青空とレモネード

白石多江

青空

    このせまい場所をそっと歩いて下さい

    豊饒な広い土地も

    このエメラルドの光が囲む

    この胸ほど広くはない

        ――エミリー・ディキンスン



(1)


 それは、空から1個のレモンが落ちてきたようなものだった。僕はそれをつかんで手のひらの上に乗せる。でも、皮を剝くことは出来ない。ただ、手のひらの上の1個のレモンを見つめていることしか出来なかった。そして、そして……


     * * *


 僕たちの青春はそんなふうに過ぎていった。「そんなふうに」なんて書けば、読み手の誰もが戸惑ってしまうだろう。「そんなふうに」とは何だろう。それに、この手記を書いても読むのはきっと君だけだろう。君は僕の言葉をどう受け止めるだろうか。


 僕たちの過ごした時間を、「どんなふうに」と言うことは出来ない。僕は比喩が苦手だからだ。ただ、あったことをそうだったと書くことしか出来ない。文章を書く才能は、僕にはないだろう。これは不幸なこともでもあり、幸福なことでもあるだろうと思っている。


 僕が初めて君に会ったのは、平瀬川の河原でのことだった。君は土手に座って絵を描いていた。そのかたわらには、画材やらイーゼルやらが転がっていた。君はキャンバスを直接スカートの上に乗せて、その上に青や白の絵の具を乗せていった。


 僕は君のことが気になった、と書けば、それは本当でもあり嘘でもあるだろう。僕はその日は徹夜明けで、そのことが僕を寛大な気持ちにも大胆な気持ちにもさせていた。僕はふと君のことを目にとめた……それが「事実」だ。


 事実以外のことを書くのは難しい。僕は決して君に恋をしたわけではなかったし、それが僕たちの関係を「そんなふうに」と書かなくてはいけない理由でもある。ただ、しばらくの間僕は君の後ろに立って、君の描く絵を見つめていた。


 君の描く絵は変わっていた。そこには、空しか描かれていなかったのだ。


(空だけの絵?)


 と僕は思う。


(いやいや、まだ未完成なんだ)


 と僕は思い直した。しかし、実際には最初の勘のほうが当たっていた。君の描くキャンバスの下の部分は、布地が着色もされずにそのまま残されていた。後で知ったことだが、君はそんな絵ばかりを描いていたのだった。


 徹夜明けということもあり、疲れていた僕は君から2メートルくらい離れた場所に座りこんだ。そしてやがて、土手を枕にしてうたた寝をしていた。数分か十数分、くらいは眠ったのだろうか。


「ああ、もう。やってられない!」


 と、君は突然声を出した。僕は驚いて目を覚ます。何が起こったのか、誰に話しかけたのか、呆けた頭の中では即座に理解出来なかった。でも、それはどうやら僕を意識して発した言葉らしい、ということにはすぐに気がついた。


「邪魔しちゃった?」と、僕は君に声をかけた。


「違うの。集中出来ないのよ」――「空が青すぎて」


(意外なことを言う子だな)


 というのが僕の感想だった。君の言葉は、「太陽がまぶしすぎて殺人を犯した」と言った、ある小説の主人公のように唐突で理不尽なもののように思えた。「青空を描いているのなら、空が青すぎて困ることはないじゃないか」と、僕は思う。そして、


「空の絵を描いているんだろう?」


「そうよ。空の絵を描いているの」


「じゃあ、空が青かったら良いじゃないか」と、僕。


 君は僕の放った言葉に、なんだかあっけにとられたようだった。もちろん、それはそうだ。空を描いているのに、空が青くて具合が悪いはずがない。君が言ったのは、そういう意味ではなかったはずだ。いや、そういう心理からではなかったはずだ。君は何かの言い訳を求めたかったのだ。


 僕は君に近づいていって、その隣に座った。もちろん、普段はそんなことはしない。徹夜明けの大胆さが、僕にそうさせたことだ。それでも、君は僕を不快に思うような素振りは見せなかった。それだけ絵に集中していたのだろう。



(2)


 もちろん、戸外で絵を描いている画家なら、その絵を間近で見られることはよくあることなのかもしれない。それは同年代の人物のこともあれば、子供の場合もあり、老人が絵を覗き込む場合もあるだろう。そこにあるのは純粋に絵に対する興味であって、決してやましい思いではない。


 僕の場合もそうだった。僕は、君がなぜ空しか描いていないのか、なぜキャンバスの下の部分を地のままにしてあるのかが気になった。これから余白が埋められていくのだろうか。それなら、空は背景として良いかもしれない。でも、絵の具が混じりあってしまわないのだろうか。色がにじんでしまうのでは? とも絵の素人である僕は思った。


 だから、僕はわざと二番目に思いついた考えを元にして君に聞いてみた。


「なぜ、空以外の部分を余白にしているの?」


「わたしが『空』しか描かない画家だからよ」


 それが君の答えだった。君の言葉は毅然としていた。プロ意識のようなものが、そこにあったと言って良いかもしれない。


「空しか描かない?」


「そう」


「木や地面は描かないの?」


「家や建物も描かないわ。ただ、空とスカイラインだけを描くの。わたしの絵には余白が必要なの」


「でも、それじゃあ画面が淋しすぎるんじゃない?」


 君は笑った。


「空って言ってもね、色んな空があるの」


 僕は納得した。納得せざるを得なかった。それが画家の言葉だったからだ。僕は決して芸術家ではない。そして、芸術を理解することも出来ない。君だけのポリシー、君だけの戦略、そういったものがそこにはあるはずだった。いわゆる、ブランディングというものだ。


 君は何枚か描きかけの絵を見せてくれた。それは、川向こうのビルやマンションが余白になっているもの、河川敷の木が余白になっているものなど、必ず絵の具の塗られていない部分があった。しかし、それを実際の風景と見比べてみると、驚くほどの正確さで描かれているのが分かった。


 君の絵を見ると、そこにないものが、まさしく存在しているかのように見えるのだ。


 一面に雲が描かれている絵もあった。僕は尋ねてみる。


「これは何ていう雲?」


「さあ。高層雲かな。それとも……層積雲、かな? よく分からない」


「そっか。君は雲の専門家じゃないものね」


 やっと他愛のない話題を振ることが出来た、と僕は思う。


 眠気はいつしか吹き飛んでいた。そして、絵を描いている君の様子が気になり始める。なぜ、キャンバスを直接スカートの上に乗せて描いているのだろう。絵の具は服についてしまわないのだろうか。僕の視線を、君も敏感に受け止めたようだった。


「ああ、これ? 他に服はいくつもあるから。それに、街へ行く時にもこの格好をしていくわけじゃないし」


 実際、君のスカートやブラウスには、油絵の具がところどころにこびりついていた。絵を描く時専用の服であれば、スモッグなどのほうがふさわしいのではないか、とも僕は考えた。僕は今でも君の考えることがよく分からないが、それが君なりの無造作なやり方だったのかもしれない。その代わり、君の体からは淡いフレグランスの香りがしていた。


「やだなあ。こんな風に人と話すことって、滅多にないんだ、わたし。同居人を除いたらね……」


(同居人がいるのだ)と、僕は思った。君は「恋人」とは言わなかった。としたら、その同居人というのは女性なのかもしれない。ただ、それでも僕は君に対して恋愛感情のようなものは抱きそうにない、と考えていた。僕とはあまりにも生きる世界が違っていそうに思えたからだ。


「君の同居人っていうのは、家族?」


「違う。ルームメイト」


 僕はなぜだかほっとした。君が引きこもりではない、と感じられたからかもしれない。こんな性格では、多分家族の中からも浮いてしまっているだろう。他に君のことを受け止めてくれている人がいる、ということに僕は安堵を感じていた。



(3)


 そうこうしているうちに、君の絵はひと段落したようだった。


「あなた、これから暇?」


 と君が言う。僕はいぶかしんだ。徹夜明けで、今日これからの予定はない。しかし、初対面の僕をどこに誘おうと言うのだろう。僕に対して一目ぼれ、などということは君に限っては絶対なかった。現に、今も僕と君とは恋愛関係ではない。だとすれば……


「ちょっと、これを持ってくれる」


 と言って、君は君の横にころがっている、2つに割られたコンクリート・ブロックを指さした。僕は、ぎょっとした。しかし、それが何なのかはすぐに分かった。多分、斜面にイーゼルを立てる際に、その土台としてコンクリート・ブロックを使っているのだろう。そのことを君に問いただしてみると、僕の考えた通りだった。


「いつもは買い物袋に入れて来るんだけれどねえ……、今日は途中で破れちゃって」


 と、君は破れたビニル袋を僕に差し出してみせた。


(意外と体力勝負なんだな、画家というものは)


 と、僕はのんきに考える。


「つまり、それを僕に持ってほしいっていうこと?」


「そう。家まで運んでくれないかなあ。ちょっと困っていたところなんだ」


(それは困るだろう)と、僕は思う。君の荷物は何枚かのキャンバスにイーゼル、画材。それだけでも両手がふさがってしまう。コンクリート・ブロックを手に持つ余裕はないだろう。ビニル袋が必要であれば、近所のコンビニで買い物をすれば済む話だったが……。これも君の性格ゆえなのかもしれなかった。


(実はこの子は誰とでも親しく出来る人間なんじゃないか)


 僕はそんなふうに結論した。「それにしても、荷物持ちか」――と、僕は思う。


 徹夜明けの僕が両手にコンクリート・ブロックを抱えている、というのは見た目からしても間抜けな格好だった。それが、様々な画材を抱えた君の後をついていく。まるで、変質者が女性を撲殺しようとしてでもいるかのようだ、などと僕は妄想する。


 君の家は案外近くにあった。僕はほっとする。


「この川辺の風景が好きで、友達と引っ越してきたんだ」


 と、君は言う。


「せっかくだから、お茶でも飲んでいかない?」


 家を見ただけで辞すつもりでいた僕は、一瞬ためらった。それでも、君の誘いを断るのも悪いような気が僕はしていた。君がルームメイト以外と話すのは久しぶりなのだろう、なぜか僕にはそう思えた。


 君がルームメイトと住んでいるという部屋は、キッチンとダイニングを含めて3部屋あった。


(意外に広いんだな)と、僕は関心する。たしかに、自室をアトリエにするなら、それくらいの広さは必要なのかもしれなかった。僕は、ルームメイトというのもきっと画家なのだろう、と一人で想像していた。その想像が間違っていたことを、後で僕は知ることになるのだが……。


 ダイニングだけで遠慮するつもりでいたところを、君は僕を自室まで招き入れた。要するに、君のアトリエだ。そこには、キャンバスから外されて丸められた絵が何十枚とあって、大きな段ボール箱の中にしまわれていた。「絵っていうのは、こんなふうに取っておくものなんだ」と、僕は関心する。


 何よりも驚いたのは、壁にかけられている2枚の絵を見た時のことだ。それは、君と君のルームメイトの肖像画らしかった。君を描いたほうの絵は、つまり自画像というわけだ。それらの絵は写実的で、ところどころに印象派風の技巧が使われていた。当たり前のことなのに、「こんな絵も描けるんだ」と、僕は思ってしまう。


「これ、写真みたいだね?」と、僕は言う。


「ああ、それは昔に描いたものだから」と、君。


「今は空の絵だけを描いているの?」


「ほとんど、ね。他の絵も見てみる? いや、その前に紅茶だな。ちょっと待っていて」


 そう言って、君はキッチンへと立っていった。



(4)


「これは荷物持ちをしてくれたお礼」


 と言って君が差し出したのは、アッサムティーとレモン風味のチーズケーキだった。


「本当はルームメイトと食べようと思っていたんだけれど……まあ、許してくれるよね」


 そう言って、バツが悪そうに微笑んで見せた。部屋の中に1つだけあるガラス製のテーブルの上には、絵画雑誌やらデザイン関係の雑誌やらが雑然と置かれていて、僕は直接ティーカップを手渡された。君は、それらの雑誌を床の上に無造作に重ねていく。かろうじて、チーズケーキの皿と紅茶を置く部分だけが出来て、君はにっこりと微笑む。


「これは何の紅茶?」と僕は聞く。


「アッサムティー……安いから」と、君。


 僕は、正直悪いことを聞いてしまったような気になった。紅茶と言ってもいろいろな種類がある。その中でもアッサムティーはとくに安い。だいたいダージリンやセイロンティーの半額で買うことが出来る。紅茶に詳しくない僕は、ただ君の淹れてくれた紅茶を美味しいと思った。もちろん、その日は特別に疲れていたからかもしれないが。


(紅茶にチーズケーキ。案外普通の生活をしているんだな)と、僕は思った。


 君は、自分の描いた絵を時折画廊に売ることで生計を立てていた。それはわずかばかりの額にしかならなかったが、つつましい生活をしていくには足りた。その他に画廊を借り切って個展を開くこともあったが、レンタル料金や画材代くらいにしかならない、と君は説明してくれた。生活費で足りない分は、離れて暮らしている両親が仕送りで補ってくれている。


「絵って、買ってもらえたりするの?」と、僕は勝手なことを聞く。


「もちろん。それじゃなきゃ、画家なんていう職業はなりたたないでしょう。わたしはまだ駆け出しだけれどね……」


「君の絵をもう少し見せてくれないかなあ」と、僕。


 壁に掛けられているのは、先ほど見たのと同じような、ただ青空が描かれたシンプルな絵ばかりだった。そして部屋のあちこちにも、同じような絵が立てかけられている。「まだ描き切っていないものだろうか」と、僕は考える。


「そうね。以前に描いたものなら……」


 それは、「以前に描いたものなら完成している」という意味だったろう。君は、部屋の隅に置かれている段ボール箱に近づいていくと、そこから何枚かの絵を取り出し始めた。「青空しか描かない画家」という僕の想像を、それらは裏切るものだった。


 朝焼け、夕焼け、夜空。同じ昼空を描くにしても、青や白だけではない。時には群青、時には紫、時には緑の絵の具を使って、君は「空」という大きな題材を描き切っていた。スカイラインの下が余白になっていることは、どれも同じだったが、それぞれの絵にはそれぞれの個性があった。白い雲の間から雲間光が差し込んでいる絵もあった。それは天使の降臨のようにも感じられる。


「どう?」


「素敵だと思うよ」


「もう少し何か感想はないの?」


「君は『空』を描く画家として有名になるかもしれないね……」


「そうだと良いんだ。今は個性的な絵じゃないと売れないから」


 と、悩んだように君が答える。壁にかけられている二人の肖像画を見れば、君がその他の絵も描けることは間違いなかった。一時は抽象画に手を出したこともあるんだけれど、と君は言った。しかし、結局は「空」という題材に落ち着いた。「空」はいつでもそこにあり、「空」はいつでも変化している、というのが君にとっての理由だった。


「つまり、『空』は君にとっては手につかめないものの象徴っていうこと?」


 と、思い切って僕は尋ねてみる。君は、


「そうかなあ。そうかもしれないけれど……」


(何を悩んでいるのだろう)と、僕は思う。


「今は、『この絵はこの人間になら任せられる』っていう、そういうのが必要なの。そして、わたしは題材として『空』を選んだ。これは結果論でしかないんだ」


 そう言う君の声は、どこか淋しそうにも聞こえた。



(5)


 つまり、こういうことだろう。君は空を題材とした絵を描くようになった。すると、それが売れた。そうして、君は空を題材とした絵ばかりを欲されるようになった。顧客の要望には応えなければならない。それがプロとしての道だ。それがわずかの収入にしかならないとしても、君はプロとして絵を描いていかなくてはいけない。


「それじゃあ、本当は空を描くことは嫌いなの?」


「まさか。空の絵は好きだから描いている。嫌いだなんて、とんでもない」


「それじゃあ、どこに問題があるの?」


 僕は、手に持っていたチーズケーキの皿をテーブルに置いた。


「その……。やっぱり、もう少しお金がほしいなあって」


 俗な願いだと、僕は思った。しかし、それは君にとっては死活問題のはずだった。絵が売れなければ、生活費どころか画材を買うお金すらなくなってしまう。今はルームメイトと共同で生活しているから、家賃や光熱費は割り勘でなんとかなっている。しかし、それもいつまで続くのかは分からない。画家として自立出来るだけの収入が必要だった。


「プラスアルファが必要になってきているの」と、君。


「でも、空を題材にした写真集だってあるだろう? そういうのは結構売れているんじゃない?」


「絵になると、違ってしまうんだ。いくら綺麗に描いても、写実的に描いても、写真が提示してくるリアルさにはかなわない。だから、わたしは余白のある絵を描いている。余白をわざと残しておくことで、見た人のイメージを刺激するの。ここには何があるんだろう、って。それは最初に空の絵を描いた時からやっているんだ……」


「じゃあ、君は自分を貫いているんだね」


「ええ」


「余白に別のものを描いてみたらどう? 例えば花とか?」


「花? それはダメだ。空の下に花畑だなんて、ありふれているというより、おかしいよ。子供騙しの絵に見えてしまう」


「そうじゃなくって、一本だけ花を描いてみるんだ。そうすれば、十分な余白が残るだろう?」


「そうかな。そうかもしれないな。今度やってみようかしら?」


「僕のアイディアが君の助けになれば嬉しいよ」僕は言った。


「いや、今すぐにやってみる」と、君。


 君はまだ乾ききっていないキャンバスを取り上げると、そこに一本の花を描き加えていった。青空の下には、アパートやマンションなどのスカイラインが続いている。画面の3分の1ほどは、余白になっている。その中央下のあたりに、君はスミレの絵を描いていく。


「いや、違うなあ。こういうんじゃないかも」


 君はそう言って、別のキャンバスを取り上げる。今度は、余白の部分にヒナギクの絵を描き加える。それは僕の目から見ると、成功しているように見えた。青空の下に一本だけ咲くヒナギクの花が、まるで太陽のように見える。そして、余白ににじむように消えていく茎と葉。今にも消えてしまいそうな、時間の流れを感じさせる。


(良い出来だ)と、素人ながらに僕は思った。


 黄色いヒナギクの花を、空は丸く包み込むように取り囲んでいた。その絵には、たしかな中心があった。それが絵の中に没入するような感じを与えてくれる。さっき知り合ったばかりの僕が、君の絵を変えてしまったのだった。


「良いアイディアをありがとう。今まで思いつかなかったのが不思議なくらいだけれど……、このヒナギクの花は、余白の余白ね」


 君の言っていることの意味はよく分からなかったけれど、彼女の絵が変わったのはたしかだった。


 すると君は、立ち上がって壁にかかっている空の絵を、カッターで切り裂きはじめた。僕は驚いたけれど、芸術家の情熱というのはこういうものなのだろうか、とも冷静に考えていた。「これもダメ。これも今までと同じ」などと君はつぶやいている。ほっとしたことに、君は二人の肖像画にだけは手をつけなかった。没にしたのは、最近描いていた絵だけらしかった。


「わたし、本当のことを言うと、このごろスランプだったんだよね」君は言った。

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