待ち構える幼馴染たち
「あれ……?」
正門の両端に、女の子が一人ずつ待機しているのが見えた。向かって右側に見えるのが千佳、その向かい側に立っているのが星宮さんである。特にお話をしているという雰囲気でもない。
「何というか、ラスボス前のセーブポイントみたいですね……」
「言いたいことは分かるけどさ……」
それにしても、二人とも何をしているのだろう。先に帰るように言っておいたし、坂島はもういないし……。
「遅い」
なんて思っていると、千佳が頬を膨らませるのであった。
「遅いって言われても……」
「他の女の子に
「現を抜かしてたつもりはないんだけどな」
大体、僕が他の女の子に現を抜かしていたところで、千佳に何のデメリットがあるというのだろう。
「雫も待っててくれてたの?」
「だって、穂香が男の人と二人きりになんてなるから……」
「何でそんな僕のこと睨むような目をしてるんだ?」
どうやらというか、やはりというか、星宮さんは穂香に執着しているきらいがある。
「ふーん……」
その複雑に絡み合った矢印を眺めるかのように視線で舐めながら、穂香は口角をあげ、そして、挑発するかのように口を開いた。
「幼馴染キャラって、恋愛漫画とかだと負けフラグですよね?」
「……そんなことないもん」
「何言ってるの穂香。むしろ幼馴染の方が付き合いが長い分、ぽっと出の男なんかよりも……」
対して、千佳はまた拗ねたように反論し、何故か星宮さんまで焦るかのように口を開くのである。
……それにしても、何で急に恋愛漫画についての話が出てきたのだろう。もしかしたら、僕の知らない流行りの恋愛漫画があって、その漫画の中のネタにちなんだ会話でもしているのだろうか。
「恋愛漫画はあまり詳しくないからな……」
気が付けばふと口についている。
有名どころの漫画ならクイズにも出るのでジャンル問わず触れているのだが、それでもやはり穴はある。高校生一人の時間と財力には限りがあるからだ。本来なら、クイズに出題されうる事項全てを生きた知識として摂取しておきたいところではあるが、どうしてもクイズのためだけの知識に終始してしまっている部分があることは否めない。
なんて思いながら口についた言葉であったが、その言葉が穂香の何かしらの感性に触れたらしい。
「真先輩も恋愛漫画に興味があるのですか!?」
穂香はやはり僕との距離を二十センチくらいのところまで狭めていた。
「興味がないことはないが……、なんでそんな急にぐいぐい来るんだ穂香?」
相変わらず距離感がバグっている穂香を前に
すると、穂香はまた一歩二歩とこちらに迫りながら、あからさまな興奮を見せるのであった。
「だって、真先輩の恋愛観とか恋愛観とか、それに恋愛観とかには興味があるじゃないですか!」
「恋愛観しかないじゃねえか!」
夕日に照らされた真紅の右眼が、ぐるりと光を反射したのが見えた気がした。
「それで、真先輩はどんな恋愛漫画が好みなんです? ちなみにわたしのお薦めは先輩後輩ものです」
校門のフェンス際で、穂香は図らずも早口でまくし立ててくる。
「特に、どんな作品が好みとかはないかな……。クイズでよく聞く作品に触れることは結構あるけど、大体面白いって思うから」
そりゃそうである。
一部例外を除き、クイズでよく出されるような作品は、恋愛漫画に限らず名作ばかりなのだ。
「真はクイズから興味を持つタイプの変態だから……」
「誰が変態だ」
「後輩の女の子を気安く下の名前で呼ぶような真は変態で十分」
そして、何故だかまた千佳が機嫌を損ねるのであった。
「やっぱり速水先輩は穂香のことを狙っている。私が何とかしないと……」
「違うからな」
ついでに、星宮さんも何やら薄暗く呟いていた。
結論、女の子は難しい。
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