第74話 試験官登場

 その人は。

 宝石が装飾された神秘的なローブを身に纏っていた。

 

 召喚士サモナーに違いない。


 アクアマリン色のウェーブがかったボブヘア。

 それをハーフアップに結ってて。


 編み込むように飾り付けた蝶々柄のリボンがきらりと光ってる。


 オーラがすごい。

 なんとも言えない圧のようなものも感じる。


(スタイルを所持してるってことは、僕らと同じ高校生なんだろうけど)


 でも、ぜったい先輩だ。

 

 透き通るような碧眼に、切れ長の目元。

 肩幅あるグラマラスな体つきは、どことなく色っぽくて。


 自信に満ち溢れた気品ある仕草は、なんていうか、同学年の女子には出せない大人らしさがある。

 

 気づけば、手は汗でびっしょり。

 心なしか喉も乾いてくる。


 隣りを覗けば。

 レキハさんも僕と同じような反応で、目をぱちくりさせてた。


 バタン。


 ふたりの女の人がドアを閉めて。

 部屋の中へ足を踏み入れる。

 

 そのちょっとした間にレキハさんが小声で教えてくれた。


「(やっぱユイでしたよ、試験官~!)」


「(えっ)」


「(間近で見るとちょー美人さんでびっくりっ!)」


 この方が・・・ユイさん?


 受付嬢のお姉さんが前に出ると。

 一礼してから口にする。


「それでは、2028年度・7月期のライセンス試験を開始したいと思います。まずは、今回の試験を担当される試験官をご紹介したいと思います。こちら【神を斬獲せし誓いレインオブファイア】のユイ部隊長です」


「はじめまして。試験官を担当するユイだ」


 笑顔を見せて軽く挨拶するユイさん。

 僕もレキハさんもすぐに頭を下げて会釈する。


(天才的なカリスマって話だったから、なんとなく怖いイメージがあったんだけど)


 優雅なその立ち振る舞いからは、とても穏やかな印象を受ける。

 実はすごく優しい人なのかも。


「それでは、ユイ部隊長。あとのことはよろしくお願いいたします」


「ああ。滝沢さんもここまでありがとう」


 受付嬢のお姉さんが出て行くのを見届けると。

 ユイさんが口を開く。


「ふたりとも。改めて今日はよろしくな」


「はいっ! ぜひぜひお願いしまぁーす☆」


 元気に手を挙げてレキハさんが挨拶する。

 僕もそれに続いた。


「どうぞよろしくお願いします」


「うん。まずはふたりの個人情報を確認させてもらうよ」


 そう言いながら。

 ユイさんは、講義台の上に置かれたタブレットを操作する。


「まずは・・・あなたが神鹿しんろく壬雲みずのえぐもレキハさん」


「そぉーです♪」


「そっちの彼が閃光の最終旋律エデンくん」


「は、はいっ・・・」


 まさかユーザ名で点呼されるって思ってなかったから。

 なんとなくちょっと恥ずかしい。


「ふたりの学年は・・・あぁ。やっぱり1年か。パッと見で若いと思ったからある意味納得なんだけど。ちょっと驚きだね」


「ユイ――いえ、ユイ先輩はっ! たしか高3でしたよねっ?」


「なんだ。あたしのこと知ってたんだ」


「もちろんですよ~♪ ちょー有名人じゃないですか!」


「ふふ。神鹿壬雲さんは元気でいいね」


「よく言われまぁーす♪」


 思ったとおり、レキハさんはコミュ力が高い。

 

 僕なんか人見知りだから。

 こういうとき、なに話せばいいのか緊張しちゃうんだよね。


「実はね。高1でライセンス試験を受験する者は、過去の例を見てもほとんどいないんだ。しかも今回はふたり同時。かなり珍しいんだよ」


「へぇ~。そーだったんですね。なんか意外ですっ」


「それで、っと・・・あれ? ふたりとも今日は愛知県のT市から来たんだ?」


 え?

 レキハさんも愛知から来たの?


 それにT市って・・・。


「しかも同じ高校じゃないか。なんだ。ふたりはクラスメイトだったんだね」


 その瞬間。

 僕たちはお互いに顔を見合わせた。

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