表裏
灰塵
虫
終電をとうに送り出して行った駅のホームに立っていた。深夜の孤独感とイヤホンから流れてくる音楽だけが自分に寄り添ってくる。私は少しうざったくなってイヤホンを半ば投げ捨てるような形で外した。
「変わらないなこの駅も」「虫多いなあ」と、考えても意味のないような問答を繰り返しながら、なんだかんだ始発の電車が来るまでまであと1時間というところになった。ふと顔を上げると、三匹の虫が誘蛾灯の近くを離れず飛んでいることに気づいた。虫の多い田舎出身の自分にとってはなんてことない光景のはずだったが、どうにも気になって目が離せない。二匹の大きめの虫にくっつくように飛ぶ小さな一匹。そんな三匹を見るうちに自分の過去を思い出した。古い記憶だ。もう何年前のことだろうか。
「辛かったね」「一人で平気なの」思い出すのは黒い服を着た大人達の心配の声。電車での事故で二人の両親を失った自分にかけられたそんな声は、どこか遠く、自分とは違う世界の話をしているようにも思えた。そんな過去の記憶を思い返し鑑賞に浸っていると、三匹のうちの一匹、ひとまわり小さな体をした一匹が、他の二匹を押し出すように誘蛾灯に近づけた。二匹はバチバチっと音を鳴らしたのち、羽やら何やらを散らせながら落ちて行った。カンカンと音が鳴って電車が来た。小さな一匹はもう見当たらない。
電車はうっすら笑みを浮かべた彼を乗せ走り出した。
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