学園の王子様な幼馴染(♀)は誰よりもお姫様

ノーブレーキ熱海

学園の王子様な幼馴染(♀)は誰よりもお姫様

「キャーーー!レイ様おはようございます!!」

「今日も素敵です、レイ様!」

「レイ様こっち向いてー!」


 学園に着くと、いつも聞こえる黄色い声。

 その黄色い声は勿論俺に向かっている……訳もなく。


「おはよう、お嬢さん方」


 黄色い声に向かって微笑みながら手を振り、挨拶をしているのは愛沢麗あいざわれい、俺の幼馴染だ。

 その名の通り麗しい顔面、すらっとしたスレンダーな体型、肩に届かないショートに整えられた髪、誰彼問わず公平に優しい性格、一人称は「ボク」、キザな言い回しと、学園の王子様として知らない女子はいない。

 女子達曰く「某歌劇団の学校に行かなかったのが勿体なすぎる、世界を取れた逸材」だそう。

 俺にとっては家が隣なだけではなく、お互いの母親が親友同士という、幼馴染になるべくしてなったと言っても過言ではない存在だ。

 挨拶をするだけで倍増する黄色い声の中、下駄箱に向かう。


「毎度毎度飽きないもんかねぇ?朝っぱらからやかましくてしょうがない」

「こらこら、メグはそういう憎まれ口をすぐに叩くのがいけないんだ。それじゃあボクみたいに可愛い女の子にモテないよ?」

「へっ、うっせーよ。言ってろ」


 麗には「メグ」と呼ばせているが、俺の名前は中谷恵なかたにめぐみ

 ちょっと女の子っぽい名前なのは地味にコンプレックスだったりする。

 いつものように他愛のない会話を繰り広げながら教室へ向かう。

 俺の秘めたる思いなんて、こいつは知らないんだろうな。

 小学生の頃からずっと続いている、いつもの登校する光景。

 俺は、そんないつもの当たり前の光景を好ましく思っている。





 そんなこんなで授業が始まった。

 1限目は体育だ。

 今日は体育館でバスケが行われている。

 2クラス合同で行うため、男子女子に分かれて4チームづつチーム分けされて2つのコートで試合をしている。

 そして俺は現在、待機中。

 麗はちょうど試合中なので、ぼけーっと女子の試合を観戦することにした。


「レイくんすごーい!」

「ふふっ、キミのパスがよかったから決められただけだよ」


 鮮やかなレイアップシュートを決めた麗が、他の女子達に持て囃されている。

 俺も177cmと背は若干高めではあるが、麗も俺と目線が変わらないほど高く、そして運動神経も抜群だ。

 正直、女子だけで試合をする場合は無双状態と言ってもいいだろう。

 しかし、麗はワンマンで試合をするでもなく、他の女子達に定期的にパスを出している。

 こういうことをさらっと出来るからこそ、学園の王子様なんだろうな。


 と、そんなことを考えていたら、また麗がゴールを決めている。

 麗は周りを見渡し、俺と目が合うとウインクをしながらピースサインをする。

 仕方がないので、俺も苦笑しながらサムズアップをして返す。


 その光景を見ていた一部の女子達から腐った目線を浴びているのは気のせいだと思っておこう。

 いや、流石に俺が左側だよね?

 一体全体何のことだか、ぼかぁさっぱり分からないけれども。





 授業も進み、昼休みになった。

 いつものように席を立ち上がり、カバンを持って教室を出る。

 すると、麗が俺の隣にやって来る。

 2人で今日の授業についてあーでもないこーでもないと話しながら屋上を目指す。

 うちの学園は珍しく、屋上が完全開放されている。

 屋上にテーブルと椅子、そして色とりどりの花が植えられたガーデニングゾーンとなっており、昼食を取るのにうってつけの場所だ。

 いつもの席に座ると、麗がカバンから弁当箱を2つ取り出した。


「はい、今日のメグの分」

「ありがとな、おばさんにもよろしく伝えてくれ」

「いいっていいって、どうせ明日はボクがメグんとこのおばさんから作ってもらう訳だし」


 弁当は一人前作るのも二人前作るのも変わらないと俺と麗の母親達は言っており、自分達が楽をしたいということで日替わりで弁当を作ってくれている。

 今日は麗のお母さんの日、ということだ。

 弁当箱の蓋を開けると、数種類のサンドウィッチが所狭しと詰められており、そのうちの1つを口に運ぶ。


「うん、やっぱ美味い」

「今日はボクのリクエストなんだ、たまにはお米じゃなくてこっちもいいでしょ?」

「そうだなぁ、今日みたいにピクニック日和な天気だと、尚のことな」


 そんな緩い会話をしながらサンドウィッチを食べ進めていく。

 しかし、麗はあまり手が進んではいないようにも見える。

 チラチラと俺の弁当箱と俺の表情を見ている。

 どうしてだろうと思っていたが、1つのサンドウィッチの具を見て分かった。


「ん?これもしかしてチキン南蛮か?」

「そ、そうみたいだね、メグは好きだと思ったけど違ったかな?」

「いや?単純にチキン南蛮のサンドなんて食べたことなかったから聞いてみただけだ。普通に考えてチキンにタルタルがついてて合わない訳ないけどな」

「じゃ、じゃあ先に食べてみてよ!」

「俺のこと毒見役とでも思ってんの?しかたねぇなぁ」


 パンとパンの間に、食べやすく千切られたレタスと、チキン南蛮が挟まっている。

 迷うことなく俺はかぶりついて、目を閉じて味を感じながら咀嚼し、嚥下した。


「うんっっっま」

「本当かい?それなら良かったよ。じゃあボクも食べるとするよ」

「『じゃあ』ってなんだよ。いや、普通にうめーし、なんならサンドウィッチのときは毎回食いたいレベルだったわ」

「そ、そそそうなんだね、それは良かったよ!あっ、お茶飲む?」

「おう、ほんならもらおっかな」


 何だかいつものような余裕を感じられない気もするが、麗は満面の笑みを浮かべている。

 麗にもそんな日があるのだろう。

 いつもの場所で、いつものように昼食の時間が過ぎていく。

 こんな日々が永遠に続けばいいのにと思ってしまう俺は女々しいのだろうか。





 放課後になった。

 今日は麗が用事があるとのことで、別々の帰宅となった。

 特に用事もなかったが、暇つぶしに本屋へと立ち寄り、適当に面白そうな漫画を数冊購入し、自宅へ帰った。

 母さんにただいまの挨拶を軽くして、2階の自室へ向かい、扉を開くとベッドの上で寝息を立てている麗の姿が目に入った。


「レイー?寝てるのかー?」


 俺の声は虚しく部屋に響き渡る。

 こういうことはたまにあるんだが、本当にやめて欲しい。

 俺も男子高校生だし、もちろん、そういうことには興味津々であるし、気付いた頃には思いを寄せている相手だ。

 深いため息を吐き、これからどうするかを考える。


「レイ、起きろー、帰ってきたぞー」


 声をかけながら麗の身体を揺する。

 考えた結果、俺は素直に起こすことにした。

 別にチキンな訳ではなく、とりあえず起こさなければならないしな、仕方ない仕方ない。

 だが、深く寝入っているのか中々目を覚まさない。


「起きろよレイー、ほっぺたグニグニするぞー」


 と、言いながら、既に頬を人差し指でグニグニする。

 すると、麗は頬を上気させながら、目を軽く開いた。


「起きてるよー」

「寝てただろうが」

「ふふっ、それはどうかな?」

「寝たフリだったってのか?」

「なーいしょ」

「やかましいわボケ!」


 何が「なーいしょ」だ?こいつ可愛いかよ。

 思わず悪態をついてしまったことを心の奥底で反省していると、麗は両手を広げてこっちを見ている。


「ほら、起こしてよ」


 寝起き特有の甘い雰囲気にこのセリフ。

 男子高校生の劣情をナメているとしか思えない。

 流石の俺も堪忍袋の尾が切れた。


「あのさぁ、いくらなんでもそれはないんじゃないか?」

「何を言っているんだい?いいから早く起こしてくれよ」

「一応言っとくけどな、俺はこれでも男だぞ?そういうことを軽々しくするのはよくねーよ」


 すると、麗は少し淋しげな表情になり、遠い目をしながら腕を下ろした。


「ふふっ、メグでもボクを女の子扱いすることがあるんだね」


 そう言いながら、麗は身体を自ら起こした。

 こんな麗の表情は見たことがない。

 ここの返答次第で麗との関係が変わってしまう気がした。

 変わってしまうならば、それならば、俺はこうするしかない。

 覚悟を決め、麗と目線を合わせるため、俺もベッドに腰掛けた。


「は?何言ってるんだよお前は。俺の中では子供の頃から幼馴染の可愛い女の子だぞ」


 俺の言葉を聞いた麗は、何を言っているのか分からないような顔になり、意味を理解したのか、未だかつてない程に赤面し始めた。


「えっ?ボクに可愛いって?いやいやいや、メグの中ではボクはただの同性の幼馴染みたいなものでしょう?」

「んなこたねーよアホ!この際だから言わせてもらうけどなぁ!気付いた頃にはもうレイの事が好きになってたんだよ!初恋だよバカ!ずっとずっと好きだったんだぞ!!」

「ウソだよ!いくら幼馴染とは言え、ボクみたいな男女、好きになるなんておかしいでしょ!前にテレビ見てるときにアイドルの娘に可愛いって言ってたじゃないか!」

「そりゃあ世間一般的に見て可愛いって思ったから言ったまでだよ!俺の中ではお前が一番可愛いって思ってる!」

「ウソばっかり!じゃあ証拠を見せてよ証拠を!!」


 まるで小学生の喧嘩のように証拠の提出を求められ、俺は無言になってしまう。

 一応あるにはあるんだが、これを見せて引かれたりしないか?

 俺は目を泳がせながら葛藤する。


「ほら!証拠なんてないじゃないか!ボクを揶揄いたかっただけなんだろう?いくらメグでも、流石に怒るからね?」


 珍しく麗が半泣きになっている。

 ここまで言わせてしまったんだ、俺も腹を括ることにした。


「分かった。証拠になりそうなものはマジである。あるにはあるんだが、これを見せるからには信じてほしい。あと、このことは他言無用で頼む」

「珍しく歯切れが悪いじゃないか。分かったよ、誰にも言わないから見せてもらうよ」


 俺はため息とも深呼吸とも取れる息遣いで、スマホを操作していく。

 目的のものが見つかったため、そのままスマホを麗に渡した。


「これを見ろ。言っとくけど、もうこれで俺には失うものはなくなったからな?」


 麗は疑いながら、俺のスマホを見始めた。

 表示されているものに気付いたのか、顔どころか耳まで赤くして人差し指を下から上へ動かしている。

 体感で無限とも思える時間が過ぎた後、人差し指の動きが止まり、スマホをポロリと落とした。


「な、ななな何だよこれはー!!!」

「見たら分かるだろ?俺のアカウントでのAVの購入履歴だ。」

「そ、それぐらいはボクでも分かっているよ!こ、こ、これはあ、あまりにも……」

「なんだよ?『ボーイッシュでイケメンな女友達が台風の夜に帰れなくなった』か?それとも『ちっぱいパラダイス』のとか?それとも『高身長モデル体型美女との甘い夜』か?」

「わざわざタイトルを読み上げなくてもいいから!!!」

「じゃあなんだ?何が不満なんだ?」

「別に不満がある訳じゃあないけれど……」

「ないけれど?」

「嬉しいような、嬉しくないような、何だか複雑な気分だよ」


 そう言い、麗は顔を下げた。

 何故そう思っているのか、考えてみれば簡単に分かることだった。

 自分のような容姿の女性で、自分を思い浮かべながら欲望を発散していた幼馴染がいたのだ。

 気持ち悪くても仕方ないだろう。


「ごめんな、レイ。気持ち悪かっただろ」

「えっ?べ、別にそこまでは」

「お前は優しいな、軽蔑してくれてもいいから」

「いいんだって!ボクが無理やり証拠を見せてくれって言ったから……」

「これから今まで通りの関係ではいられないと思っちまったから、最後にこれだけ言わせてくれ」

「最後なんて言わないでくれよ……」

「レイ、俺はお前が好きだ。ずっと好きだった。出来れば幼馴染という関係から、一歩先の関係になりたい、俺と付き合ってくれないか?」


 麗は俺から目を外し、窓の外を見ながら何かを考えているようだ。

 すると、決意を固めた表情でこちらを向き、真剣に語り始めた。


「……いくつか条件がある」

「何でも言ってくれ」

「まずは1つ、ボク以外の女の子に鼻の下を伸ばさないこと。もちろんそういうビデオとかと見ないでくれ」

「約束しよう」

「そしてもう1つ、もっともっともーっとボクのことを女の子として扱うこと」

「むしろ今までは女の子扱いされるのが嫌かと思ってた、悪かった」

「最後に、ボクこう見えて結構重い女だからね?絶対お嫁さんにしてくれないとダメだからね?」

「そっかー、ちょっと待てよ?うーーん……」

「ここまでボクに言わせておいてここで悩むの?信じられない!」


 今にも涙が溢れそうな顔で、麗は俺の枕を投げつけてきた。


「いや、違うんだ。今決心した、頼むから聞いてくれ」

「何?言い訳なら聞きたくないよ?」

「俺の、という2人の人生設計だからちょっと考えさせてもらった。お前の誕生日って来月だろ?」

「そうだけど、それが?」

「誕生日になったら籍を入れよう。俺と結婚してくれ」

「ほ、本当に言ってる?」

「こんな大事なことでウソなんてつかねぇよ。その、なんだ、一緒に住むとかは大学に入ったらってことになりそうだけど、俺はお前以外と歩む人生なんて考えられないんだ。だから、俺だけのお嫁さんになってください」

「……っ、ぐすっ……うわぁーん!!」


 大声で泣きながら、麗は俺の胸に顔と手を当ててきた。

 どうしたらいいか分からなかったが、そっと両手を麗の背中に置き、背中をとんっとんっと軽く叩く。

 麗が泣き止むまで、ずっと叩き続けた。

 しばらく経った後、麗は顔を上げた。


「ねぇ、メグ」

「なんだ?」

もね、本当はずっと前からメグのこと好きだったんだ」

「そっか、なんか嬉しいな」

「でも、私って他の子と違って全然女の子らしく振る舞えなかったし、身体も女の子らしい成長しなかったしでね」

「こういう言い方するのもアレだけど、俺はレイを好きになったから俺の癖もレイ仕様になったから気にすんな」

「メグは私のこと好きにならないだろうなって諦めてたの」

「勝手に諦めんなよバーカ」


 背中に置いていた右手で、麗の頬を触る。

 親指で、涙を軽く拭き取った。

 そしてそのまま、目を閉じて麗の唇を奪った。

 目を開けると、そこには幸せそうに笑うが顔の赤い、お姫様がいた。


「やっぱり可愛いな、レイは」

「……もう一回言って」

「可愛いよ、レイ」

「もう一回」

「可愛いぞ」

「もう一回!」

「世界一可愛いよ」

「もう一回!!!」


 バカップル全開なやり取りは、その後2時間程続いた。

















 20◯◯/△△/××


 今日!!ついに!!!

 メグと付き合うことができた♡♡♡

 付き合うどころかお嫁さんにしてくれるって約束まで♡

 何回も何回もキスしちゃったし可愛いって言ってもらったし最高の日だった♡♡♡♡♡♡♡

 しかも、今日ワタシが作ったサンドウィッチも一生食べたいって褒めてくれたし♡♡

 ああああ好き♡メグ好き♡♡


 今まで頑張ってきたのが報われた!!


 メグって実はめちゃくちゃモテるから、本当に大変だった……

 でも、メグに行かずにワタシに来るように、本当はやりたくない王子様ポジにならなきゃいけなかったし……


 でも結果オーライ!!!


 メグは来月結婚してくれるって言ってるし♡♡

 はぁ、来月からワタシの名前は中谷麗になるんだぁ……♡

 嬉し過ぎてどうにかなっちゃいそう♡


 あともうひとつ!忘れちゃいけないのが!

 メグがワタシそっくりの女優のAV観てたこと♡♡♡

 いっつもワタシのこと思いながらシてくれてたのかな?

 だったら一緒だね♡♡

 ああああああもおおおメグ好きメグ好きメグ好きぃ♡♡♡♡♡




 謎の日記より、一部抜粋

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