第10話 お茶会IN落研

 文化部棟の一室に落研と書かれた飾りが吊るされている。文化部棟というか旧校舎はわりとどこがどの部室か分かりにくいから、大げさなくらいの自己主張がむしろちょうどいい。


「こんにちはー」


 部室にはもう半数の部員が集まっていた。部員が揃うまで軽く大喜利なんかを挟みつつ、全員が揃ったところで部長からのお知らせが告げられた。


「驚かないでね、今度のりんりん学校の講演会にあの秋風亭降太師匠がいらっしゃるのよ!」

「え、あの名物司会者の!?」

「ずっと独身かと思いきや突然めっちゃ若い奥さんと結婚した!?」

「とんでもないお金持ちだとウワサのあの!?」

「ひょっとして県民だから来てくれるの!?」


 流石に驚かないでと言われてもそれは無理な相談だろう。

 日曜夕方の落語番組で視界を務める大物落語家が私立の女子校に講演会に来るなんて初耳もいいところだ。確かに、秋風亭降太師匠はこの県の出身でローカルCMとかでも姿を見ることがあるほどだ。縁のある人とはいえ……いやぁ、すごいな星花女子。


「落研としてはねぇ、なるべく全員りんりん学校に参加してほしいわけですよ」

「そりゃあ、プロの落語家の噺を聞く機会なんてめったにないからねぇ。え、講演会って……独演会とは違うわけでしょ? これまでの人生についてのスピーチとかそういうのじゃないの?」

「うーん、でもこれまでのりんりん学校でも、伝統文化のすごい人をお招きした講演会で、ちゃんと芸を見せてもらっていたらしいから、今回も落語が聞けるんじゃないかな? それに、落語家さんのフリートークっていうのも、とっても勉強になるんじゃないかな。人の心をつかむ話術として」


 言われてみればそれは確かに。落語家の語りとして厚みを増すには人生経験っていうのが大事なわけで、いろんな話を聞いているうちに少しずつ厚みが増すものだ。

 私が昔、病院で入院していた時に、他の入院患者のお爺さんたちが話していた落語が面白かったのも、きっと人生に厚みがあったからだろう。


「まぁ、帰省のタイミングとかもあるだろうし、学校の方針がそもそも強制じゃないからね。行きたい人だけでいいから。とはいえ、上級生としてはオススメしたいけどね。普通に楽しいし、学びにもなるし」


 そう言って部長はりんりん学校の話題を総括した。ここからは八月中旬――りんりん学校の後――に行う予定の訪問落語会の話題に移っていった。この前の連休にも行ったような落語会を、また老人ホームに行ってやるようだ。


「夏休み、かぁ」


 りなりーとの関係がどう変わるのか、ちょっとそわそわしちゃうなぁ。

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