きを見てミシェルはまた気分が悪くなったのか、おえっ、おえっ、と声をあげている。
そうはいっても、モンスター相手であれば巻き付けて絞め殺したり、その吸盤で吸い付かせて敵の体ごとぶん投げたりできる代物だった。
刀身ガチャの中では強い部類ではないにせよ、実戦でつかえる程度の力はあった。
「うーん、これでいけるか……?」
光希は思い切り振りかぶると、そのタコの足を壁に叩きつける。
吸盤の力でそれは壁にぴったりとくっついた。
「うおおおぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!」
そして壁に背を向け、力のかぎり柄に力を入れた。
光希は日本でも数少ない、SSS級に認定された魔法戦士である。
その力はまさに人間離れしていた。
ビキビキッ!
という音ともに、壁を形作っていた石にヒビが入る。
「よし、いけるな。もう一丁! おるぁぁぁぁ!」
吸盤が吸い付いている部分の周辺がさらに大きくヒビ割れる。
「次で行けるか? どるぁあぁぁ!」
ボコンッ!
ついに、壁の一部分が破壊された。
キュバンが吸い付いたままの壁の破片が床にボコンッ! と落ちた。
壁には大きめの穴、そしてそこから大量の水がドバババッ! と噴き出してきた。
「よっしゃあ! これで水浴びできるぜ! 誰から行く?」
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