第3話 星花女子学園落語研究会 高座その2
さて、一呼吸おいて話を続ける。道具屋の店主のもとに、お武家様が戻ってきたところからだ。
「どうでした? 殿様、怒ってたでしょう? 買わないでしょう?
いや、まことに御意に召してな、お買い上げになる
え……ほんとですか!?
な、なんじゃ、気の抜けたような声を出して。で、いくらなら手放す?
へ? いくら……? いくら、というくらいだから、あぁた、いくらか、ということを聞きたいんで?
そう言っておろう。あぁ、言いそびれておるな。いやいや、このようなことを言うてはお上に対して申し訳ないが、商人というものは儲けるときに儲けておかんと後で損がいくからな。いいから、手いっぱい申せ
手いっぱい……ですか? じゃ、じゃぁ、こう?」
私はどこぞの寿司屋の大将みたいに両手を広げる。話はいよいよ大詰め、手いっぱいと言われ道具屋の店主は十万両と言うが当然それは高すぎる。お武家様との交渉で三百両で決着した。なんという逆オークションだろうか。
「三百金、渡すぞ。間違いの無いようになさ、まずは五十両じゃ!
へいぃ、ご、五十両
百両!
ひ、百両ぅぅっ!
百五十両!
ひ、ひ、ひゃくごじやうりやう!!
二百両じゃ!
にひやくりやうぅぅぅっ……ぅぅぅぅっ
|金子≪きんす≫を見て泣くでない。それ、二百五十両じゃ!
に……ひ、ひ、ひゃくぅごじゅううぅぅぅぅっ!! かぁ、す、すいません、水をいっぱい……
手数のかかる奴じゃな……それ、これを飲め」
このタイミングで私も水を飲む。これをやりたいがために、ペットボトルではなくわざわざ茶碗に水を入れていたのだ。ぐっと飲み干し、口元を手の甲で拭って再び話始める。
「こ、これで終わりですか
まだあるぞ。あと五十両 締めて、三百両じゃ!!
さんびやくりよううぅ!
これこれ、しっかりいたせ! そこの柱に掴まれ
こ、こ、こ、これ……ほ、ほんとうにあたくしがもらってっていいんでござんすか?
その方の商いによって得た金子じゃ。持って帰るがよい
ああ、そうですか……あ、あの、断っときますが、うちの店はくぅりんぐおふは受け付けておりませんが、よろしゅうございますか?」
唐突な現代語(クーリングオフ)の登場にお客さんたちが笑う。悩んだけどここは改変してよかったかも。
なにはともあれ太鼓を三百両で売った店主は、なぜそんな金額になるのかを尋ね、それが火焔太鼓と呼ばれる世に二つという名器だと知った。
それはさておき、金三百両を抱えて無事に店に戻ってきた店主。
「やい、こん畜生め! いま帰った! 儲かったぞ!!
なんだいお前さん、大きな声出して。いったいいくらで売ったって言うんだい
三百両さ!
この人は……なんでそういうウソをつくかねぇ。
こんにゃろう、ほんっとに三百両で売れたんだよ。ここに持ってんだ、おれは。懐が膨らんでんだろう?
ほんとに? うそなんだよ、どうせ。持ってるなら見せろ。早く見せろ、このバカ
バカァ!? このやろう……よーし、いま見せてやる! おれぁ、ここんとこに三百両並べてみせてやる! 目ぇかっぴらけよ! 五十両だ!
ま! お、お前さん、本当なの!?
ほんとなんだ、どうだ。そら、百両だ!
まぁ、百両だなんて……ヤダァ
ヤダァじゃねぇや、こん畜生め! そら、百五十両だ! ほれほれ、百五十両だ。どうだ
まぁ、百五十両だなんて、うぅ……嬉しくなっちゃうぅぅ。
おいおい、しっかりしろ、後ろの柱に掴まれ
え? こ、こうかい?
あ、それでいいや。いいか? それ、二百両だ!
はうぅ、お前さん、水を一杯飲ませておくれ!
なんでぇ、俺より早えじゃねぇか」
ここで最後の給水。ここから先はいよいよサゲ、いわゆるオチの部分だ。
「そら、二百と五十両だ!
あぁ、お前さん、商売上手!
へっ、さぁ、三百両だ!
まあ~ぁっ。それにしたって、よくあんな汚い太鼓が三百両で売れたねぇ。やっぱり音がしたから気が付いたんだねぇ
おうともよ、やっぱり鳴り物ってのはいいもんだな。おれぁ次も太鼓を仕入れるぜ。店先でドンと鳴らしてドンと儲けようじゃねぇか
お前さんねぇ……欲をかくとバチがあたるよ!!
お後がよろしいようで」
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