第8話 発想を転換しよう

 りなりーと時間をずらしてお風呂に入るのはわりと珍しい。教室でも寮でもわりと四六時中一緒にいるなぁと再認識する。りなりーと四六時中一緒にいて襲わないんだから私ってかなり理性的なのでは? と自画自賛したくなる。

 服を脱いで籠にいれ、さっさと大浴場へ向かう。シャワーでさらっと汗を流すと、浴槽に入る。少しだけ熱さが落ち着いてきたお湯がすーっとしみ込んでくるような感覚になる。


「かじゅじゃん、りなりーとは別々って珍しいね。喧嘩でもした?」

「あ、なんだ。るっちか」

「いや、なんだは流石にヒドないか?」


 だらーっと脱力した私に声をかけてきたのは|小比類巻世知≪こひるいまき せしる≫だった。私と同じでおっぱい星人。春先にとうとう好きだった先輩と交際を始めたリア充だ。ちくせう。


「別に喧嘩はしてないよ。そもそも、りなりーが怒ったところ、見たことある?」

「うわぁ、ないね。部活でもいつもぽわぽわってしてるし。あんなにおっぱい揉まれても怒らないんだもん、現代の天使じゃね?」


 世知はりなりーの料理部仲間でもある。世知の恋人は実家民だから、お風呂の時はわりとルームメイトの小春ちゃんと一緒にいるのだが、どうやら彼女は彼女で、恋人さんと少し離れた場所でまったりしているようだ。

 それはさておき、確かにりなりーが怒った様子なんてこの数か月を一緒に過ごしていても見たことがない。天使ではないにせよ、心が広い。おっぱいと心の大きさは比例……する人もいるのだろう。きっとそれがりなりーだ。


「なんか最近、りなりーのこと好きすぎてやばいなって思って」

「は? なにそれ惚気ってわけじゃなさそうね。何よそんな深刻な顔して」

「だ、だって……あんな純粋なりなりーを性的100%の目で見るとか……人としてダメじゃない?」


 正直、世知相手だから言えたことだ。世知だって、先輩のこと―ー


「いや、私はわりと詩音先輩のこと性的に見てたし……。いいと思うけど」


 ……やっぱダメだった。言うんじゃなかった。


「ふぅん。りなりーだって、かじゅとだったら付き合ってもいいかなって思ってるんじゃない?」

「な、なにをそんなテキトー言いよってからに」

「別に適当に言ったつもりじゃないんだけどなぁ。彼女持ちの勘ってやつ?」


 ちくせふ、そんなところでマウント取ってくるんじゃないよ……。投げ飛ばすぞ、マジで。


「かじゅってネコ?」

「え、まぁ……タチネコで言えばネコ寄り……かも」

「じゃあ、りなりーを誘惑して、りなりーから既成事実を作るように振る舞えば?」


 ……なるほど、それは考えたことなかったかも。世知にしてはいいことをいう。押してダメなら引いてみろじゃないけど、発想の転換というやつだ。私が襲ってしまうのを我慢するのではなく、私が襲われるようにりなりーを誘惑する。うん、いいかも。


「分かった。頑張ってみる」

「うむ、応援してるぞ。夏休み明けにはダブルデートとかできたりして。いっそるっち達も誘ってトリプルデート?」


 ……女子六人のおでかけは流石に大変だろうに。

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