#1
食卓の中央に置かれた水晶玉。そして台所から運ばれてきた一対の包丁……。
ふと、忘れかけていた質問をぶつける。
「それは、私たちが行かなきゃいけないの?」
「……そうだ。二人で一人のお前達が二丁一振りのドラゴンキラーを使って竜を討伐する。向こうの世界でそうお告げが下された」
向こうの世界……。ちらりと雨月を見やる。雨月は私より少しだけ内向的で優しい性格だ。異世界転移なんてそうやすやすとは受け入れられないだろう。
「向こうの世界に行っている間、学校とかどうするの? 末裔って言ったくらいだから、時間の流れ方は一緒なんでしょう?」
確かに。曾々じいちゃんの妹が、なんて言っていたら時間の流れが大きく違うことが分かるけれど、お父さんは確かに妹の末裔って言った。戻ってこられるかすら分からないけど、浦島太郎状態になったら流石に困る。
「お父さんSFはあまり詳しくないのだが、出発前の時間に楔を打ち込んで、戻る時はその時間軸に戻すらしい。その時、向こうの世界での記憶や経験がどう残るかは分からないが……。それに巧くいけば夏休みの間に全て解決するかもしれないしな」
確かに今は七月の中旬、明後日には終業式という季節柄だが……。夏休みの四十日間で異世界のドラゴンを討伐せよとかクエスト難易度どうかしてるし、運営はゲームバランスを見直すべきだって非難囂々になるわ。ゲームじゃないけど。
「……私は、別にいいけど。晴日はどうする?」
「どうするもなにも、二人で行動するのが当たり前なんだから、私も行くわよ。雨月は私が守るんだから」
「……晴日、私よりゲーム弱いけどね」
「むむ?? 身体能力には自信があるけどぉ???」
まぁ、瞬間的な判断とかは運任せなところがあるから、ビデオゲームのみならず体育でやるバスケットの試合とかでも雨月に負ける時があるけどさ。
「だったら、雨月が作戦を立てて私が実行すれば最強じゃん?」
「晴日、いいこと言う。確かにそれはそう。お父さん、私たちならきっと大丈夫だよ」
「そうか。よく言ってくれた。向こうの世界から、さっきも言った爺さんの末裔で二十歳くらいの娘がこっちに来る。何でも空間魔法の使い手だとかで、お前達を転移させるために来るらしい。その準備に三日だか掛かるから、取り敢えず終業式には出られるな」
取り敢えず学校にはちゃんと行ってほしいというのが親心らしい。
「あんたたちが包丁持っていったら、うちの料理は味が落ちるだろうねぇ」
お母さんのしみじみとした声に驚く。うちの料理はどれだけ包丁の効果に頼りっきりなのかと心配になる。
「若い店員がいなくなるだけで、男性客も減るからのう。久々に老体にむち打って店に出るかのう」
おばあちゃんまでこれからの心配をしている。……とはいえ心配しているのは店のことであって、私たちには心配がないのだろうか?
「そうそう、母さんが短刀術を教えてやるから、明日から覚悟しておけ?」
母の声がぐっと低くなる。そうか……この包丁、武器なんだよね。どうりでうちには短い木刀がいくつもあるわけだ。みんな強盗対策だって言っていたけど……。
「修行だね。頑張る」
まぁ、雨月が乗り気なら、私も頑張るけどさ。
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