世界のひと掬い

望月(もちつき)

世界のひと掬い

自転車を停めた時、足元にアリがいるのに気づいた初夏

滞る春の中に、夏の始まりが訪れていて、頬に生ぬるい風があたる


このまま、少し遠くへ行ってしまおうか。


アリは4匹いた

2匹で一緒に前足を使いながら、大きくて白いものを運んでいる


アリを見て、涙が出そうになったのはいつ以来だろう

今さっき、轢いていたかもしれない、踏みつけていたかもしれない


実体があったのに、気づかない死


もうしばらく、ここで見ていよう。


蟻の1km は わたしにとって おそらく 5cm

巨人の足をすり抜けて、せっせと運ぶ

わたしが感じた夏風を彼らからは、感じない


やめよう、わたしはわたしの人生。アリはアリのアリ生。


わたしも人間よりも、もっと大きな時限のもの、にとっては

たぶんアリ程度のものだろうね


実体があるのに、気づかれない生


そのアリに泣けたのは

そこに

やさしさ が

あったから

かな


なにかを見守ってくれる

なにかを

遠くに見つけられたみたい

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世界のひと掬い 望月(もちつき) @komochizuki

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