第4章

第4章1話 アスカリへの依頼

 俺は朝起きると隣で寝ているエリスを起こしさないように部屋を出た。部屋を出ると同時に、リーシャに見つかる。彼女はグレーのシャツに黒いボトムスを履いていた。エリスの部屋から上半身裸で現れる俺を見たリーシャは顔を真っ赤にしていた。


「今晩はそっちに行くな?」

「いや…………催促している訳ではないのだが…………」


 リーシャは顔を紅くして部屋に戻ってしまった。リビングに降りると早起き組であるセレナがすでに起きていた。彼女はライトグリーンのシャツに茶色いスカートを履いていた。


「おはようアクイラ! あれ? アクイラの部屋は一階でしょ? なんで二階から?」

「おはようセレナ、気にするな」


 俺は適当に誤魔化すと朝食の準備を始めた。パンを焼いて目玉焼きを作り、サラダを作って簡単な料理を作った。それをセレナと一緒に食べる。するとそこに土色のシャツを来てブラウンのショートパンツを履いたテラが起きてきた。


「おはようアクイラ」

「おうテラ、おはよう」


 テラも席に座って朝食を食べる。そして食べ終わると彼女は修行に向かう。テラがうちに住み始めて数日が経過し、彼女もここの生活に慣れていた。最初は戸惑った部分もあったが今では普通に生活している。テラを見送った。


 そういえば、そろそろ火の聖女も遠征からルナリスに帰ってくるらしい。俺はなりたくもないがならなければ処刑されてしまうため、聖王にならなければならない。


 そのために各聖女から認められる必要があり、今目指しているのは火の聖女の祝福だ。まだ寝ているであろうルーナを起こしに行く。

 俺の部屋でいつも勝手に寝ているルーナのベッド脇まで行くと、彼女は熟睡していた。


「おいルーナ、朝だぞ起きろ」


 しかし起きない。ノーブラおっぱいをぺちぺちと叩く。


「ルーナ、起きろよ」


 さらに強めに叩く。するとやっと起きたようだ。まだ寝ぼけているのか半目だが視線はこちらに向けている。そしてゆっくりと口を開くとこう言ったのだ。


「んあ……アクイラぁおはようのチューして?」


 俺は言われるがままにキスをする。すると今度は舌を入れてくるのでそれに応じることにした。しばらくディープなキスを続けると満足したようで口を離すと唾液の糸を引いたまま妖艶な笑みを浮かべた。


「ん」


 ルーナは満足したようでその場で青いシャツと白のスカートに着替え始める。俺は彼女の着替える様子を隣で見ていて着替え終わった後、部屋を出てリビングに行くと深緑色のシャツを着てカーキ色のハーフパンツを履いているエリスが既に起きていた。


「おはようございますアクイラさん」

「おはようエリス」


 エリスは俺の顔を見ると顔を真っ赤にする。昨夜のことを思い出したのだろう。俺はそれを見ないふりして朝食の準備に取り掛かることにした。


 それからしばらくしてリーシャが改めて部屋から出てくると、彼女は白いワンピースを着ていてとても清楚な印象を受ける。そして全員が揃うとまだ朝食を食べていないメンバーが食事を始めている。


 俺はもう食べ終えていたのでみんなの支度が終わるまでソファで横になった。ルーナが俺のとこにきて寄りかかる。俺はルーナを抱き締めながら周囲の様子を見るとセレナは準備完了。朝の修練から戻ってきたテラも動けそうだ。


「それじゃ、俺たちは一度ギルドに行ってくるよ」

「ああ、私たちももう少ししたら向かおう」


 そしてリーシャとエリスを家に残し、俺たち四人は傭兵ギルドへ向かった。傭兵ギルドに着くと、中にはたくさんの人がいた。依頼掲示板に群がる者、受付カウンターに並ぶ者など様々だ。俺たちは周囲を確認し、火の聖女がいないか探した。


 すると、ちょうどギルドに入ってきたばかりの女性がいた。俺の視線は彼女に引き寄せられた。16歳の彼女は、緑色の髪と金色の瞳を持ち、その美しい容姿はまるで夢のようだった。


 彼女は深緑色のベルベット素材で作られたゆったりとしたフローラルなブラウスだ。袖口や首元には金色や赤の装飾が施され、高貴な雰囲気が漂っていた。

 履いているスカートはダークグリーンで作られたフレアスカートで、裾には金色や深紅の刺繍が施されていた。そのスカートは彼女の優雅な動きに合わせて揺れ、彼女の足元から品格を放っていた。


 彼女は俺に気付くと、ゆっくりと真っすぐ俺の方に向かって歩いてきた。


「お久しぶりですねアクイラ」


 俺に話しかけてくる彼女にルーナは警戒をし、セレナは「また女の子?」と呟く。唯一、テラだけは彼女のことを知っていた。


「何御用で? お嬢さん?」


 若くて綺麗な女の子に対して珍しくぶっきらぼうな返事をする俺にセレナは驚く。


「テラさんもお久しぶりです」

「うん…………一年ぶりかな?」


 俺とテラの共通の知り合いという事で、セレナからの警戒心は消えたが、ルーナは違う。先ほどから威嚇をしているからだ。彼女はルーナの方を見ると…………しばらく無言だった。


 まあ、俺にしがみ付いてる女の子を見て不思議に思うのは当然だろう。この女は火の聖女の付き人の癖にふらっとどこかに消えていたので、ルナリスの街ではお馴染みのこの光景を知らないんだ。


「あたくし、毒花のアカンサと申します。以後、お見知りおきを」


 毒花のアカンサ。16歳という若さで異例の昇格をし、最年少上級傭兵ランクルビーの少女で俺の故郷であるアスカリの領主モルス伯爵家のご令嬢だ。俺はアカンサが本当は火の聖女の付き人もやっていることを知っているがこの女はとにかく危険だ。ルナリスの街ではアカンサの毒花という二つ名の名前の由来を知らない者はいない。


「アクイラ、ほんのすこしお時間よろしいですの? お話したいことがあるのです」


 俺はこのアカンサが苦手だ。この女はとにかく悪戯好きのサディストだ。


「悪いが、俺はこれから用事がある。そっちの用ならまた今度にしてくれ」

「うちの聖女様にお会いしたいのではなくて?」


 俺はつい反応してしまう。アカンサはニヤリと笑うと、俺の腕を掴むとギルドの外へ連れ出した。俺たちは仕方なくそれについていくことにした。俺たちがギルドを出たところでアカンサは俺に話しかけた。


「なんで俺が火の聖女に会いたいって知ってるんだ?」

「聖王の試練の件、もう火の聖女にも風の聖女にも通達されていますわ。あたくしが知らないはずないでしょう?」


 なるほどな…………知られているなら仕方ない。


「ああ、そうだ。それで火の聖女とは会えるのか?」

「無理に決まってますわ。あのお方は不潔を嫌いますもの。ですから処刑までの最後のお別れをと思い御挨拶に来ましたわ」


 火の聖女との面会を断られてしまった。俺はがっくりと肩を落とした。

 アカンサは俺を見るとくすくすと笑う。


「ですけれどもチャンスをあげますわ。殺生はよくないですもの」

「チャンス?」

「あたくしの毒で貴方を不能にすれば、その穢れを放てなくなるでしょう?」


 アカンサはこれ以上にない良い顔で俺を見つめる。当然、容認できない要求に俺はお断りさせていただくことにした。


「遠慮しておくよ。それは最終手段だ」


 アカンサは俺の言葉を聞くと再び妖艶な笑みを浮かべた。毒花と恐れられる彼女だが、見た目は美しい少女なのでこういう顔をされるとドキッとするのだが、こいつは善良な人間にも最も効率が良いと判断すれば毒を盛る女だ。油断してはいけない。


「アクイラならそう言うと思いましたわ。でしたらあたくしからの依頼をお受けしませんか?」


 依頼? またろくでもないことなんだろうなぁ。俺が不満そうな顔をすると彼女は笑う。


「場所は北方の地アスカリ。そこで貴方には変死事件の捜査をして頂きたいのですわ」

「変死事件?」


 アカンサは頷く。


「ええ、最近アスカリの街で奇妙な死体が発見されていますの」


 俺はその話を聞いて興味を持った。それはどんな死体なんだ? 俺が尋ねると彼女は答える。


「それがですね、まるで衣服だけ残して、身体が灰になって亡くなられているんです」


 俺とルーナはその話を聞いて驚く。その変死体の死に方は、ルーナの両親と同じ死に方だ。


「アカンサ、その死体の詳細は?」


 俺が質問すると彼女は答えた。


「ええ、被害者は全員既婚者で年齢は20代から40歳とバラバラですが共通点が一つだけあります」


 俺はその共通点について尋ねた。


「それはなんだ?」

「全員が他種族と婚姻していますわ」


 他種族との婚姻。深い山岳地帯には竜人族や森の奥にエルフ族と獣人族、妖精族やドワーフなど人前に出てこないだけで多種多様な種族が存在し、広義で言えば亜型魔獣も他種族だ。知能が高く人語を理解できるかどうかで区別されている。そういう意味では魔族も他種族だな。


「他種族と婚姻している者を殺す…………か」


 俺はルーナの顔をよく見る。そう考えれば、彼女はカイラさんやカイラさんと一緒にいたエルフ族と混じっても違和感はない。むしろ、人耳なだけでルーナは…………。


「アクイラ、どうしたの?」


 ルーナが俺の顔を見る。俺は彼女の頭を優しく撫でた。


「いや、何でもない」


 俺はアカンサに話の続きを話すよう促した。


「この変死事件は最近アスカリで発生しているのですが、ルナリスや、テミスと違ってアスカリは他種族が特に多い地です。これからも被害は広がりますわ」


 俺はアカンサの話を聞きながら考える。確かにこのまま放置すれば被害者は増えていくだろう。それに…………俺の隣に座るルーナは行く気満々だ。


 俺が行かないと言っても、行くかもしれない。なぜならその事件の首謀者はルーナの両親の敵である可能性が高いからだ。

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